#4
ー夜ー
城のホールで俺の歓迎の宴が開催されている。
主役は一応俺という事にはなっているが、飾りな扱いとでも言うか……。
「……勇者殿、私は◯◯の領主で◯◯と申す。以後、見知りおきを」
というのが沢山あって、どこの誰だか全く区別がつかない。
そりゃそうだろ。
召還されて、その夜に歓迎の宴だ。
近くに居た人達の人間関係ですらマトモに把握してないのに、更に他の貴族までなんか解る訳がない。
それに根本的な問題として、この国の人達は所謂『白人系』の顔立ちなので区別がつき難いのもある。
クリスと俺の専属らしいメイド程度しかまだ覚えてない。
少し離れた場所で魔導師と団長が一緒にいて何やら会話しているのが見えた。
暫く貴族の挨拶が続いたがようやく終わった様で、精神的な疲労に襲われてしまった。
「やれやれ。こんな程度で音をあげていたら、魔物との闘いではどうなる事やら」
「まぁまぁ、仕方ないでしょうに。慣れてないのですからね」
二人がこちらに近付きながら声をかけてくる。
「いやぁ、元々はただの平民ですからね。あんまり慣れたいとも思いませんが」
「……あまり慣れたくないですか?」
「「姫様っ!?」」
若干、機嫌が悪そうな顔をしているクリスがいつの間にか近くに来ていた。
「そりゃ、ね。精神的に疲れるモノは正直なところ勘弁して貰いたいな」
「そうは言っても『勇者』として今後活動していく以上は、ある程度慣れて貰わないと困ります」
「……前向きに善処します」
「で、何しに来たの?」
「…………」
よく聞こえなかったけど、言いたい事は何となく理解出来たので追及はしなかった。
姫様だって人間だからなぁ。
そりゃ疲れる事もあるだろうさ。
「そっか、まぁ…クリスも大変だなぁ」
ぽんぽん
「…………あ」
急にクリスの顔が赤くなる。
しまったぁッ‼️後輩の女子にやるような感じでやってしまったッ‼️
落ち込んでたりするとクセで頭ぽんぽんやっちゃうんだよなぁ俺。
ちょっと廻りがザワつく。
『不敬だ‼️』
『けしからん‼️』
『俺もぽんぽんしたい』
……誰か欲望丸出しの奴居ないか?
「…あぁ、すまない。これはクセで、ついやってしまった」
「クセ…ですか?」
「あぁ、本当に申し訳ない」
「わかりました。赦します。………」
なんかボソッと聞こえた。
「で、本当の目的は?」
「ちょっとした魔法のレクチャーでも、と思いまして」
クリスは魔法使いでもある。
しかもそれなりの使い手らしい。
「レクチャー?どうやって?」
地球上では『魔法』が無いのでどうやって身に付けるのかが全く想像すら出来ない。
「簡単な事です。私の魔力をトオル様に流しますので、それを感じて貰えれば良いのです」
「えっ!?何それ怖い」
「いえいえ、全く問題無いですよ。別に体に悪影響がある訳ではありませんから」
「…ホント?なら良いけど」
「では、失礼しますね」
言うなりクリスはトオルに近付き、手を取り握る。
「わっ、ちょ、ちょっと!?」
しっかりと指を絡めた握り方と、初めて女子と手を握るという行為にトオルは慌てる。
「……問題ありません。こうする事によって相手の魔力をより感じる事が出来るのです」
そう言われてしまうと、もう何も言えなくなってしまう。
クリスの手は柔らかいなぁ等と考えていたら、手から『熱い』感覚が流れてきた。
「ク、クリス!?なんかきた!」
「それが魔力です。魔力は身体中を巡ります。そして、魔法とはイメージです。炎系は燃え盛る炎を、氷系なら凍てつく氷を、という形で自身のイメージを魔力で放出するのです」
「……魔法はイメージ?」
「はい、イメージです。火風水土が基本ですね。それ以外は応用になりますが、たまに新しい魔法が生み出される事もありますね」
イメージなら、何とかなるかも。
「………ライト」
ポッ
部屋の照明をイメージしてみた。
「「「えっ!?」」」
急に一部が明るくなったので注目を浴びる。
おっと、マズイマズイ。消えろ。
ポッ
「「「えっ!?」」」
また注目された。解せぬ。
「初めての魔法が『無詠唱』だと!?」
「流石は異世界から召還されただけの事はありますねぇ。面白い」
……あ~、やっちまったか?
「…もしかして、無詠唱って難易度が高かったりする?」
「いえ、そこまで高い訳ではありません。ですが魔力を理解してすぐの者がそう簡単に使いこなせる程でもないです」
「勇者殿、『ライト』自体は『汎用魔法』といって魔力がそれなりにある者なら誰でも使えるのだが、その……明るさがケタ違いに凄かった事だ。通常の『ライト』……ほら、こんな程度だ」
魔導師が説明しながら魔法を使ってみせた。
確かに俺の『ライト』とは明るさが違うな。
ランプ+α程度の明るさしかない。
そりゃ驚かれるわな。
でも、あれだな。
イメージなら地球世界は科学が発達しているから炎とか氷のイメージは湧きやすい。
「そういや、これ。だいぶ温くなってるから、ちょいと冷やしてみようかな」
手に持っていたグラスの中身(果実ジュース)が温くなり不味そうだったので、冷えるか試してみる。
金属製のグラスが冷えて白くなっていく。
「「「………」」」
三人の目が据わっている様な気がする。
また何かやらかしたか俺?