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幕間2-5

 1931年9月末、帝都の政府中枢部には激震が走った。

 陸軍の佐官、尉官クラスによる荒木貞夫陸軍中将を首相にしようとするクーデター計画が、政府中枢部に発覚したのである。


 従前から、陸軍の佐官、尉官クラスの間では、濱口雄幸、若槻礼二郎両内閣による軍人の給料削減に極めて強い反発があった。

 更に2月に若槻内閣が成立したのは、陸軍の蠢動があったためだという噂が流れたことから、夢よもう一度とばかりに、陸軍がクーデターを起こすと蠢動することで、新内閣を設立させ、それにより給料削減を元に戻そうという動きにつながったのである。


 その一方で、2月の時に動いた将官クラスは自重した。

 彼らは、伏見宮空軍本部長の動きから、自分達の動きが監視されていることを察したからである。


 こうしたことから、今回のクーデター派の動きは、所詮、夢に終わった。

 内務省が以前から内偵を掛けており、それを伏見宮空軍本部長に内報していたからである。

 内務省が確実な証拠をつかんだ段階で、伏見宮空軍本部長は動き、クーデター派を一網打尽にした。

 後ろ暗いところのあった2月の時に動いた将官クラスは軒並み、伏見宮空軍本部長に加担した。


 最終的に、荒木貞夫中将は軍法会議に掛けられ、処断された。

 その他のクーデター派も処断され、大規模な粛軍が行われた。


 南次郎陸相は、このクーデター派の大規模な粛軍に際し、一時、日和見的態度を執った(クーデター派に加担した尉官クラスの窮状に同情していたためとも、宇垣前陸相に飛び火することを怖れたためとも言われる)ことから、今上天皇陛下の逆鱗に触れ、犬養毅内閣成立に伴い、陸相辞任を余儀なくされた。

 後任の陸相には、渡辺錠太郎参謀総長が横滑りすることになった。

 渡辺参謀総長は、陸軍のクーデター派摘発に際し、速やかに厳罰論を唱えたことから、今上天皇陛下の覚えがめでたかったからだが、もう一つの隠れた理由があった。


「本当にうまく行くとは思わなかったな」

 軍事課長の永田鉄山大佐は、ほくそ笑んだ。

「お前とは二度とこういった事では組みたくない」

 その顔を見た陸大教官の小畑敏四郎大佐は、憮然とした表情を隠そうとしなかった。


 ブリュッセル会は、クーデター派の動きを察していたが、敢えて動かず、むしろ、伏見宮空軍本部長らに加担した。

 ブリュッセル会の領袖の梅津少将は、会内部の意見を取りまとめた結果、クーデター派を早発させることで、クーデター派を叩きのめし、渡辺陸相誕生を後押しするという結論に達したのだった。

 ちなみに永田大佐らは、積極的にこの結論に同調したが、小畑大佐らは消極的だった。

 小畑大佐らは、クーデター派に内心ではかなり同情していたからである。

 だが、陸軍の改革は急務であり、精神論者の荒木貞夫中将に味方する等、ブリュッセル会としてはあり得ない選択だった。

 そして、陸軍の改革を急速に進めるとなると、ブリュッセル会にとって、渡辺陸相誕生が最善解だった。


「渡辺陸相は、犬養内閣に入閣して、すぐに陸軍の軍人の給料削減を帳消しにしてくれたではないか。それに文句を付けるのか。少なくとも、陸軍の軍人の不満はかなり消えたぞ」

 永田大佐は力説したが、小畑大佐の表情は相変わらずで、半ば吐き捨てるように言った。

「全ての公務員の給料が上がっただけだ」


「それくらいにしておけ。陸軍の精神論者、保守派を、今回の事で、かなり消せたのだからな。これで陸軍の改革を進めやすくなった」

 梅津少将が、いつの間にか2人の傍に来ていて言った。

 2人は、その言葉に肯いた。


「軍部は合法的な手段に徹すべきだ。クーデターは許されることではない」

 梅津少将は更に力説して、その言葉に2人も同意した。 

幕間の終わりです。


次話から、満州事変に突入します。

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