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第3章ー9

 石原莞爾中佐は、1931年当時、軍令部第3局(海兵担当)の作戦課長という職にあった。


 1931年夏のある日、石原中佐は、軍令部次長(海兵担当)の永野修身提督に呼び出された。

 何事か、といぶかりながら、石原中佐が、永野提督の下に赴くと、永野提督は深刻な顔をしながら言った。

「石原中佐、中国が韓国に対して侵攻した場合等の作戦計画があった筈だが、その計画を再検討してくれ」

 石原中佐は、何となくだが、永野提督の言葉に違和感を覚えた。


「何か特別な情報でも入ったのでしょうか」

 石原中佐の問いかけに、永野提督は答えた。

「いや、作戦計画に問題が無いか、の検討だ。何かあった時に、作戦計画に問題があったのでは問題になるからな」

「分かりました」

 石原中佐は、取りあえずは矛を収めて、作戦課全員を集めて、作戦計画を見直すことにした。


 だが、石原中佐は、(違法行為と言われても仕方ない行動だったが)独断専行を決断して、軍令部第3局のみならず、海兵本部や、更には海軍本体、陸軍内部にまで手を伸ばして、満州情勢の情報収集に努めた。

 表向きは、作戦計画を見直すには、情勢の再検討が必要と言う名目を掲げたが、石原中佐の下に、朧気ながらも、少しずつ最新の満州情勢についての情報が入るにつれて、石原中佐の顔色は深刻な物になった。

 その情報全てが、深刻なものを示しつつあったからだ。

「これは、何かあるな。まさか」

 石原中佐の脳裡に、よぎるものがあった。


 石原中佐は、越権行為なのを重々承知の上で、海兵本部長の米内光政提督に会いに行った。

 その目的はただ一つ。

 海兵隊のトップ2人、米内提督と永野提督が、満州で何か事が起こると予測しているが、その事を阻止するつもりは無く、逆用するつもりなのではないか、という自分の想いを確かめるためだった。

 永野提督に、自分が問いただすと、しどろもどろの対応をされて、却って真相が分からなくなりそうだ。

 だが、米内提督は、肚が座っている。

 自分が、問いただせば、肚を割って、真相を話してくれるだろう。


 石原中佐の面会希望に対して、米内提督はすぐに会ってくれた。

 米内提督の顔を見るなり、石原中佐は、いきなり言った。

「満州で米韓が事を起こそうとしている。それを、海兵隊は見過ごして、逆用しようと企んでいるのではありませんか」

「ほう、聞き捨てならないことを言う。何か掴んだのか」

 米内提督は、半ば惚けた。


 石原中佐は、追い討ちを掛けた。

「私にも、目や耳があります。海軍本体や陸軍にまで、情報収集の手を伸ばしました、その情報収集の結果からすると、ぼんやりとですが見えてくるものがあります。それは、米韓が満州の水面下で動いているということです。ですが、日本政府は動いていない。その一方で、海兵隊上層部は、我々作戦課の面々に作戦計画を立てさせている。どうにも不自然です」


 米内提督は思った。

 林侯爵が言った人間が現れた。


「よくぞ、見抜いた、というべきかな。その代り、一蓮托生の身になった事を覚悟してもらうぞ」

 米内提督は、石原中佐に言った。

 石原中佐は、思わず身構えた。

 自分は見てはならないものを見てしまったのかもしれない。


 米内提督は、自分が掴んでいる満州の最新情勢と、米韓が満州で陰謀を企んでいること、更に陸軍の一部や自分達が考えていることを、石原中佐に明かした。

 石原中佐は驚愕した。


「疑ってはいましたが、本当の事とは思いもよりませんでした。そして、これほどのことを、米韓の陰謀の逆用として考えられていたとは」

 石原中佐はため息を吐きながら言った。


「さて、どうする。政府に通報するか」

「通報しないに決まっているではありませんか」

 2人は共に笑って言った。

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