#5
歓迎の宴も終わり、自室に戻る。
色々と疲れたので寝間着に着替えて寝ようとした所で、ドアをノックされた。
「トオル様、クリスですがまだ起きてますでしょうか?」
「クリス?良いけど、どうかした?」
「先程の魔法について…ちょっと」
「わかった、どうぞ」
「ありがとうございます、失礼致します」
デスクに備え付けの椅子をクリスに座らせ、自分はベッドに腰掛ける。
『先程の魔法』と言うといわゆる『無詠唱』での事だろう。
ある意味、日本人はラノベやら何やらで下地が出来ているんだろうと推測。
科学/化学も発達しているので、炎や氷に関しても理解している、と。
「先程の魔法ですが」
「…う、うん」
「いきなりあれだけのレベルの魔法を、しかも無詠唱で出来る魔術師が今まではいませんでした。それをトオル様が行ってしまったので筆頭宮廷魔術師を遥かに越えてしまいました。もはや『賢者』と呼んでも差し支えないかもしれません。……もちろんトオル様が良ければ、ですが」
「早い早い、そんなに早く捲し立てないで」
しかも距離も近い。ええ匂いだ~。
「……失礼致しました。我ながら興奮していた様です」
「…しかし、賢者ねぇ。俺んとこじゃこれ位は誰もが知ってる事だから、沢山来たら皆が賢者になっちまうなぁ」
「………えっ??」
「いやね、この世界と比べるのも悪いんだけど、俺がいた世界は科学技術が発達していて、魔法は無いけどある意味それに近いモノは沢山あるんだわ」
「例えば…遠くの場所にいる者と時間差無しで会話出来る道具とか、人や景色をそのままの姿を切り取ったかの様な道具、人が乗って空を飛ぶ道具に星の世界に飛び出せる道具とか、まだ数え切れない程のモノがある」
「だから、クリス。俺は賢者ではないんだ。どこにでも居る平民なんだよ」
「……トオル様」
「まぁ、こうやって呼ばれた以上は魔王を倒さないとダメなんだろうから頑張るけどさ」
「……トオル様」
「ちゃんと倒したら、俺…帰れるんだよね?」
「それは、大丈夫です。過去の文献にも倒した勇者は帰って行ったと記載されてますので」
「そっか。まぁ帰れなくてもこっちでのんびり出来れば良いけどなぁ」
「いや、のんびり出来無さそうだな。魔王を倒す程の武力を放置する筈が無いし」
「下手すると殺されかねないな、新たな災いの元とか言われそうだ」
「………っ」
「…クリス、その反応だと、どこかに書いてあったんだろ?」
「え、いや、その……」
「別に怒りゃしないよ。実際にあった事なんだろうしな。よく考えれば解る。地位を求めたり力を求めたらそうなるだろうな」
「俺はやる事やったらさっさと帰るよ。地位も富も別にいらない」
「強いて言えば、可愛い恋人が欲しい位か、ははっ」
「で、話を戻そう。例えば炎の魔法を使う場合。炎の温度を上げていく事により、鉄を余裕で切断…この場合は『溶かす』って言った方が良いか。溶かす事が出来る。見ていてくれ。炎の『赤』が『黄色』『白』『青』の順に変わる。鋼は白い炎で溶かす事が出来る。青い炎の前では全てが無力になる」
指先から炎を出して実演する。
ナイフを白い炎で炙ると少しは持ちこたえたが、あっという間に溶けてしまった。
新しいのを貰わないと。
「逆に冷やすのだって同じ事。氷が出来る温度を理解してるから簡単」
部屋にあるコップに水を入れ、歓迎の宴でやった事と同じ事をする。
木製なので凍らせない程度にした。
「ね?そういう事を理解していれば、誰でも使えるんだ」
「……」
「あ、体を動かすのはあんまり得意じゃないんだよね……」
「……ぷっ」
「…クリス?」
「あははははっ。…もう、トオル様ったら」
「…なんだよ、俺の所はそこまで体を動かさなくても暮らしていける様になってるんだよ。そりゃ軍人もいるけど大した数じゃないし」
「あまりにもギャップが凄かったので驚きましたわ」
「……」
思わずジト目に。
「まぁ、何か鍛練も普通よりも凄くなるとか言ってたけど、どうなんだろ?本当にそうなんだか実感が湧かないと言うか…」
「文献にも載ってますが、いずれの勇者も彼の国では平民で平均的な体型だったそうです。それがこの世界で最強になったのでトオル様も問題ありませんわ」
「そっか。まぁ頑張るわ」
炎の色温度はそこまで細かくしてません。
あくまでも大体こんな感じかな程度です。
ナイフを溶かすのも同様です。スルーして下さい。