第3章ー4
米韓の一部の不穏な動きは、満州にいる日本の出先機関の一部にも察知されつつあった。
日本に隠して行動しようと、彼らは行動したので、却って日本の出先機関が怪しんでしまい、それによって動きが漏れてしまったのである。
ただ、さすがに詳細までは掴めない、日本の出先機関は、判断に迷うことになった。
その中の一つ、関東軍司令部では、ある意味、不穏極まりない発言が飛び交っていた。
「米韓の不穏な動きを黙認しろだと」
「声が大きいです。本庄司令官」
関東軍高級参謀の板垣征四郎大佐は、それとなく関東軍司令官の本庄繁中将を諌めた後で続けた。
「米韓は、おそらく兵乱を満州で起こすことを企んでいます。比に米海兵師団1個を展開したのは、その布石の一環でしょう」
「あれは、上海租界等の防衛に速やかに出動できるようにするためだと、我々にまで説明があったぞ」
「我々にまで説明があった、というのがそもそもおかしいのです。あれが、米韓の行動を私が不審に思ったきっかけです。上海等の防衛の為なら、米国が我々にまで説明する必要はないではありませんか」
「確かに否定できんが」
板垣大佐の言葉に、本庄中将は肯きながら言った。
「それで、黙認してどうしろと言うのだ」
「朝鮮陸軍は、4個師団を基幹とする部隊であり、米海兵師団1個が加わっただけでは、20万と号する張学良軍に勝てません。おそらく、彼らは我々、日本を巻き込む気です」
「それなら、尚更、我々は彼らの行動を止めるべきだろう」
「いえ、彼らだけに手を汚してもらいます。我々は、彼らに踊らされたことにします」
「何だと」
本庄中将は、大声を上げて板垣大佐を叱責しそうになったが、板垣大佐の目を見て思いとどまった。
板垣大佐は、昏い笑みを浮かべた目をしていたからだ。
「満州が張学良を介して中国新政府の統治下に入って以来、満州における排日運動は激しくなる一方です。張学良は、この運動を取り締まるどころか、加担している。それなのに、日本本国は口先で抗議するだけです。この際、満州において、日本が何らかの軍事行動は執ることは止むを得ない、と私は考えています。ですが、私としては、日本の手を汚したくない」
思わず、本庄中将は、板垣大佐の独演を聞き入った。
「そうしたところに、米韓の不穏な動きが分かったのです。彼らだけが手を汚そうとしているのです。日本を除け者にしてね。日本は、これに乗って満州問題の最終的解決を図るべきです」
「どうするつもりだ」
「満蒙の分離独立を果たします。米韓の一部もそう考えて、行動しているのでしょう。ですが、満蒙の分離独立の実際の形は、米韓の一部が思うような形ではなく、こちらの思う形でやらせてもらいます」
板垣大佐の答えに、本庄中将は唸って考え込んだ。
「本当にそんなことができると思っているのか」
暫く沈黙の時が流れた後、本庄中将は、事の重大さに声を潜めて、板垣大佐に問いただした。
「できると考えています。時と場所を間違えなければ」
板垣大佐は答えた。
「そもそも、満州を分離独立させるとして、誰をトップに据えるつもりだ」
本庄中将の問いに、板垣大佐は言下に答えた。
「蒋介石」
「元皇帝溥儀が新独立国のトップでは、いかんのか」
「韓国が呑みませんよ。今となっては、かつての清国について、韓国の近親憎悪が強い。それに、蒋介石ならば、中国本土まで、我々が場合によっては手を伸ばせます。それに張作霖の元部下クラスを、満州にできる新独立国のトップに据えては、世界が納得しません。どう見ても我々の傀儡に過ぎません」
更なる本庄中将の問いかけに、板垣大佐は答えた。
「分かった。その線で動け」
本庄中将は、板垣大佐に説得された。
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