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第3章ー18

 紆余曲折の末に、満州派遣総軍司令部が実動したのは、10月半ばを過ぎていた。

 東京の参謀本部の一室に、続々と満州派遣総軍司令部の面々は集った。

 長谷川清参謀長が司会を務めて、満州派遣総軍司令部の会議は始まった。


 海兵隊4個師団、陸軍2個師団(内一個は既に旅順に展開済)が基幹とはいえ、満州派遣総軍を名乗るのには規模が小さいという疑問の声も、それぞれの軍内部の一部にはあったが、陸海空海兵の四軍を統合指揮するとなると総軍という呼称が、世界大戦の先例(林忠崇元帥が総司令官を務めた欧州派遣総軍のこと)からも相応しいという声の方が高く、満州派遣総軍という呼称が使われることになっていた。


 会議に参加している石原莞爾海兵中佐は、胸の高鳴りを迎えきれなかった。

 武藤信義陸軍大将を総司令官とする満州派遣総軍の作戦参謀として、陸海空海兵の四軍を統合して縦横に作戦を立案する機会が与えられたのだ。

 ここまで作戦家として大いに名を挙げる機会が巡ってくることは、二度とないだろう(というか、日本にとって、あってもらっては却って困る事態だ。)。

 この機会を存分に生かさないわけにはいかん。

 石原中佐は、海軍軍令部第三局作戦課内で、自らが中心になって入念に練り上げた対中国作戦案を、会議に参加している面々に披露していった。


「何、事実上、韓国を救援しないだと」

 一通り、石原中佐が、自らの作戦案を披露し終わった直後、会議に参加している面々の多くから、疑問の声が挙がった。

 その中には、武藤司令官までいる。

 石原中佐は、見る人が見れば、傲岸不遜ともいえる態度で、それに答えた。

「救援しないことはありません。ちゃんと舞鶴海兵隊を派遣しますし、空軍も主力は韓国に展開します」

「しかしだな」

 参加者の面々の多くが難色を示した。


 石原中佐の立てた作戦は、悪辣と言えば、悪辣極まりないものだった。

 韓国は(当の韓国軍自身は絶対に認めないが、)、鴨緑江から(わざと)撤退し、中国軍(というか張学良軍)を、韓国領内に侵攻させていた。

 韓国からは、一刻も早く、日本軍の来援を待ち望む要望が、連日のように届いている。

 満州派遣総軍司令部でも、この要望に至急、答えるべきとの声が高かった。

 だが、石原中佐は、この要望を一蹴していた。

「彼らには、餌になってもらいます」

 石原中佐の作戦案で、韓国軍の役割を要約すれば、上記の言葉になる。


 中国軍は、実は真面目に韓国領内への侵攻作戦案を検討したことは無かった。

 だが、(表面上は)韓国軍が敗走し、韓国領内に中国軍が侵攻してしまったことで、中国軍は国内の愛国運動の高まりから退くに退けない事態になっていた。


「今こそ中華民族主義達成の為に、韓国を併合すべきだ」

「開戦の為に悪辣な謀略を仕掛けてきた韓国を絶対に許すな。韓国を潰せ」

 こんな国内の声の高まりを無視することは、今の中国政府にはできない。

(ちなみに、この声の裏側には、実は米国の開戦派がいた。華僑を通じた迂回献金により、わざとこのような声を煽っていたのだ。)


 いわゆる満鉄を活用することで、中国本土から満州へ、更に韓国への兵站線を維持して、韓国侵攻軍の補給を支えようとしていたが、満鉄を実際に運行していた日米人が逃げ出し、機関車、貨車等を大量に韓国や旅順に退避させたことで、韓国領内の中国軍は糧食は現地調達等を駆使して、何とか確保しているものの、弾薬等の不足に苦しむ羽目になっていた。


 石原中佐は、この状況に着目して、主張した。

「日本空軍を主力とした部隊により、鉄路に対する攻撃を行い、更に海軍を動員して、渤海の沿岸航路を活用した輸送線を潰します。弾薬等の無い中国軍等、全く怖くありません」

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