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第3章ー35(閑話・下)

 さて、89式中戦車について、よく議論になるのは、いわゆるクリスティ戦車との関係である。

 足回りが完全に違うことや日本がクリスティ戦車を購入していないことから、影響を否定する説も強い。

 だが、エンジンが共にリバティエンジンであること、傾斜装甲を共に取り入れていることから、影響を受けたという説も強いのだ。

 一番、有力とされる説は、各国の戦車資料を集める際に、米国に駐在していた駐在武官が、クリスティ戦車について視察、報告した資料が、影響を与えたとするものだが、日本の戦車開発関係者の証言、公開資料には、そういった証拠が見えない。

(クリスティ側によると、日本の海軍軍人が視察に来たことがあるという。)

 これは、特許料等をクリスティから請求されるのを日本が懸念したから、といううがった見方もあるが、どこに真実があるのかは、闇の中である。


 さて、89式中戦車について、75ミリ野砲弾の直撃に砲塔正面だけでも耐えられるようにという要求が出たことで、日本の戦車開発陣は、頭を抱え込む羽目になった。

「どうだ。何とかなりそうか」

「15トンでは、絶対無理と言って、交渉を繰り返した結果、20トンまでは妥協してもらえました」

「それでも20トンの重量で、砲塔正面80ミリを要求されると、側面や後面の装甲は20ミリ以下にしないと重量制限が持たないぞ」

 戦車開発陣の関係者会議は、甲論乙駁の激論となった。


 ここから先が少し闇に入る。

 89式中戦車の傾斜装甲は、クリスティ戦車の影響なのか、軍艦の影響なのか、という点である。

 日本陸軍の戦車開発陣は、軍艦の影響を全面的に主張したがるのである。

 あれだけの(一説には殴り合いの喧嘩まで引き起こした)ことがあったのに、仇敵と言える海兵隊の主張を受け入れる等、怪しさ極まりないといわれるのである。


「海兵隊が言っていたように、この際、軍艦の装甲のように、89式中戦車の装甲も傾斜させることで何とかしますか。その代り、車体容積が微妙なものになりそうですが」

「仕方ない話か」

 そんな感じで、砲塔正面だけは80ミリ、車体正面だけは50ミリ、それ以外は20ミリに満たないという極端な装甲を持つ案が、89式中戦車では採用されることになった。

 20ミリに満たない装甲部分でも、対戦車銃ならともかく、小銃や12.7ミリの重機関銃までなら、まず耐久できる。

 ちなみに、当初は、砲塔正面や車体正面の装甲は、十分な厚みがあるとして傾斜されない予定だったが、この際、全部を傾斜させろ、と半ばあてつけから、基本的に全ての装甲が傾斜されることになった。


 なお、75ミリ野砲で戦車を撃破するという戦法は、第一次世界大戦で苦し紛れに独軍が実際にやった戦法であり、戦果も挙げている。

 つまり、南京事件で、いきなり中国軍が独自にやった戦法ではない。

 だが、さすがにそんな装甲を戦車に持たせられるか、ということで、英仏等、他国では当時の戦車にそんな装甲を施すことを断念していた。

 それをやらかしたのだから、日本の戦車は、ある海外の研究者から、何を考えたのだ?とまで言われる羽目になった。


「どうだ。ちゃんと作ってやったぞ」

 日本陸軍の戦車開発陣は、自信満々に海兵隊に89式中戦車を披露した。

「あの傾斜装甲のせいか、微妙に体をぶつけるのですが」

 試運転させられた1人、岡村徳長少佐は、開発陣にぼやいた。

「何、お前らの言うとおりの代物だ。文句を言うのか」

 何で怒られる、岡村少佐は内心で更にぼやいた。


 89式中戦車は、人間工学的な欠陥もあったようである。

 戦車の乗車中に体を戦車の内部にぶつけ、体中に痣が絶えなかった、という乗員の回想が多々ある困った戦車でもあった。  

 グダグダ極まりない、と言われそうですが、こういう裏事情があったと言うことで。

 なお、クリスティ戦車と89式戦車の関係については、作者の私は、闇の中においておくつもりです。

(これ以上の事は、読者の想像にお任せします。本当は関係があったのか、それとも全く無関係だったのか。史実と異なり、小説だと作者が明言すると間違いないことになってしまうので。)


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