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第3章ー6

 とはいえ、ブリュッセル会の面々に、直接、蒋介石との面識は無い。

 結局のところ、ブリュッセル会としては、林忠崇侯爵に相談を持ちかけるしかなかった。


 梅津美治郎少将から、相談内容を聞き終えた林侯爵は、怒りの余り、まずは梅津少将を叱りつけた。

「敢えて言わせてもらう。いい加減にしろ。事が事だから、お前たちから自首できるように、今回の一件については、わしは黙っておいてやるが。本来なら、永田が板垣から連絡を受けたら、すぐに南に、ご注進、と永田が南に報告に参上すべき話だ」

「おっしゃるとおりです」

 梅津少将は、頭を下げながら、要らないことを思った。


 生ける軍神ではないか、という噂のある林侯爵相手では、陸軍トップの南次郎陸相でさえ、呼び捨て扱いにされるのか。

 そんな扱いを受けても仕方がない陸相なのも事実なのだが。


「本当に申し訳ありません。ですが、我々としては、満州問題について、板垣大佐がそこまでの事を考えざるを得ない事態に陥っているのも、もっともだ、と言わざるを得ないのです。国際法を遵守して、満州に在住している日米韓三国の住民について、中国新政府が保護してくれるのならまだしも、公然と日米韓の三国民は本国に帰れ、と中国新政府を筆頭に張学良から民衆まで喚き散らし、実際に被害が出ています。この状況を黙認しろ、と林侯爵は言われるのですか」

 梅津少将の反論に、林侯爵は思わず沈黙した。


 梅津少将の感覚では、1時間近く沈黙の時が流れた後、林侯爵は言った。

「分かった。わしも同罪になるが、犬養毅立憲政友会総裁を紹介人にして、蒋介石と接触させてやる。その上で満州問題について、お前自身が話をしろ」

「ありがとうございます」

 梅津少将は、林侯爵に頭を下げた。


「ただ、一言だけ忠告させてくれ。今回のお前達、ブリュッセル会の行動は、自分達が国を憂う余りの真情から発した行動かもしれないが、それが周囲に与える影響が、本当に分かった上で行動しているのか」

 林侯爵は、梅津少将に問いただした。

「と、言われますと」

「お前達の行動を、後輩等も見習う危険性があるということだ。お前達からすれば、間違った理由でな」

 梅津少将は、その言葉に頭を殴られたような思いがした。


 今度は、梅津少将の方が1時間近く沈黙した後で、ゆっくりと言葉を絞り出した。

「林侯爵の御言葉、肝に銘じたいと思います。ですが、今回の満州問題については、我々は、最早、引き返せない、我々全員が銃殺されてでも動かねば、と考えています」

「その言葉を絶対に忘れないようにしろ」

 林侯爵の言葉に、梅津少将は無言で肯いた。


「ところで、米韓の詳細な動きは分からない、と板垣は言っているのだな」

「はい、その通りです」

 林侯爵の問いかけに、新兵のように思わず背を伸ばして、梅津少将は肯きながら言った。

「梅津、お前が米韓の工作員だとして、どのように行動すれば、日本を巻き込めると考える」

「それは」

 梅津少将は、暫く考え込んだ末、恐るべき結論を思いついてしまった。

 だが、そこまで、韓国はやるだろうか。


「鴨緑江を張学良軍に渡河させ、韓国に対する不当な侵略を中国新政府は行ったという宣伝を、韓国政府が積極的に行い、日本の世論を喚起して、日本軍の派兵を我々が余儀なくされる可能性があると考えますが」

「何だ。ちゃんと分かっているではないか」

 梅津少将が散々考えて言った答えを、あっさりと林侯爵は肯定した。


「そこまで分かっているのなら、それまで逆用できるように考えて動け。いいな」

 林侯爵は、梅津少将に念を押した。

 梅津少将は肯いた。


「後、蒋介石との接触、交渉が必要だな。最善を尽くして行動しろ」

 林侯爵の言葉に、梅津少将は肯いた。 

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