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第3章ー12

 月齢の問題から、月は完全に沈んでおり、星明りのみが艦上の灯りとなっていた。

「異常は無いか」

 李提督の問いかけに、黒い影と事実上なっている「乙支文徳」の乗組員は、

「異常ナシ」

 と簡潔に答えるのが続いている。


 新義州の沖合、鴨緑江河口から、数海里程離れた海域を、「乙支文徳」は半ば漂流していた。

 軽巡洋艦1隻、(日本海軍が言うところの二等)駆逐艦12隻を戦力の基幹とする韓国海軍は、大演習を表向きは行っている真っ最中だった。

「乙支文徳」は朝鮮沿岸を航海している不審船の役割を務めており、駆逐艦4隻が臨検を行おうとしたところ、不審船が発砲してきたので、駆逐艦4隻は応戦するというのが、演習上での設定だった。


 だが、それでは、「乙支文徳」の乗組員の訓練に余りならないので、「乙支文徳」は中国軍の侵攻に際して、韓国陸軍への援護射撃を行っていた際に、中国軍に呼応して、ソ連海軍の駆逐艦が襲撃を試みてきたのに「乙支文徳」が応戦するというのが、演習上での設定にもなっている。


 真の目的は、別だがな。

 李提督は笑みを浮かべながら考えた。

「乙支文徳」を襲撃(?)する筈の駆逐艦4隻は、平壌沖合で右往左往している筈だった。

 当初は、平壌沖合で演習を行う筈が、連絡の行き違いで、新義州沖合で演習を行うことに変更という連絡が、駆逐艦4隻には届いていなかった、ということになっている。


 そして、単艦で航行中の「乙支文徳」の艦長が、何の気なしに、鴨緑江河口に目を向けたところ、張学良軍の侵攻作戦開始に気づき、私の判断で、砲撃を浴びせ、その意図を挫いたということになる予定だった。

「乙支文徳」の見張員は、海上からの襲撃を警戒する余り、陸地への警戒が疎かになっている。

 張学良軍の侵攻作戦開始に、艦長が気づき、私が確認した、と大声を上げれば、「乙支文徳」の見張員全員が、見張りが不十分だったと懲戒される危険性を考え、自分の保身も考えて沈黙を守るだろう。


 張宗昌将軍は、自らの保身のために、十名余りの兵士を生贄に差し出すことに同意していた。

 その十名余りの兵士は、張将軍の密命で、鴨緑江河口から韓国人の内通者と接触して、韓国国内の内情を探るために密入国すると思い込まされている筈だった。

 内通者と兵士達は、お互いに顔を知らないので、合言葉を教えられると共に、張学良軍の軍服を目印として、その兵士達は密入国を行う。


 だが、李提督や張将軍といった陰謀参画者の実際の意図は全く異なるもので、その十名余りの兵士が鴨緑江を渡河した韓国領内で遺体を晒すことが、主な目的だった。


 張学良軍が韓国併合の為に武力侵攻を始めたが、思わぬ事態が発生したために、思わず一時中止した。

 そして、口を拭って済まそうとしているが、それは許されない、と韓国が糾弾する証拠に、張学良軍の軍服を着た遺体がなるのだ。

 更に、「乙支文徳」が、それを行ったという韓国国民への宣伝効果が重要だった。


「乙支文徳」は、韓国史上で文句無しに五本の指に入る救国の名将だった。

 隋の侵攻に際して、高句麗の武将として戦い、大戦果を挙げている。

 そして、現在、中国が韓国併合のための武力侵攻を試みたのに対して、「乙支文徳」の名を受け継ぐ軍艦が先頭に立ってそれを食い止めたことになるのだ。


 あざとい、といえばいえ。

 李提督は腹を括っていた。

「乙支文徳」という軍艦を韓国海軍が就役させた際に、国民党左派と共産党からなる中国政府は、韓国政府に対して、歴史のねつ造は断じて許されない、という猛抗議を行った。

「乙支文徳」は、中国の武将であり、韓国の軍艦の名称として付けるのは、歴史のねつ造と言ったのだ。

 韓国国民の多くが、憤激した一件だった。 

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