表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/120

第3章ー20

 その会議において、石原莞爾中佐の作戦案に対する疑問、非難は終わるまで止むことは無かった、といっても過言では無かったが、石原中佐の傲岸不遜極まりない態度は、そういったものを最終的に押し潰した。

 それに会議に参加していた海兵隊出身者にとって、営口という地名は、ある意味では甘美極まりない地名だった。


 30年近く前の日露戦争時、林忠崇中将率いる海兵師団は、当時、世界最強を呼号していたミシチェンコ将軍直卒のコサック騎兵を、営口にて機関銃や迫撃砲等を駆使して迎撃し、完膚なきまでに叩きのめした。

 騎兵の完全な終焉が始まった、騎兵隊の終わりを世界に告げた偉大なる弔鐘、等々と世界中を驚嘆させた偉大なる勝利だった。

 何しろ、露軍は8000名以上を戦死、又は捕虜として失ったのに対し、海兵師団の死傷者は100名にも満たなかったのだ。

 この勝利無くして、奉天会戦での日本軍の史上最大の勝利は無かったとまで言われた勝利だった。


 その営口の地に、今度は、海兵隊を主力とする日本軍が上陸し、張学良軍を叩きのめそうとするのだ。

 海兵隊所属の面々にとって、これ程、縁起の良い上陸地点は無かった。


 こうして、会議は、営口上陸作戦を来年の1月を期して行うこととしてまとまったが、その間の準備も大変なものになった。

 何しろ、4個師団を上陸させようというのである。

 三単位制師団に改編されているので、かつての日露戦争時の第2軍、3個師団とそんなに規模は違わないという主張があるが、当時とは異なり、日本軍も自動車化がかなり行われている。

 海兵師団所属の内海兵1個連隊は完全自動車化済であり、砲兵等も自動車化を海兵隊は進めている。

 それによる補給の増大は、質量共に大変なものがあった。

 更に、陸軍も、海兵隊に負けないように、自動車化を進めているのが、現状だった。

 満州派遣総軍の兵站参謀が過労死するという噂もむべなるかな、という惨状が引き起こされた。


 だが、日本国内経済の観点から見れば、悪いどころか、いい影響をこの事はもたらした。


「社長が恵比須顔になっているぞ。何か悪い物を食ったのかな」

「馬鹿野郎。今回の戦争に、日本も派兵することが決まったろうが。そのために、軍需関係の注文が大量に来たんだ。臨時手当も出るらしいぞ」

「本当か。これで食えるぞ」

 こういった会話が、日本国内の津々浦々で交わされた。


 そう、世界大恐慌により不振にあえいでいた日本の経済を、満州事変の特需は生き返らせたのである。


 そして、満州事変に対処するための陸軍、海兵隊5個師団の新規動員、更なる増派に備えた陸軍の動員準備は、日本国内で人手不足を引き起こしてもいた。

 更に、犬養毅内閣成立に伴う高橋是清新蔵相による公務員の給料カットの終焉。

 公務員の事実上の賃上げは、人手不足に悩む民間にも速やかに波及し、民間の賃上げも引き起こした。

 そして、この影響は、日本国内の大幅な景気回復をもたらせた。


「満州事変のお蔭だな」

 犬養毅首相率いる立憲政友会内では、この景気回復に乗って、1932年1月を期して、衆議院解散、2月に衆議院総選挙が公然と語られるようになった。

 もちろん、犬養首相自身も大乗り気だった。

「この状況なら、総選挙で大勝できる」

 犬養首相の鼻息は荒かった。


「厄介なことになった。うまく行きすぎた」

 林忠崇侯爵は、内心では冷めた見方をしていた。

 林侯爵は、ここまでうまく事が運ぶというのは、予想外もいいところだった。

 林侯爵の本心としては、満州問題についてある程度の解決が出来ればよかったのに、日本国内では世界恐慌からの脱出ができるのではないか、という状況が生まれつつあった。

「勝ち過ぎそうだな」

 林侯爵は呟いた。

 ご意見、ご感想をお待ちしています。


 次から5話程、1931年12月時点の各国情勢についての事実上の説明回になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