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旅立ち

 十二歳になった俺はいよいよ村を出ることにした。

 仲良くなった商人に運んでもらうことになっていた。

 タダで運んでもらう代わり、道中商売を手伝うという条件が出された。

 この世界のこの国で他の町や村に運んでもらうのは安くない。

 しかもメシも提供してもらえるのだから、仕事をやらされるのは当然だと考えるべきだ。

 商人のブランさんは厳しい世界で商人をやっているとは思えない、気さくないい人で読み書き計算も教えてくれる。


「ほう、ロイは飲み込みが早いな」


 ブランさんは青い目を丸くした。

 そりゃ日本人としての記憶が戻った後だからなぁ。

 要点さえ分かってしまえば基本は同じだった。

 

「危険が多いバスターにならなくても、文官としてやっていけそうだぞ」


 ブランさんは心配そうに忠告してくれる。

 教育制度が発達していないこの世界では、読み書き計算がしっかりできるというのはそれだけで立派な武器になるという。


「平民でもある程度は出世できるし、親兄弟を街に呼べるくらいにはなれるぞ」


 さすがに一人で親兄弟を養うのは無理だが、文官として信頼を勝ち取れば人脈が使えるようになって、仕事を紹介してもらえるそうだ。


「でも、挑戦してみたいんです。才能がなかったりケガして続けられなくなったら、その時はあきらめて文官をやります」


「そうだな。まあ文官なら片腕や片足が吹っ飛んでも務まることは務まるか……」


 ブランさんは何やらぶっそうな発言をしつつも納得してくれた。

 手伝いをしながら簡単な地理についても教えてもらう。

 俺が生まれたのはミディの村で、ロワーヌ州に所属している。

 ブランさんの目的地はロワーヌ州の西側に隣接しているシャラント州だ。

 そこには迷宮もあるとのことで、俺との目的も一致している。

 

「大きな声じゃ言えないが治めている方の違いで、シャラント州のほうが暮らしやすいだろうよ」


 ブランさんは小さな声で言う。

 州を治めているのは貴族で、俺やブランさんのような平民が批判的なことを言うのは不敬罪となるそうだ。

 不敬罪は基本的に極刑だからこわい。

 まあ俺みたいな平民がそうそう貴族と会うことはないだろうけど、成り上がりたいなら気をつけなきゃいけないな。

 せっかくだからと俺はブランさんにひそかに持っていたアイデアを聞いてもらった。

 リバーシやマヨネーズのようなものを作ったらひと儲けできるのではないかという件だ。


「まあいままでなかった物を作って、それが売れたら儲かるのはたしかだろうが、お前が言ったものはすでにあるぞ」


「えっ?」


 何だって?

 ぎょっとする俺にブランさんは気の毒そうな目で見る。


「なるほど、本当に知らなかったんだな。まあミディの村は小さいし、州の外れだから無理もないか」


 リバーシは百年以上も昔に普及したゲームのひとつで、今では大きな大会が開かれて賞金も出るほどの人気だという。

 マヨネーズもけっこう古くに作られたらしい。

 さては俺以外にも転生者がいて、そいつらが広めたんだな。

 けっして不思議じゃないし、その転生者たちだって生きていくためにやったのだろう。

 仕方ないことではあるんだが、バスターになるための資金集め計画がいきなり頓挫してしまった。

 どうすればいいんだ……?

 コツコツ働くというのは一番堅実な手なのだろうが、それじゃ何年かかるのか分からないぞ。

 頭を抱えた俺に同情したのか、ブランさんが口を開く。

  

「リバーシで強くなってみるか? 県の大会や州の大会で勝てるプレイヤーになれば、収入は安定するぞ。お前はまだ若いのだし、リバーシプレイヤーとして生きていくのもありなんじゃないか?」


 そんな道もあったのか。

 というかブランさんはどうしても俺をバスターにしたくはないんだろうな。

 しかし、気になっている点がひとつある。

 この世界の人たちってどれくらいリバーシが強いんだろう?


「ブランさん、リバーシができるんですか?」


「ああ。商売相手にリバーシ好きは多いからな。リバーシができるかどうかで、相手の対応も違うんだ」


 そういうことならちょっと勝負をしてみよう。

 ブランさんはリバーシを持ち運んでいた。

 商談しながら対戦することもあるらしく、リバーシの道具を持ち運びをするのは商人の基本らしい。

 そして。


「ロイ、お前さん、強いな」


 ブランさんは目をむいた。

 いや、言ったら悪いんだけど、ブランさんがあんまり強くは……。


「私はこう見えても県の大会で上位に入ったこともあるんだぞ」


 そうなのか?

 県の大会ってどれくらいすごいんだろ?

 日本人の感覚だとけっこうすごいけど、本当にすごい人は全国大会に行くよなあって感じなんだが。

 

「悪いことは言わん。リバーシの大会に出ろ。勝てるだけ勝っていけ。そうすればお前のためになるはずだ」


 ブランさんは真剣な顔でそんなことを言う。


「え、でも、十二歳でバスターにはなれるんですよね?」


 だから村を出てきたのだ。


「その通りだが、何も十二歳からもぐらなきゃいけないことはない。もっと大きくなってからもぐったほうが生存率は高いぞ」


 そりゃそうだ。

 まだまだ成長期なんだし。


「その間の生活費をどうするかという問題だが、それだけリバーシが強ければ何とかなるはずだ。資金でいい装備を買うこともできるだろう。この違いは大きな差になって、お前を守ってくれる」


 たしかになあ。

 大きくなってよりいい武器を持った状態で持ったほうが安全なのは事実だ。

 だまされたと思って、リバーシプレイヤーになってみるか。

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