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第3章ー16

 こういった国内外の状況から、若槻礼次郎内閣は、どうにも行き詰ってしまい、とうとう内閣総辞職に追い込まれる羽目になった。

 日本国内の恐慌対策失敗、陸軍の一部によるクーデター未遂事件、更に何とか外交交渉により国境紛争で若槻内閣が収めようとしていた中韓の間の全面戦争突入である。

 どれか一つとっても、内閣総辞職になってもおかしくない事案で、それが三つも重なっては、若槻内閣が存続できるはずも無かった。


 こうして、1931年10月13日、立憲政友会総裁、犬養毅を首相とする犬養内閣が日本で成立した。

 犬養毅は、高橋是清元首相を三顧の礼をもって蔵相に迎え入れることで世界大恐慌に対する国内経済対策に当たらせると共に、自らの娘婿、芳沢謙吉を外相に迎え入れることで、日本の外交関係を自ら掌握しようとした。

 また、斎藤實海相を留任させると共に、渡辺錠太郎参謀総長を陸相に迎え入れ、陸軍内部の粛軍を行うと共に軍部の暴走を抑制しようと試みた。


 そして、犬養内閣が成立した翌日、1931年10月14日、日本政府は中国に対して宣戦布告をしない旨、犬養内閣は声明を出す一方、同盟国の韓国救援のために、日本は海兵隊を総動員して韓国に派兵すると共に、それ以外の軍、陸海空軍に対して、対中派兵準備に入るように指示を出したと発表した。

 その発表を受けて、同盟国の韓国をはじめとする諸外国政府は首をひねることになったが、日本の犬養内閣の真意は、その数日後に明らかになった。


「何だと、蒋介石を首班とする中華民国臨時政府の樹立が、東京で発表されただと」

 韓国陸軍参謀本部内は騒然となっていた。

「ああ、日本政府に加え、米国政府も承認の意向を示している。韓国政府に対して、日米両政府から蒋介石を首班とする中華民国臨時政府を承認するようにと、意向を示されたということだ」

「一体、東京では何が起こっていたのだ」

「日本政府は、中華民国臨時政府の要請を受けたこともあり、陸海空軍を満州に送り込むとあらためて決めた旨、報道がなされているぞ」

「そんな馬鹿な」


「いや、敵を騙すには、まず味方からとはいえ、黙っていて申し訳ありませんでした」

 それに相前後して、蒋介石は、犬養首相に頭を下げていた。

「ま、私は本当に知らなかったのですし、手を汚さずに済みました。それにしても、蒋介石殿、中華民国臨時政府の新理念として、中華民族主義を否定して五族共和主義を唱えて、本当に良いのですか」

 犬養首相はいぶかって、蒋介石に問いただしていた。


「そうしないと満州にいる満州族の歓心を得られませんし、米国や韓国の支持も得られませんからね。妻の宋美齢を通じて、宋一族等を動かし、米の国務省を動かすのには、本当に骨が折れました」

 蒋介石は、犬養首相とは気心の知れた仲であることもあり、悪い表情を示しながら言った。

「まずは、私が中国本土にしっかりとした地盤を築かないといけませんから。それくらいは妥協しますよ。私の口で言うだけなら、全く問題ありません」

 犬養首相は、その表情と言葉を聞いて、思わず笑ってしまった。


「それ以上は、私はお伺いしない方が良さそうだ」

 笑いを収めた犬養首相は、真顔になって、蒋介石に言った。

「既に旅順には、1個師団を基幹とする関東軍が展開していますし、海兵隊4個師団、陸軍1個師団を主力とし、適宜の海空軍を支援部隊とする満州派遣総軍を編制して、日本は満州に派兵する予定です。中華民国臨時政府軍にも、武器等の支援を行い、満州に派兵していただきたいと考えています。あなた方にも血を流してもらう必要がありますからな」

「我々も自らの血を流さないと帰れませんな」

 蒋介石は、犬養首相に答えた。 

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