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第3章ー28

 8個師団を基幹とする日米韓の三国連合軍は、鴨緑江以南で対峙している張学良軍約20万人を、鴨緑江を鉄床として活用することにより、完全に叩きのめすつもりで、1932年1月7日黎明を期して大攻勢を発動した。

 この大攻勢は、営口上陸作戦から、少しでも張学良軍の気をそらすという任務も背負っていた。


 同日に、旅順、大連方面の関東軍も大攻勢を発動することで、張学良軍の予備を少しでも吸引し、翌日の8日に行われる営口上陸作戦の参加部隊の被害を少しでも少なくしようと、満州派遣総軍司令部等では考えられていた。


 この当時、上陸作戦に参加する部隊はぜい弱であるというのは、ある意味で公知の事実(何しろ、上陸作戦に用いられる専用装備等も、まだまだ手探りで開発されている時代である。)であったから、後世の知識からすれば、過剰なほどの配慮がされるのも、ある意味では当然のことだった。


「やはり、75ミリ級の野砲では余り効果が無いか」

 岡村徳長少佐は、双眼鏡で、攻撃開始前の韓国軍の砲撃を眺めていたが、張学良軍の陣地に対する韓国軍の砲撃効果について、そう判定して、独り言を呟かざるを得なかった。

(第一次)世界大戦の西部戦線で実戦を経験した日本海兵隊、及び(ブリュッセル会を中心とする)西部戦線での実戦を経験した日本陸軍の士官、下士官の面々には、ある共通の認識があった。

 それは、野戦陣地と言えど、今や75ミリ級の砲撃では、まず潰せないということだった。


 費用対効果、実際の運用の際の手間暇等々、反対論は多々あったが、砲撃効果の面からは、師団級の砲兵連隊には、105ミリ砲と155ミリ砲の混成が必要であると、日本海兵隊では、米内光政海兵本部長や永野修身軍令部次長といった幹部が、主張するようになっており、日本陸軍内部でも、ブリュッセル会の力もあって、渡辺錠太郎陸相らは、日本海兵隊の主張に同調するようになっていた。

 そして、満州事変のあらたな実戦経験もあり、こういった事から、傍から見ると、日本軍の火砲等の装備は、一時的に開発方針等が迷走を来たすことになる。


「仕方ない。砲撃の効果が充分に上がっているとは言えないが、我が第一戦車大隊が先陣を切る。他の部隊は、後に続け」

 岡村少佐は決断を下した。

 実際、時間は残り少ない筈だった。

 鴨緑江に唯一健在な状態で掛かっている、南満州鉄道と韓国鉄道を直接つないでいる鉄道橋、これが張学良軍により爆破されてしまっては、日米韓三国連合軍が行う朝鮮半島からの満州侵攻作戦に、大幅な遅れが生じてしまう。

 張学良が、最早、止むを得ないと判断して、鴨緑江に掛かっている鉄道橋の爆破を行おうとする前に、日米韓三国連合軍は鉄道橋を抑える必要があった。


 岡村少佐が搭乗する89式中戦車は、搭載するリバティエンジンの音を高めた。

 第一戦車大隊に所属する全ての戦車が同じエンジン音を奏でた。

 第一戦車大隊を構成する36両の89式中戦車は、岡村少佐に言わせれば、量はともかく、質的には世界最強を呼号できる部隊だった。


「我が戦車の装甲は、砲塔正面だけだが傾斜80ミリ、車体正面も傾斜50ミリだ。こいつを正面から撃ち抜ける対戦車砲は世界中に存在しない筈だ」

 部下への激励も兼ねて、岡村少佐は独り言を呟いた。

 それ以外の装甲は20ミリに満たない薄さ極まりない装甲なのは、敢えて無視する。

 こいつの主砲にしたって、57ミリの短砲身だ。

 どこまで役に立つだろうか、岡村少佐の内心は不安を覚えて、堪らなかった。


「行くぞ」

 岡村少佐は号令を下したが、他の戦車に対しては手旗信号を部下に振らせることで、命令を伝えざるを得なかった。

「無線が要るな」

 岡村少佐は呟いた。 

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