リバーシで成り上がり?
ブランさんが到着したのはシャラント州のリムーザン県、ロシェール市だった。
人口が一万人以上の大きな都市だった。
ここの都市を治めているのはセーブル子爵だという。
都市長は子爵、県のトップは伯爵、州のトップが侯爵って感じになるのが基本であるらしい。
リバーシの大会には少し時間があり、その間俺はブランさんが持っている拠点で寝泊まりさせてもらった。
リバーシの勉強、剣と魔法の訓練、さらに商売の手伝いとなるとかなり忙しい。
でも、ブランさんは前二つの時間をとってくれるので、激務という感じでもなかった。
「いいんですか、あんまり手伝わなくて」
「お前がリバーシの大会で勝てば、あれは誰だとなる。その時お前の推薦者で後ろ盾となった私の評判が高くなるのだ。はっきり言って単に店の手伝いをしてもらうより、大会で勝ち進んでくれたほうが私にはありがたい」
契約選手が活躍すればするほど、スポンサーの宣伝になるようなものかな。
善意や好意が百パーセントというわけではなく、ブランさんなりの計算もあるようでちょっと安心した。
好意に甘えっぱなしだとやっぱり心苦しいもんな。
そして、大会はやってきた。
セーブル子爵杯と言って、優勝者は五〇〇万ゼルクの賞金と一緒に伯爵から優勝杯を下賜される名誉があるという。
セーブル子爵はかなりのリバーシ好きだというのが原因だった。
五〇〇万ゼルクがあれば四年くらいはこの都市で暮らしていける金額である。
税金を払わなきゃいけないから、実際はもうちょっと少ないかな?
準優勝者でも三〇〇万ゼルクもらえるし、伯爵に顔を覚えられるチャンスだから、ブランさんのためにも決勝戦に行きたいな。
と思っていたら優勝してしまった。
「優勝者はロイ!」
うん、そんなに強くないね、ここまでの人たちは。
そう言えばリバーシって競技は世界的に見て日本人が圧倒的に強いらしいと耳に挟んだことがあったんだけど、あれってもしかして事実だったのかな。
優勝した俺は当然立派な檀に上がってセーブル子爵と顔を合わせる。
やばいな、いくら何でもこんなに早く貴族と遭遇するとは思わなかったよ。
さすがに子爵は上等そうな青い服と黒いパンツ、立派そうな革靴といういでたちで、高貴な雰囲気をまとった中年のイケメンおじさんだった。
「君は見慣れない顔だね? それにずいぶんと若いな。いくつだ?」
「は、はい。十二になりました。そして最近こっちにやってきました」
不敬罪になりたくないとガチガチに緊張しながら答える。
「ふむ。では後で手続きをする必要があるな。どこから来たのだ?」
「ロワーヌ州のミディって村です」
いま答えて初めて知るのはどうなのだろうと思うのだが、実際のところわりと緩いらしい。
有名な人材はともかく、平民ひとりが別の州に移動するくらいでは貴族のチェックも雑だと聞いている。
平民の価値が軽いこの世界と国だが、今回の場合はプラスに働いたと言えるだろう。
「分かった」
セーブル子爵は簡単に言った。
やっぱり問題にならなかったようだ。
「ところで県大会や州大会に興味はあるかね?」
「はい、出たいです」
俺は即座に答える。
県大会や州大会はさらに賞金がいいとブランさんに聞かされたからだ。
州大会のチャンピオンとなれば、賞金は一五〇〇万ゼルクだという。
ぶっちゃけ働かなくても暮らしていけるんじゃないかなと思える。
年に一回しかないし、負けたら終わりなのでアテになる安定収入とは言えないが。
「ふむ。では君をわがロシェール市の代表として認めよう」
セーブル子爵は笑顔でそう言った。
「詳しくは担当の者を送ろう。いま君はどこで暮らしているのかね?」
「ブラン商会という店でお世話になっています。ブランという商人が連れてきてくれ、大会のことを教えてくれたので」
すかさずブランさんの名前を出す。
「ふむ」
すかさず側近が書類のようなものを子爵に差し出した。
「そのブランなる人物が君の後見人で推薦者というわけか。よくぞ新しい才能を連れてきたというべきだな」
子爵はうれしそうに言っている。
これでブランさんの名前は子爵に覚えられただろうし、少しは恩返しができただろう。
俺は受けた恩を忘れずに返すタイプなんでね。
いつかもっとビックになったら両親や兄貴たちにたくさん孝行をするんだ。
そう思いながら俺は県大会に出て優勝し、州の大会への出場権を勝ち取った。
県のトップである伯爵と面会した時も、子爵の時と似たようなやりとりがあった。
「ほう、ではブランなる者がそなたの後ろ盾なのだな」
伯爵はいかめしい顔つきの五十歳くらいの男性だった。
ここでもブランさんの名前を出しておいた。
俺は八〇〇万ゼルクの賞金を受け取り、リムーザン県の代表として各県の代表と戦うことになる