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第3章ー10

 石原莞爾中佐が、米内光政海兵本部長とそのような会話を繰り広げているのと相前後して、梅津美治郎少将は、蒋介石と直接、面談していた。


 ちなみに、その場にいるのは、2人以外は立会人の林忠崇侯爵のみで、仲介の労を取った犬養毅立憲政友会総裁でさえ、その場にはいない。

 林侯爵が、犬養立憲政友会総裁の手を汚さないために、と配慮を尽くした結果だった。


「わざわざ、私のような者とお会いいただき、本当にありがとうございます」

 梅津少将が頭を下げながら言うのに、蒋介石も頭を下げ返しながら言った。

「いえ、このような亡命者に、わざわざお会い下さるとは。こちらこそ、自分から頭を下げるべきです」

 蒋介石は、犬養立憲政友会総裁から、梅津少将が日本陸軍の有力派閥、ブリュッセル会の事実上のトップにあることを知らされていた。

 それ故に、このような丁重な態度を執ったのである。


「単刀直入に申し上げます。蒋介石殿は、中国に政府首班として帰りたいという想いはおありでしょうか」

「いきなり、何ということを」

 梅津少将の言葉に、蒋介石は言葉を詰まらせた。

 中国に政府首班として、自らが復帰する、自分が始終、夢見ていることではないか。


 余りの衝撃にしばらく沈黙した後、蒋介石は自らの想いをさらけ出した。

「中国に政府首班として帰れるものならば、私は何としても帰りたいです。これ以上、祖国、中国の民が共産主義の猛威にさらされているのを、私は座視できません」


 1931年夏当時、南京事件に相前後して完全に成った中国共産党と中国国民党左派の合同政府は、徐々にではあるが、完全に共産党単独政府に成りつつあった。

 まずは、かつての中国国民党中間派が政府中枢から排除され、中には処刑される者が出るようになった。

 次に、政府中枢から排除されるようになったのが中国国民党左派だった。


 中国共産党は、政府の警察、検察、裁判所といった司法関係を、まずは完全掌握し、その上で国民党関係者の排除を冷酷に進めていたのである。

 今や、かつての中国国民党指導者で、今でも中国政府中枢にいるのは、孫文の妻、宋慶齢と、汪兆銘のみと言われても仕方ない有様にまでなっていた。

 それ以外は、軒並み、媚米主義者、媚日主義者等のレッテルを張られ、よくて政府中枢から失脚して、中国国民党から追放、下手をすると漢奸として死刑に処せられていたのである。


「我々は、中国政府が、韓国併合のために鴨緑江を越えて陸軍を侵攻させようとしているという未確認情報を掴みました。今、この情報を確認しているところですが、情報の確度は高まるばかりです。このようなことは、中国の民衆を、より苦しめることになります。中国の民衆を救うためにも、蒋介石殿に中国政府の首班となっていただき、中国と周辺諸国の和解を進めたいと思うのです。ご尽力いただけないでしょうか」

 梅津美治郎少将は、蒋介石に畳みかけた。

 その言葉に、蒋介石は深く肯きながら言った。

「分かりました。私と共に日本に亡命してきた、かつての中国国民党軍の諸子からも同志を募り、あなた方と行動を共にしましょう」

「ありがとうございます」

 梅津少将は、頭を下げた。


 蒋介石は内心では冷ややかに思った。

 おそらく、中国が韓国併合のために軍を動かそうとしているというのは、誤情報だ。

 今の中国に、韓国に手を出す余裕があるわけがない。

 だが、私としては、この神輿に乗らせてもらう。

 そうしないと、いつまでも日本での亡命生活を送る羽目になるからな。


 一方、梅津少将も思っていた。

 これで、よし。

 蒋介石が中国新政府の長として名乗りを上げては、米韓も文句を付けられまい。

 満州で勝手に策謀を巡らせた落とし前はつけさせてもらう。 

次から、登場人物が日本人から韓国人へと、場面が変わる予定です。


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