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第1章ー5

 加藤寛治軍令部長ら、日本海軍本体の中でも強硬派(後に「艦隊派」と呼ばれるようになる。)は、海軍軍令部を中心に一体となって、ロンドン海軍軍縮条約の第一提案に反対を唱えた。

「冗談ではない。これ以上の主力艦、戦艦削減を日本は受け入れる余地はない」

 彼らの主張を要約すれば、上記のようになる。

 他にも重巡洋艦が対米4割に制限される等、彼らからしてみれば国辱だと言いたいことは山ほどあった。


 だが、その一方で、山梨勝之進海軍次官を中心とする穏健派(後に「条約派」と呼ばれるようになる。)の勢力も極めて強く、海軍省を中心に結束した。

「そもそも対米戦自体が、夢物語に近いのに、何故、対米比率に日本海軍がこだわる必要があるのだ」

 こちらの主張を要約すれば、上記のようになる。

 穏健派は、ロンドン海軍軍縮条約の第一提案に賛成を唱えた。


 井上良馨元帥海軍大将が亡くなった今、現在、生存している海軍元帥が真っ二つに分かれたのも、艦隊派と条約派の仲裁を困難にしている一因だった。

 艦隊派は、東郷平八郎元帥を旗頭に結束した。

 条約派のバックには、林忠崇元帥が事実上付いて、睨みを利かせていた。


 林元帥は、海軍本体ではなく、海兵隊出身なので、表向きは中立を保っていたが、軍令部が軍政に関与することは言語道断と発言し、軍政絡みのことになるロンドン海軍軍縮条約で意見を言っていいのは、海軍省のみである、と主張していた。


 こうなっては、加藤軍令部長ら、艦隊派は、林元帥は条約派に味方した、と見なさざるを得なかった。

 軍令部はロンドン海軍軍縮条約に何もいうな、という林元帥の主張を受け入れては、ロンドン海軍軍縮条約締結について、艦隊派はほぼ全面的に条約派の言いなりになるしか無くなるからである。

 逆に、条約派は、林元帥の主張を、錦の御旗にして、艦隊派を抑え込もうとした。


 更に問題となったのは、艦隊派にとって、今や帷幄上奏という手段が事実上無くなっていたことだった。

 以前だったら、加藤軍令部長は、帷幄上奏という手段を使い、天皇陛下に訴えることができた。

 だが、林元帥の存在が、それを潰してしまった。


 林元帥は、予備役編入後も、帷幄上奏を駆使し、海軍本体にくちばしを挟むような素振りが見えた。

 当時、第2艦隊長官だった加藤軍令部長らは、それを危険視した。

 後から考えれば、林元帥の行動は、実は、元老の山本権兵衛元首相(当時は首相)との二人三脚の行動だったのだろう。


 関東大震災後に成立した第二次山本内閣によって、帷幄上奏を行うに際しては、首相の同意が必要と言うことになり、このことについては、当時の財部彪海相、田中義一陸相、山下源太郎軍令部長、秋山好古参謀総長の4人も同意した。

 そして、帷幄上奏を行える者は、参謀総長と軍令部長に限られ、それもそれぞれの所属する大臣(参謀総長なら陸相、軍令部長なら海相)を介して、首相の同意を取り付けることになった。

 これによって、林元帥の帷幄上奏権を剥奪できた、と加藤軍令部長らは喜んだが、今になって、それに苦しむことになっていた。


 ロンドンに財部海相がいるので、山梨海軍次官が、海相事務取扱になっているが、山梨海軍次官は、加藤軍令部長からの濱口雄幸首相への帷幄上奏取次を断固、拒否していた。

 旧知の立憲民政党議員を介して、濱口首相に内報を加藤軍令部長は試みたが、濱口首相も、加藤軍令部長の行動に拒否反応を示した。

 そもそも、帷幄上奏をするのなら、まずは山梨海軍次官を通せ、と濱口首相はいうのである。


「濱口め、海軍軍縮を進める気だな」

 加藤軍令部長らは、この際、野党の立憲政友会と手を組んで、ロンドン海軍軍縮条約の締結阻止に動くことを決断した。

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