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第3章ー43

 本格的な熱河省作戦発動前の3月初めに、日本軍と蒋介石軍は、前進拠点とするために、朝陽と錦州を予め制圧し、物資を集積していた。

 この小作戦に対して、北京政府軍は、朝陽と錦州での本格的な抵抗を放棄して退いた。

 北京政府の見るところ、できる限り、北京政府軍が優位に戦うには、日本軍をこちらの懐に引き込む必要があると考えられていた。

 そういった観点からすると、朝陽と錦州は前過ぎる拠点であり、ほとんど戦わずに、北京政府は放棄することにしたのである。


 錦州に第1海兵師団と戦車団、及び蒋介石軍の一部が集結し、朝陽に第12師団と蒋介石軍の主力が集結して、熱河省侵攻作戦は発動された。

 事前の予定通り、蒋介石軍は後方警備に当たり、日本軍が前面に立って進撃を行う。


「まずは、山海関の確保か」

 岡村徳長少佐は、錦州を出発してから、基本的に海岸線近くを進撃しつつ、考えを巡らせた。

 厳密に言えば、海兵隊が最初に進撃するのは、熱河省ではない。

 遼寧省の一部だった。


 1月に行われた営口上陸作戦等により、遼寧省の大半は蒋介石政権の手に落ちていたが、遼河以西は基本的に北京政府が維持していた。

 満州事変勃発前は、山海関(とその近くの秦皇島)に関東軍の隷下に日本陸軍1個大隊余りが展開していたのだが、北京政府軍との戦闘を避けるために、満州事変勃発直後に、旅順、大連へと関東軍は全兵力を移動させていたのだ。

 このために、現在の山海関を含む遼河以西の遼寧省は、北京政府が確保している。


 海兵隊は、遼寧省を完全に確保し、山海関を占領することで、北京への門を開き、北京政府への圧力を掛けるのを第一の目的としていた。

 そして、これにより、北京政府軍の主力を北京に釘付けにせざるを得なくなり、熱河省への支援を行いにくくさせるのが、第二の目的である。

 だが、それには機動力が第一の鍵を握っていた。


 何しろ幾ら精鋭とはいえ、錦州から山海関を目指す作戦に参加する兵力は1個師団余り、蒋介石軍を加えても2万を超す程度に過ぎない。

 北京方面から続々と援軍が駆け付けては、どうにもならなくなるのが目に見えている。

 第1海兵師団と戦車団は共闘しつつ、ひたすら山海関へと急進軍を図らざるを得なかった。


 一方、これに対処する北京政府軍は、89式中戦車に手を焼く羽目になった。

 何しろ、この当時、北京政府軍が装備していた数少ない最新鋭の対戦車砲は独製だったが、その口径は37ミリに過ぎなかった。

 そんな対戦車砲に、89式中戦車の砲塔正面の傾斜80ミリ装甲どころか、車体正面の傾斜50ミリ装甲を撃ち抜けるわけが無かった。


 側面や後面に回り込めれば、20ミリに満たない薄弱装甲なので撃ち抜けるが、海兵隊は戦車と歩兵との連携を、第一次世界大戦の戦訓から重視しており、戦車団長の北白川宮少将に至っては、米軍のパットン大尉(当時)率いる戦車隊と歩兵中隊長として、世界大戦時に共闘したことのある戦歴を誇っている。

 戦車と歩兵が連携していては、易々と側面や後面に対戦車砲部隊が回り込めるわけが無く、ある中国軍の部隊では、折角、独から輸入した対戦車砲が無用の長物と化している、と上層部に報告する羽目になった。


 なお、この満州事変の戦訓報告は、当時、北京政府に参加していた独軍の軍事顧問団により、ベルリンにまで届いたのだが、

「黄色人種の日本人が、そんな戦車を独自に開発、保有しているわけがない」

「北京政府が更に軍事援助を我々にたかろうとしているだけだ」

 等々の色眼鏡を掛けた大量の意見の前に押しつぶされてしまう。

 結局、37ミリ以上の対戦車砲を開発する折角の好機を、独陸軍は逃してしまい、後悔の臍を噛むことになるのである。

 幾ら何でも評価が低すぎないか、と思われそうですが、第一次世界大戦中に航空機から野砲に至るまで英仏米におんぶにだっこで戦ったのが、この世界の日本ですから、日本製兵器の評価が、ほぼ史実通りなのは止むを得ないことかと。


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