ロイの将来性
グエリーヌ侯爵の招待によって、ひとりの若い男性がやってきた。
銀色の金属質の鎧を着て、同じ金属と思われる小手をはめていて、腰には剣を下げている。
「このたびはお招きにあがり大変光栄でございます。空級のガロンと申します」
ガロンと名乗る若い男性は屋敷の前でとても礼儀正しいあいさつを侯爵におこなっていた。
俺はまだ子どもで勉強中だからと目こぼしされているだけで、本来はこの男性が見せている態度が正しい貴族への接し方だ。
バスターの等級は天級、星級、空級、雲級、山級、森級、土級の七段階あるという。
ガロンは上から三番目だからけっこうすごい人なんだと思う。
S級がトップ、A級、B級と続いて一番下がF級と考えたほうが個人的にはわかりやすいんだが。
「見てもらいたいのはこの少年だ」
「はあ」
ガロンは怪訝そうな顔で俺を見た。
そりゃどう見ても貴族とは思えない子どものなんだから、当然だろう。
だが、ここで質問をしてくるようなまねはしなかった。
「魔力量や剣の動きを見せてもらおうかな」
「ええ」
本邦初公開ならぬシャラント州初公開と意気込み、魔法を使う。
ベレンガリア様が用意してくれた魔法書で覚えたのものだ。
「漆黒の蹂躙者、禍々しき暗黒の斧を持ちて我に従え!」
「待て! 待て! 待て!」
魔力を練り上げると、とんでもなく焦った様子のガロンに制止されてしまう。
「そんな魔法、使ったらこのお屋敷が消し飛ぶぞ!?」
「え、そうなんですか?」
俺はきょとんとして聞き返す。
しょせん素人の生兵法みたいなもんだから、そんな大した威力にならないと思っていたんだが。
「じ、自覚ないのか……」
「俺がこのお屋敷をどうこうしようなんて、思うはずじゃないですか」
だからグエリーヌ侯爵が護衛代わりの執事たちがひかえているとはいえ、すぐ近くで待機しているのだ。
「私にはよく分からんが、ロイが使おうとした魔法は危険なのかね?」
「ええ、呪文といい、こめられた魔力といい、星級の力があると感じました」
あれって星級なのか。
魔法のランク、魔法使いの力を示すランクも冒険者と同じものが使われているんだよな。
「ロイが自覚なかったのは仕方ないとして、どこでそれを学んだのだ?」
「リア様が魔法書を用意してくださいました」
グエリーヌ侯爵の質問に正直に答えた。
調べたらすぐに分かることだろうしな。
「ふむ。そういえばいろいろ質問されたな。てっきり魔法を学びたくなったのだと思って買い与えたのだが、ロイに与えるためだったか」
侯爵は納得したようだった。
「いや、侯爵様、よろしいのですか……?」
「ロイに悪気はないことは分かっているし、過ぎたことを責めても仕方ない。ただし、ロイ。お前はこれから魔法を使う前に、まず魔法使いの下について学びなさい。無知は危険だ」
「はい、申し訳ありませんでした」
鷹揚な態度のグエリーヌ侯爵に俺は頭を下げてわびる。
大貴族だけあって、器が圧倒的にでかい人だった。
「侯爵様の感覚、よく分からねえ」
ガロンがぼそっとつぶやく。
彼が止めなかったら死んでいたかもしれないのだから、怒るほうが普通なんだろうな。
あいにくと侯爵は普通の人とは言えないし、おかげで俺は助かった。
「魔法はダメとして、次は剣の腕だな。まああれだけの魔力を身体強化に使えるなら、技術自体が大したことなくても何とでもなるもんだが、一応見せてくれるか?」
「はい」
俺は木刀を借りて魔力を込めて振り下ろす。
「っ!!」
ガロンは大きく目を見開いて絶句していた。
「どうでしょう?」
「み、見えなかった……そんな馬鹿なことが」
気のせいか彼の顔色が悪い。
汗をたっぷりかいているように見える。
もしかして俺ってけっこうやばいことをやっているのか?
いまにも卒倒しそうな先輩バスターの様子に、漠然と疑問を抱いた。
「どうなんだね?」
グエリーヌ侯爵はのんびりとたずねる。
この人はあまり驚いていないようだ。
豪胆なのか、それとも感覚が一般人とかけ離れているのか……。
「だ、大丈夫だと思います。将来は星級冒険者になる可能性を秘めた、逸材だと思います」
ガロンはあせりながら早口で答える。
「ほう、星級冒険者!」
グエリーヌ侯爵は初めて驚いた声を出す。
「星級となれば、功績次第で子爵を陛下より賜れるかもしれんぞ、ロイよ。そうなれば私としても鼻が高い。魔法書の件は先行投資としよう」
ものすごくうれしそうな表情だ。
自分が支援している人間が活躍すれば、それだけその貴族の見る目のたしかさが評判になる。
貴族として重要なステータスなのだ。
魔法書の件、実は許されてなかったのか……あっぶねええ。
だが無事に回避できて何よりである。