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第3章ー47

 1932年5月初め、ジュネーヴの国際連盟本部は各国代表団が激論を交わす場と化していた。

 その原因は言うまでもなく満州事変である。


「我が国は自存自衛の為に止むを得ないと判断し、蒋介石政府を支持し、公認したに過ぎません。中国に対する侵略行為を行った等、我が国に対する難癖にも程がある」

 日本代表の松岡洋右は、ふてぶてしい態度を公然と取った。

 もっとも、松岡代表自身は、このような態度を執るのが苦痛だった。

 自分の主観的には耐えがたい行為を強いられていたからである。


 松岡代表は良くも悪くも大衆受けしないと気が済まない性格だった。

 だからこそ、外交官から代議士へと転職し、しかも立憲政友会に所属したと言える。

 そして、対外強硬主義(国民世論に、国際協調主義と対外強硬主義と、どちらが基本的に受けが良いか、を考えれば自明の事柄である。しかも、この当時は、外相を務めた幣原喜重郎が推進する国際協調外交が、国民からは対外軟弱外交、として口を極めて非難されている時代だった。)を、松岡代表は推進していた。


 しかし、現状では、犬養首相からは、松岡代表に対して、国際連盟脱退は不可、四面楚歌になっても、絶対に国際連盟に居座れ、という厳命が下されているのである。

 周囲から、ある意味、全面的ないじめに遭いつつ、国際連盟に居座る等、松岡代表にとっては苦痛以外の何物では無かった。


 実際、5・15事件が起きて、犬養首相が暗殺されたという情報を聞いた際に、松岡代表は小躍りして、因果応報だ、と叫んで回ったという(そして、この噂の為に、松岡代表は、立憲政友会から事実上追放され、選挙区民からも見放され、という目に遭う。そして、松岡代表は晩年、噂ほど怖いものはない、私は犬養首相の暗殺を聞いた際に、それを心から悼み、涙にくれたのです、と周囲に語ったが、周囲のほとんどが、松岡代表の性格から、大嘘と決めつけたという。)。


 実際、北京政府代表(言うまでもなく、国際連盟では、正式な中国政府代表として認められている。)からは、日本の満州事変の行為に対して、手厳しい論難が相次いで起こっていた。

「日本の傀儡の蒋介石を首班として、中華民国正統政府を作らせる等、どう見ても中国の国家主権を侵す行為である」

「我々が平和を求めているにも関わらず、熱河省等へと侵略行為を日本は拡大した」

「承徳市民、10万人が、日本空軍の無差別爆撃により死傷し、承徳市街は廃墟と化した。これは明らかな戦争犯罪である。承徳市は、完全な無防備都市宣言をしており、北京政府軍は一兵もいなかった」


 この中には、松岡代表の目からしても、明らかな大嘘が混じっていた。

 特に承徳に対する空爆への論難は、噴飯モノだった。


 承徳には、当時、少なくとも6万人以上の北京政府軍が立て籠もっており、更に、承徳市民は人間の盾として、市外への脱出を、北京政府により禁じられており、脱出を試みた市民は、利敵姦通罪として、問答無用で籠城軍により射殺されるという恐怖政治が敷かれていた。

 実際、杉山元中将以下、承徳攻防戦に関わった日本軍や、その後に承徳の統治を始めた蒋介石政府からはそれを裏付ける情報はあっても、否定する情報は無い。


 だが、北京政府は、承徳が陥落した5月になってから、北京政府は事前に承徳市民を守ろうと数々の命令の発令等を行い、日本政府や蒋介石政権にも連絡したにも関わらず、日本政府や蒋介石政権は、それを無視し続けていた、と言い出したのだった。

 承徳攻防戦で、北京政府軍と日本軍が交戦し、日本兵が死傷しているという松岡代表らの反論は、北京政府代表によると、日本が戦争犯罪を隠蔽しようとしている証しに過ぎなかった。

承徳市はそんなに大きいの?と言われそうですが。

基本的に、当時の中国の場合の市の領域は、日本では県に相当する広さです。

(郡県制と言う場合、日本と中国では、郡と県の関係が基本的に逆転します。)

つまり、市街地を離れた部分も含む承徳市全体で10万人が殺された、といっているわけです。


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