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第3章ー45

 この時、第12師団長を務めた杉山元中将は、後に陸軍三顕職を一応はだが、一通りは経験し、大将として退役するのだが、後世にいろいろと逸話を残している。


 陸軍士官学校12期卒業生であり、ブリュッセル会の事実上のトップ、梅津美治郎元帥陸軍大将(最終階級)よりは2歳年長、陸軍士官学校の卒業期でいえば3期上になる存在で、本来から言えば、梅津元帥からは、先輩として敬意を表されるべき存在なのに、杉山大将の評価を聞かれた梅津元帥は、

「いい人だとは、私は思うけどね」

 と言葉を濁して、それ以上は決して言わなかったという逸話がある。


 第二次世界大戦終結時に、佐官以下で終わった面々からの評価は、辛辣極まりない。

「便所の扉(この当時の便所の扉は押した方、どちらにでも開くので、押せば流されてしまう、という裏の意味がある)」

 と、佐官以下には、陰で半公然と言われ、それだけで誰の事か、皆が分かったという。


 これは、杉山中将が、宇垣一成陸軍大将の引きで出世し、宇垣大将が陸相を務めた当時、陸軍次官を務めたり、宇垣内閣成立時には、陸相として宇垣首相を支えたりしたことや、60歳を過ぎた頃(1940年前後)から、年齢の為か、ろくに働かなくなり、梅津元帥が、杉山大将が晩節を汚さないようにと配慮して、軍事参議官から自発的な予備役編入へと追い込んだことが、響いたらしい。


 だが、少なくとも、この当時の将官としては、杉山中将は、航空関係の知識も深く、空軍との連携を理解しており、自動車化歩兵師団長としては、最適の存在だったことは間違いなかった。

 朝陽を出撃拠点として、承徳を目指した第12師団は、敵陣地の突破に際して、戦車が無い代わりを、航空支援と夜襲の組み合わせで補い、自動車部隊の機動力を駆使することで、更にその威力を高めた。


 建平、平泉等々、北京政府軍の抵抗を排除しつつ、朝陽から承徳へと第12師団は進んだ。

 第12師団の将兵は、自動車移動中は運転手と、その助手を兼ねる見張員以外は、車中では寝ることをいつの間にか習慣にし出した。

 何しろ、幾ら急ぐとはいえ、敵陣地にぶつかった場合は、昼間は航空支援を駆使した強襲、夜間は夜間で航空支援抜きの夜襲を試みるのである。

 第12師団の将兵にしてみれば、車の中が、一番、安眠できる場のような想いさえするようになった。


 逆に、文字通り寝る間が無くなったのが、北京政府軍だった。

 昼夜を気にせず、第12師団は攻撃を掛けてくる。

 更に航空支援の存在もあった。

 日本空軍は、偵察機に爆弾を搭載し、前線へと急ぐ北京政府軍に爆撃を行うことで、移動を阻害した。

 こうなると、ただでさえ士気の低い北京政府軍は、夜間移動に頼らざるを得なくなる。

 実際には、偵察機が北京政府軍の爆撃に成功した例は少なく、過半数の偵察機は爆弾を無駄に投棄して、飛行場に帰投しているのだが、いきなり爆撃を食らうリスクがあっては、中々、昼間の移動を北京政府軍は行えなかった。

 そして、暗闇の中で、迅速に徒歩で移動できるわけもない。

 北京政府軍は、兵力の優位を生かせないまま、第12師団の猛攻と追撃の前に、承徳へと半ば敗走していくことになった。


 4月10日、承徳への第12師団の攻撃が始まった。

 さすがに熱河省の省都である承徳には、湯玉麟将軍直卒の約5万人の将兵が堅陣を構えていた。


「厄介だな」

 杉山中将は、双眼鏡で敵陣を眺めながら、ぼやいた。

 幾ら精鋭の第12師団の将兵といえど、人間であることには変わりはない以上、ここまでの急行軍により、疲労が蓄積している。

 また、米国製のトラックが中心とはいえ、やはり故障車両が続出、不安のある状況なのに、攻撃を行わねばならなかった。 

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