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第3章ー24

 1931年12月、クリスマスが間近いにもかかわらず、ポーランドの首都ワルシャワの一角は、それどころではないという雰囲気が醸し出されていた。

 さすがに24日から26日は一部の当直を除いて全員が休暇になる予定だが、それさえ取消になるのでは、と一部の幹部は危惧する有様だった。

 原因は、極東の一角で起こった騒動にあった。

 単なる国境紛争程度で終わる筈が、全面戦争になり、欧州まで飛び火してくるのでは、という悲観的な観測が流れ出しては、ポーランドの外務省や陸軍省等が警戒態勢に入らざるを得ないのは、ある意味で当然のことだった。

 その原因の一人が、今日も陸軍省を正式に訪問してきていた。


 レヴィンスキー中佐は、複雑な表情を浮かべて来訪者を出迎えながら言った。

「いい加減、静かにしてもらえないか。昨日は、外務省を訪問したそうではないか。こんなに頻繁に動き回られては、我々にとって迷惑だ」

「本当にすみません。本国からの命令でして、派手に動き回って、人目につかないといけないのです」

 来訪者の土方歳一少佐は、頭を下げながら言った。

「理由は分からないでもないが、我々にとっては迷惑なのだ。執務室で続きは話すが」

 レヴィンスキー中佐の口調は、土方少佐を半ば叱りつけるようなものだった。

 土方少佐は、少し体を縮めて、レヴィンスキー中佐の執務室に入った。


「我々の把握している情報では、とりあえず、ソ連の欧州方面軍の警戒態勢に変化は無い。ただ、ソ連の国内防諜の警戒度は大幅に引き上げられている。君達が派手に動いているおかげでな」

「本当にすみません」

 レヴィンスキー中佐の情報提供に、土方少佐は頭を下げながら言った。

 似たようなことが、ポーランド以外の東欧諸国、スウェーデン等の北欧諸国、トルコ等の中東諸国、インドを植民地として持つ英国等でも起きている筈だった。


 日本政府は、米韓両政府の了解を得て、満州事変へのソ連の介入阻止を謀っていた。

 一応、米韓両政府も日本政府の動きに協力してくれる筈だが、日本が主導権を握ったことが、内心では米韓両政府の気に入らない事らしく、消極的協力に止まっている。

 

 ソ連にとって、民族、宗教対立は表向きは無いことになっているが、裏では深刻な問題だった。

 日本政府は、それに目をつけていた。

 かつての日露戦争時の明石工作が再び発動されているのでは、という幻をソ連に見せようというのだ。

 そうなっては、ソ連は動くに動けなくなる。

 日本政府は、ソ連を取り囲むようにある諸国群の駐在武官や外交官を派手に動き回らせることで、日本政府がそう企んでいるという幻影を振りまいていた。


「ともかく程々にしてくれ、民族、宗教対立というのは、君たちは単なる火遊びのつもりかもしれないが、我々にとっては大火事になりかねないことなのだ。我がポーランドにしても、民族、宗教対立を抱えているのだ。余りにも君の行動が目に余るとなったら、君をペルソナ・ノン・グラータと、ポーランド政府は判断せざるを得なくなるぞ。そうなっては、元も子もないだろう」

 レヴィンスキー中佐は、土方少佐に半ば忠告し、土方少佐も肯かざるを得なかった。


「話を変えるが、君は日本に帰らなくていいのか。君も満州に軍人として派遣されたいのではないかね。それに、世界大戦の実戦経験のある士官は、日本の海兵隊にとって貴重な存在だろうに」

 レヴィンスキー中佐は、土方少佐に尋ねた。

「私、個人としては、日本に帰って満州派遣総軍の一員として、満州に赴きたいのですが。しかし、今、自分がやっていることも、祖国にとっては大事な任務ですから」

「確かにそうだな」

 土方少佐の答えに、レヴィンスキー中佐は肯きながら言った。


 何で土方歳一少佐らが、派手に動き回らねばならなくなったかについては、この週末に活動報告でも補足説明しますが、ソ連の満州事変への介入阻止の必要からです(史実と異なり、この世界では蒋介石が日本に亡命する等、第一次国共合作がうまく行ったことから、張学良とソ連との関係も史実より遥かに良好になっています。その為、米韓は無頓着ですが、日本はソ連の介入を警戒する必要が生じました。)。


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