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ゴースト

 話も一段落して、舞の感謝に、まだ何もしていないのにという申し訳無さが生まれて、カナタは退室した。さりとて、他に行くところは無い。


 どうしようかと悩んでいると、背後で自動ドアの開く音がして振り返る。明菜がいた。


「あなたの部屋、教えていなかったでしょ?」


「助かる」


 とカナタは本心から言った。


 明菜は歩いていき、カナタも隣を歩く。カナタは周囲を見回すが、目印になるようなものはなく、簡素な廊下が続くばかりだった。装飾ばかりであったなら、それはそれで億劫になっていたのだろうが。


「私は、死を覚悟して戦うことを矛盾してるって思わない」


 と唐突に明菜が言った。個人的見解だ。カナタにも否定する気は無く、明菜を見る。すると明菜もカナタの目を見つめる。


「立派だって思う。そうね、舞が『色持ち』に憧れる理由も分かる気がする」


 立派と言われて、カナタは無性に否定したい気分になった。同時に、救われたような気分にも。


「ここは比較的穏やか、と聞いたけど、力が必要なのか?」


 とカナタは問うた。というのも、穏やかというのが御多義の法螺では無いかと舞の話を聞いた時からずっと疑っていたのだ。しかし予想に反して、明菜は頷いた。


「そうね、確かに穏やかなのはそうだと思う。東京は、心喰が住宅地を襲うのを防ぎ続けるような状況らしいし」


「へえ、大変だな。でもなら、何故?」


「確かに、心喰は少ない。けど、質は高いの。とりわけ、『ゴースト』と名乗る心喰はね」


 カナタは明菜の言葉を訝る。


「名乗る? 心喰は話せるのか?」


「ううん。話せるのは『ゴースト』以外見たこと無いし、報告もされていない」


「なるほど」


 たった一つの例外、と言う訳だとカナタは納得する。


「ここね」


 と明菜は言って、立ち止まる。


 カナタは明菜のすぐ近くのドアを見る。


「そうか。助かった」


「いえ」


 と明菜は言って、立ち去ろうと背を見せる。


「あの、ありがとう」


 明菜はその言葉に振り返る。その表情は驚いているように見えた。


「何が?」


「『死を覚悟して戦うことを矛盾していると思わない』ってのは、気を遣ってくれたんじゃないかと思って」

 

「あら、気にしなくて良いのに。お節介だった?」


 と明菜は言って、微笑む。


「いや。お姉ちゃんみたいだって思った。いたかは覚えていないけど」


 あるいはフランがそうなのかも知れないけど、それも今は知れない事だ。


「本当? お姉ちゃんと思っても良いのよ?」


「あはは。じゃあ、そう思っておくよ」


 とカナタが言って笑うと、明菜も笑みを見せる。


「へえ、予想外だけど、面白そうね。それじゃ」


「ああ」


 カナタがドアに近付くと、ドアは自動で開いた。中はベッドとソファ、机のみの簡素で、机の上には『この施設のマップだ。読み込んでおけ』と言う御多義からであろう書置きと共に、施設内の地図があった。

