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第3章ー44

 結局、4月1日から山海関を目指しての進撃を開始した第1海兵師団は、北京政府軍の抵抗を基本的に戦車を先頭に立てることで粉砕した。

 更に、4月7日、山海関周辺で丸2日の激闘を演じた末に、第1海兵師団は山海関の確保に成功した。

 1個海兵連隊を山海関確保に残し、戦車団と残余の第1海兵師団主力は、熱河省の中心である省都、承徳を目指して転進することになる。

 当然、転進する部隊の中には、岡村徳長少佐の姿があった。


「やれやれ、第1目標は達成か」

 岡村少佐はため息を吐きながら、89式中戦車大隊の先頭に立って、愛車を進ませていた。

 錦州から山海関まで約150キロ余り、錦州近郊の北京政府軍の陣地を強襲で潰した後、ひたすら前進を強行してきていた。

 その間に実際に戦闘で失われた89式中戦車は皆無だったが、修理を要した戦車は半数近くに達した。


 なお、第一次世界大戦の遺物のルノー戦車やホイペット戦車に至っては、直接の指揮下には無いので、詳細が掴めないが、隊内に流れている噂だと、それらの戦車は3両の内2両の割合で、どこかで要修理の故障を引き起こしたとのことだった。

 勿論、こちらは、装甲が薄いこともあり、対戦車戦闘で複数の戦車がどちらも撃破されている。


 皮肉なことに山海関の激闘のお蔭で、修理の為に落伍していた戦車が追い付いたほどだった。

「鴨緑江から奉天の時も苦労したが、あの時は張学良軍が相手だったからな。対戦車砲は皆無と言って良かったのだが、今度は苦戦を強いられるわい。更に修理等も大変だ」

 岡村少佐はひとり言を呟かざるを得なかった。


 実際、第1海兵師団と戦車団の山海関から承徳への進撃は困難を極めた。

 満州派遣総軍司令部、というか作戦参謀の石原莞爾中佐にしては、手抜かりがあった。

 この当時の、熱河省の道路事情は必ずしも良くない上、山海関から承徳に通じる路は山間を抜ける細い道路が多かったのだ。

 こういった道を進むのには、却って戦車は邪魔になることさえあった。

 まだ、朝陽から承徳へと通じる道路の方が事情が良かった。


 それに、山海関を抑えられた北京政府軍は、山海関から万里の長城を越えて、日本軍と蒋介石軍が乱入してくることを警戒せざるを得ず、山海関奪還作戦を発動した。

 海兵1個連隊を基幹とする部隊で山海関の守備は充分、と満州派遣総軍司令部は当初は考えていたが、北京政府軍の度重なる反攻作戦に対処するため、更に海兵1個連隊等を山海関防衛につぎ込まざるを得ない戦況に陥った。

 こうなっては、山海関から承徳へ向かう部隊は、戦車3個大隊(1個大隊は36両を基本的に保有)を基幹とする戦車団と、海兵1個連隊余りに過ぎなくなる。

 最終的に山海関から承徳へ向かう部隊の総司令官に任じられた戦車団長の北白川宮少将は、内心ではかなり不満を覚えたらしいが、表情には出さずに、兵力不足から助攻任務に専念せざるを得なくなった。


 一方、意気軒昂となったのが、陸軍の第12師団だった。

 米国製トラックを多数装備し、日本製トラックと異なり、修理に(相対的に)悩まされずに済むことや、海兵隊との道路事情の差から、承徳は陸軍の手で落として見せると、師団の将兵の意気は高かった。

 また、海兵隊がフランスから持ち帰ったM1897野砲を改造することで自動車牽引可能な砲として装備する等、砲の牽引から馬を廃止しており、補給の大半が自動車に頼るようにもなっている。

 日本陸軍が初めて保有する自動車化歩兵師団と呼ばれてもおかしくない存在だった。


 第12師団長の杉山元中将は、指揮下の師団将兵に呼号した。

「何としても、承徳を占領し、万里の長城線まで進むぞ」

「応」

 第12師団の将兵は一斉に答えたという。 

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