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仲直り

 ベレンガリア様は侯爵家の三女で両親から非常にかわいがられている少女だ。

 俺にしてみれば大恩がある主筋の娘と言える。

 そんな彼女と仲違いをした状態というのはとても気まずい。

 みんなは何があったのか知っていて、誰も俺を責めようとしなかった。

 それでも俺は仲直りがしたかった。

 正確には機嫌を直してもらいたかった。

 俺がこの家にいられるのはきっと彼女がワガママを言ったからだろう。

 うすうすは気がついていたのだ。

 

「リア様」


 メイドたちに囲まれて庭でお茶をしているところを話しかける。


「知らない」


 彼女はたちまちツーンとしてそっぽを向く。 

 普通ならば素直に引き下がるべきところだ。

 彼女がその気になれば俺の処刑を命じることができるのだから。

 しかし、今日は引き下がらなかった。


「リア様に謝りたいんです。あの時のことを」


 白いワンピースを着た彼女の肩がぴくりと震える。


「一緒にいたいと言われたのはうれしかったです。自分もできればそうだったらなと思います」


 ベレンガリア様は若干赤くなった顔をこちらへ向けた。

 

「そ、そう? あの時はいじわるをしたのね? まあ謝ってくれたんだし、許してあげるのがレディよね」

 

 頬をゆるめながら話すさまはレディとは言えそうになかったが、指摘しないのがマナーである。

 メイドたちは驚いていた。

 たぶん侯爵夫婦へ報告がいくだろうけど、あまり心配はしていない。

 娘のご機嫌取りが上手くなったと思われる程度だ。

 しばらくつき合ってみたが侯爵夫婦は俺のことをまるで警戒していない。

 こちらの世界の大貴族にとって、きっと平民とはそのような存在なんだろう。

 

「ロイ、仲直りしてあげるからお茶に付き合いなさい」


 さっきまで無視しようとしていたことも忘れ、ベレンガリア様はお茶に誘ってくる。

 俺は安心して応じた。

 これでしばらくは大丈夫だろうと思いつつ、小さな女の子を手玉にとった罪悪感に胸がちくりとする。

 相手は大貴族の姫君で、こっちは味方がいない平民。

 気まぐれを起こせば簡単に殺される立場なんだから、きれいごとを言っている場合じゃない。

 すっかり機嫌がなおったベレンガリア様はいろいろと話をしてくれる。

 そこで俺は聞いてみた。


「俺でも読める魔法書はありますか?」


 リバーシの賞金が二〇〇〇万ベルク以上あるので、もしかしたら買えるかもしれないと思ったのだ。

 税金はどうしたって?

 侯爵に払うのが筋なんだが、払わなくていいと言われたので払っていない。

 この世界、太守の意思が領内の絶対的ルールなのだ。

 つまり俺はリバーシで勝つほど丸ごと儲かるし、生活費を一ベルクたりとも使っていないというのが実情である。

 ブランさんには親が信じてくれる内容の手紙を出してもらい、親が受け取ってくれる額の仕送りを一緒に頼んでおいた。

 一〇〇〇万くらい送っても俺は平気なんだけど、俺が稼いだと言っても両親は信じてくれないし受け取ってくれないだろうからなぁ。

 早く大きくなりたいものである。

 

「むう、謝ったんじゃないの?」


 ベレンガリア様の機嫌がふたたび悪くなったので俺は急いで弁明した。


「いっしょにいるためにも必要なんですよ」


「どういうこと?」


 ベレンガリア様にはまだ分からないことらしい。

 ああ、だから彼女はバスターになるのに反対していたんだな。


「いまの俺はリバーシで勝てなくなったら用済みです。でもバスターになれれば違ってきます」


 実力あるバスターは有名になるし、貴族の支援も受けられる。

 そしてリバーシプレイヤーとは決定的に違う点を口にした。


「俺がいいバスターになったら、リア様の護衛を任せられるかもしれませんよ」


「へえ、そうなの? ロイがわたくしを守ってくれるの? ……へへへ」


 いったいどんな想像をしたのか、ベレンガリア様の表情がだらしなくゆるむ。

 レディがはしたないと注意するメイドはいなかった。


「分かったわ。ロイにチャンスを与えてあげましょう」


 ベレンガリア様は今さらすました表情になって告げる。


「ありがとうございます、リア様。やはり真のレディは違いますね」


「ふふふ」


 ここぞとばかりにほめると、ベレンガリア様は鼻高々だった。

 非常にかわいらしい。

 侯爵夫婦が溺愛しているのも分かる。

 こんな妹ほしかったなと思う。

 

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