「馬鹿か? こいつ。手渡ししろよ。お陰で一人でここまで来れなかったじゃねえか」


 と毒づいてみても、独り言に過ぎず、返される言葉は無い。






 夕暮れ時まで迫る頃合いに、カナタは腹を満たそうと食堂に立ち寄っていた。


 すると、そこには先客――御多義がいた。


「おう、カナタ。飯か?」


「ああ」


 御多義の前には固そうなパンと具の無いスープがあった。御多義はそれを指差す。


「これくらいしか無いぞ」


「切迫してはいるんだな」


 とカナタは言った。しかし御多義はその言葉に首肯しなかった。


「どうかな。心使は通信機を使うし、単に切り詰める所を切り詰めているってだけなんじゃないか?」


「なるほど」


「あ、心使に支給される装備は後で渡しとく。ま、その前に戦闘訓練だけどな」


 と御多義は言うと、固いパンをかじって、スープを飲む。


「まだ必要か?」


「ま、基本はそれで良いんだけどな。『成心せいしん』っつう技能が残ってる。そいつは必要だな」


「成心?」


「ま、そこは追々……舞の辺りでも頼んどくから」


「ああ、じゃあそいつに教われば良いんだな?」


「そうだな」


 カナタは話を聞き終えると、白い縦長の直方体の機械に近付き、食事と書かれたボタンを押す。


「つったって今日はもう何もねえぞー」


 と御多義は声を張って、少し遠くのカナタに聞こえるように言う。


 機械の扉が開き、トレーに乗せられたパンと、皿の上にある具の無いスープを確認する。


「了解」


 とカナタは言って、トレーを取った。






 間食を終え、更に時間が経ち、夕食の時間となり、また食堂へ向かう。


 すると、食堂の机には御多義、明菜、謙、舞と揃っていた。また、机の上にはフライドチキン、既に良い色をしている牛肉、ご飯、コーンスープとまともな、少し豪華にも見える料理が並んでいた。


「お、来たな」


 と御多義が言った。


「お前、全然切り詰めてねえじゃねえか」


 とカナタが呆れ気味に言う。


「そりゃあ、祝い事の時は切り詰めねえって。当たり前だろ?」


「祝い事? 何かあったのか?」


 とカナタは言うと、明菜はカナタを見る。


「あなたが来たでしょ?」


「ああ、その事か」


「席に着け。もう冷めてしまう前に食べたい」


 と謙は言って、明菜やカナタの会話を無視し、料理を注視している。


「はいはい」


 とカナタは言って席に着くと、隣の舞がコップをカナタの前に置く。


「ジュース? オレンジジュースあるよ?」


「ビールは飲めないのか?」


 とカナタの向かいにいる御多義が言った。


「さあ。成人してるかも知らねえ」


「じゃ、してるだろ」


 と御多義は言うが、明菜は首を振る。


「分からないなら、ダメ」


「固いこと言うなよ」


 御多義が肩をすくめると、明菜は人差し指を立てる。


「健康上当たり前の事でしょ? それとも早死にさせたいの?」


「分かったよ」


 そんな様子にカナタがやっぱりお姉ちゃんっぽいな、とカナタが思っている間も、謙は待ちきれないとばかりに料理を見ていた。


「それで? いただきますは?」


「じゃ、いただきます」


 と御多義は謙に促されてそう言うと、舞、明菜、謙、カナタも続ける。


「いただきます!」


 声を合わせると、謙は早速フランドチキンに手を伸ばし、御多義はビールを開ける。舞はカナタのコップへオレンジジュースを注ぎ、明菜はコーンスープをスプーンですくって飲んでいる。


