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第3章ー27

 石原莞爾中佐は、補給について、放胆極まりない作戦を事前立案していたが、戦車の活用等についても大胆極まりない作戦を立案していた。

「全ての戦車は、朝鮮半島に置いて、そこから集中運用する。営口や旅順には戦車を置かず、歩兵(海兵)で何とかする」

 満州派遣総軍の作戦会議で、作戦参謀の石原中佐は、そう公言した。

 もっとも、石原中佐なりに、戦車の活用について、事前に軍令部第3局(海兵担当)の部下と激論を交わした末の、苦悩に満ちた決断ではあった。


 言うまでもないことだが、戦車は故障しやすいものである。

 従って、戦車の運用、活用に際しては、修理等が必要不可欠極まりないものになる。

 更に言えば、この当時ではLST(戦車揚陸艦)等、夢物語の時代だった。

 従って、営口上陸作戦に戦車を随伴させる等、できるわけが無かった。

 問題は、旅順方面にも戦車を配置すべきか、どうかだった。


 石原中佐は、当初は、旅順方面にも戦車を配置し、旅順方面と朝鮮半島方面と二正面から戦車を活用、かつての日露戦争の第1軍と第2軍と同様に進撃させる(厳密に言えば、旅順方面の部隊と営口上陸作戦部隊とが協働するので違うが。)ことを考えていた。

 だが、部下の多くから猛反対を受けた。


「勘弁してください。戦車の修理や補給部品調達、手間がえらいことになりますがな」

 この時、部下の一人だった、世界大戦当時から戦車に乗って実戦に参加しており、海兵隊きっての戦車のエキスパートと自他ともに認める岡村徳長少佐は、そういって石原中佐を諌めたという。

 戦車に詳しい者程、岡村少佐に味方して、朝鮮半島に戦車を集中させることを主張した。

 だが、石原中佐も、その性格上、素直に岡村少佐らの言葉を受け入れる筈がない。

「山岳地帯で戦車をそんなに集中運用して役立つのか?」

 石原中佐は反論した。


 実際、朝鮮半島方面から満州に進撃するとなると、山岳地帯を越える必要がある。

 戦車を集中運用しても、山岳地帯ではそう役立たない、という反論はもっともなところがあった。


「確かにそうですが、戦車が随伴すれば、歩兵の盾役を戦車は務めることができます。それに、関釜連絡船がある以上、修理部品等の補給にそう問題はありません」

 岡村少佐らは、そう反論した。

 日本国内の標準軌への改軌は順調に進んでおり、日本国内で荷物を載せた貨車や客車が、関釜連絡船を活用することで、そのまま韓国国内に乗り入れたり、逆に韓国国内の貨車や客車が日本国内に乗り入れたりすることが珍しくなくなっていた。

 そのために、(船舶)滞貨問題が、日韓の間では、かなり減少していたのである。


 最終的に、石原中佐は、部下の岡村少佐らの反論を受け入れ、戦車は朝鮮半島に集中投入するという案を満州派遣総軍司令部に提案することになり、満州派遣総軍司令部もそれを受け入れたのだった。


「それにしても、久々に血がたぎるのう」

 1932年1月7日、岡村少佐は、新義州周辺に集結した陸軍と海兵隊混成の100両余りの戦車を見て、興奮が抑えきれなくなり、そう呟いた。

 その中には、日本が保有する最新鋭の89式中戦車全車、30両余りが含まれている。

 岡村少佐は、石原中佐と激論した結果、陸軍と海兵隊協同で臨時編成された第1混成戦車団の第1戦車大隊長に、(ある意味)飛ばされていた。


 だが、岡村少佐にしてみれば、本望極まりない事だった。

 戦車乗りの一人として、ある意味で敵陣への一番槍を務めるのだ。

 戦車乗りの本懐とも言えた。


「大隊長、準備はすべて整いました」

 部下の中隊長の一人が、そう岡村少佐に報告した。

「よし。全車、前へ。まず、目指すは、奉天だ。更に哈爾濱を目指すぞ」

 岡村少佐は、号令を下した。

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