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第3章ー5

 さて、板垣征四郎大佐が、そこまで本庄繁中将に強い言葉を言えたのには、勿論、裏があった。

 板垣大佐は、本庄中将の了解を得次第、陸軍士官学校同期の面々、具体名を挙げるならば、永田鉄山大佐等に連絡を取った。

 板垣大佐自身は、直接、ブリュッセル会に入ってはいない。

 だが、板垣大佐の陸軍士官学校同期の何人かが、ブリュッセル会に入っており、その縁からブリュッセル会の支援を板垣大佐は当てにできたのである。


 板垣大佐の情報提供を受けた永田大佐をはじめとするブリュッセル会の面々は考え込んでしまった。

「どうすべきだと考える」

 小畑敏四郎大佐は、取りあえず帝都、東京近在にいるブリュッセル会の面々が集まった会合の席で、他の面々に問いかけていた。

「動かないという選択肢は我々には無い」

 永田大佐は言った後に続けた。

「問題は、どちらに我々は動くべきか、ということだ」


「米韓の陰謀阻止に動くか、それとも、米韓の陰謀に事実上加担して、板垣大佐の目論見に参加するか、ということと理解していいか」

 岡村寧次大佐が、永田大佐の意向を確認するために、声を上げた。

 永田大佐は無言のまま肯いた。


「厄介だな。板垣大佐の情報によると、米韓が動いていると言っても、一部の暴走だ。米韓それぞれの本国政府が完全に承認した作戦と言う訳ではないらしいからな。陰謀阻止のために我々が動くという選択肢が、我々には与えられているわけだ」

 梅津美治郎少将が、言葉を発した。


 実は、こういった会合において、梅津少将が、言葉を発することはめったに無い。

 梅津少将は、ブリュッセル会の事実上の領袖としての立場から、最後の結論の段階で、結論についてだけ発言することが多い。

 だが、事が事である。

 事の重大さから、梅津少将と言えど、沈黙を保つわけには行かなかった。


「陰謀阻止という選択肢ですか」

 小畑大佐が、驚いたような声を上げた。

 小畑大佐は、実は内心ではブリュッセル会の面々全員が、喜んで板垣大佐の提案に乗るのが当然とまで考えていたのだった。


「いいか、事は重大だ。下手をすると、中国に対して日米韓が全面戦争を吹っかけることになるのだぞ。勝手に我々が暴走して決めていいことだと、まさか、思っていたのか」

 梅津少将は、敢えて厳しく言った。

「本当なら、板垣大佐から連絡を受けた時点で、私は南次郎陸相に報告すべき、とまで思った。だが、南陸相は当てにできないという想いから、今のところ、私の手許で握り潰している」

 永田大佐は、内心の苦衷を絞り出すように言った。


 この場に集まっているブリュッセル会の面々の多くが思った。

 永田大佐が南陸相に報告した場合、当然、若槻礼次郎首相にまで報告が行く可能性が高い。

 その場合、問答無用で、米韓の陰謀阻止に若槻内閣は動くことになるだろう。

 何しろ、米韓の陰謀と言っても、一部の暴走だ、米韓本国政府は、日本の若槻内閣からの内報を受けた時点で、一部の暴走に味方するよりも陰謀が暴露されることによる危険性から、一部の暴走を鎮圧して、口を拭っておしまいにする公算大だ。

 では、それが正解なのか。


 いや、それは間違っている。

 満州在住の日米韓の住民に対する、中華民族主義者の攻撃は激しさを増す一方だ。

 若槻内閣は、中国新政府や張学良に抗議を繰り返すことで、何とかなると思っているらしいが、我々は何とかなるとは思えない。

 彼らは、我々の正当な権利である満鉄経営すら否定する国際法を無視したことさえ言いだしつつある。


 ブリュッセル会の面々は、長時間にわたる議論を行った末に、蒋介石に対して、板垣大佐の提案に乗る余地があるのか打診し、その上で今回の件について最終的な行動を決断するという結論に達した。

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