 カナタはこんな事で貴重な食糧を使って良いのかと思う一方で、悪くない、いや楽しいとさえ思っていた。





 ノックとは思えない、扉を叩くような音にカナタは目を覚ます。


 何かしらの恨みが籠っているのだろうか、なんて考えつつカナタはベッドから起き上がるとドアを開ける。


「はい?」


 とカナタは言った。


 扉の先には舞が、仏頂面でいた。


「どしたの?」


「なんでもない。訓練室に来てね? 急ぎ目で」


「了解」


 何処かに素っ気なさが覗く、いつもとは違った雰囲気であったが、そんな些細な事はカナタの寝起きの頭に残る事は無い。





 訓練室に着くと、舞は御多義の心砕に似た剣の形の心砕を手に持っていた。


「で? ここで何をするんだ?」


「成心を体得してもらう」


「ああ、そういうことか」


 カナタ先日の御多義の言葉を思い出していた。


「知ってるの?」


「いや。そういうものがある、とだけ」


「なるほど。えっとね、成心って言うのは幽体になるって言うのかな。身体を浮かせたり、物体をすり抜けたり出来るようになるの」


「なるほど。状況によっては使えるって訳か」


 空中移動も、物体をすり抜けるのも便利だ、とカナタは納得する。最早、そんなこと出来はしないだろうなんて考えは無かった。


「ううん。戦闘時はほぼ全て、成心を使う事になると思うよ」


「何故?」


「心喰は普通の人間じゃついて行けないくらいの速度なの。だから、人間の身体って制限を取る必要がある」


「ふうん。つまり、成心ってのを使えば身体で動く速度の限界を超えられるって訳か」


「そう。でも……」


 舞が言い淀み、カナタはそれを不思議に思う。


「ん?」


「ううん。ま、じっくりやって行こう!」


「おう」


 明るい調子へと戻った舞を見て、カナタは先程の様子を忘れる事とした。


「まず、心で覆うってイメージを持って。心砕を出した時みたいな感じで」


 舞の言葉通りに、心砕を出現させる際の剣のイメージを、全身へと及ばせる。それから、目を開けると、自分の身体の周囲には白い粒子のようなものが浮いている。


「へえ。こんな感じか」


 成功したかの確認をする為に地面を蹴ると、そのまま高速で空中を進んでいき、そのまま空中で静止する。脳内のイメージ通りの動きと言える。


「なるほど。速い」


「嘘……」


 舞は絶句しており、カナタは地上へと降りる。


「ん?」


「ううん。えと、じゃあこれで私の役目は終わりだから」


「ああ」


 舞は足早に立ち去る。


「ま、確かにこれが無くちゃ話にならないかも知れないな。前みたいに、いつでも奇襲出来る訳じゃ無いし」


 前回の心喰との戦闘は幸運だったのかと思い、それから、何故舞は心砕を持っていたのだろうかと不思議に思う。





 心使専用の服を着て、御多義、謙、明菜の三人は荒廃した街中を歩いている。その服は黒を基調とした、長袖であっても動きやすいように出来ていて、且つ最低限のドレスコードを守るような様子であった。全員が成心は使わず、御多義は剣の背を肩に乗せて歩き、すぐ後ろの謙は剣を腰の鞘へとしまい、その柄に手を置いている。更にその後ろ、明菜はハンドガンを手に持っていた。


「どうなってると思う? 俺は一日で習得すると思うね」


 と御多義が言った。


「心砕を一瞬で出現させ、更に色持ちともなればそれも有り得るかも知れませんね」


 と謙が同調し、明菜も頷く。


「単純に向き不向きの問題でもあるしね。出来る人は一秒とかからないだろうし」


 御多義は明菜の視線がこちらを見ているのだろうと予測する。話ながらであっても周囲に索敵は怠らないし、足を止める事も無い。


「俺は必死だったからなぁ。別に向いてたって訳でもねえ気がするけど」


「でも、すぐに出来ちゃうってのも問題かも」


 と明菜は御多義の言葉を受けてそう言った。


「舞の事だろ?」


「知ってたの?」


 明菜の問いに御多義は笑う。


「ああ。だからあいつに教えさせてんだ」


「わざとってこと?」


「ああ。ま、賭けだけどな」


「賭け?」


「ゴーストをるチャンスは、今しか無い。俺はそう踏んでる」


 と御多義は言って、目を鋭くする。


「まあ、今が一番戦力として充実しているのは確かでしょうね」


「ああ。だけど、舞が不安ではある。ゴースト戦では足手まといになるかも知れない」


「そんな事無いでしょ。いないよりダメなんて――」


「いや。ゴーストと戦う場合は話が変わる。それに、カナタもいる」


 御多義が明菜の言葉を遮って言うと、謙は眉をひそめる。


「カナタがどう関わるんです?」


「舞が足手まといとなれば、最悪あいつもそうなりかねないって話さ」


 と御多義は言って、肩を竦めた。

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