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幕間2-3

 林忠崇侯爵が、永田鉄山大佐に、そう言ったのには裏付けがあった。

 与党立憲民政党内に、立憲民政党員でない幣原喜重郎外相が、首相代理を務めていることに不満が横溢しているという情報が入っていたからである。

 濱口雄幸首相が負傷したために、幣原外相は首相代理を臨時に務めているのだから、この状態を早く解消すべきだ、というのは、ある意味で正論だった。


「とはいえ、テロで首相が替わった先例を作るのは良くないからな」

 林侯爵は、そう想いを巡らせた末、元老の山本権兵衛元首相に、まずは相談を持ちかけることにした。


「なるほど、陸軍内にそんなに不満が横溢しているのか」

 林侯爵の話を聞き終えた山本元首相は溜め息を吐きながら言った。

「問題は、どこまで陸軍内にクーデター支持者がいるのか、分からない事です。特に宇垣陸相が乗り気なのか、どうかが一つの鍵です」

「あいつは、「聞き置く」という妙な口癖があるからな。話す方は、宇垣陸相は自分に味方しているか、と錯覚してしまう」

 山本元首相は、そう評した後、林侯爵に尋ねた。


「お前が陸軍の軍人でクーデターをやるとしたら、どうする」

「物騒なことを言いますな」

「いや、クーデターをやるとしたら、どの程度の部隊が要るか、と思ってな。わしは海軍の軍人なので、そのあたりが分からん。お前は朝鮮でやったろう」

「日清戦争のことまで持ち出さないで下さい。私がやるとしたら、少なくとも第1師団は動かさねばならないと考えますが」

 林侯爵の答えに、山本元首相は言葉を継いだ。

「第1歩兵団長の梅津にクーデターの話が入っていない、ということはどう見ても、この計画ははったりだな」

「山本元首相も、そう思われますか」


「宇垣には、わしからも話をするが、伏見宮空軍本部長に、まずは叱ってもらおうか。それによって、クーデター派をあぶりだそう。どこまで、クーデター派がいるのか、根っこが分からんというのは気味が悪い」

 山本元首相は言った。

「後、確かに濱口内閣は限界だな。与党内からも倒閣運動が起きていてはな」

 山本元首相は半ば独り言を言った。

「若槻礼二郎元首相を、中継ぎ内閣にするか。西園寺元首相に、そう話を持ちかけよう。表向きは先日の幣原首相代理の失言を理由にするのが、相当だろう。林は、犬養毅立憲政友会総裁に、軽挙妄動するな、と釘を刺してくれ」

「分かりました」

 林侯爵は肯いた。


「濱口内閣を総辞職させるが、後任は若槻元首相の見込みですと」

 犬養総裁は渋い顔をしながら、林侯爵の情報を聞いた。

「暗殺未遂事件で、首相が野党に代わるというのは望ましくないとのことです。それによって、首相の暗殺事件を誘発するわけには行かないと、元老の意見は一致しています。ただ、若槻新内閣に失政があった時には、憲政の常道に従い、西園寺、山本の両元老は、犬養総裁を新首相に推挙するとのことです」

「分かりました」

 犬養総裁は、林侯爵の意見を受け入れることにした。


 一方、山本元首相は、西園寺元首相を動かし、更に立憲民政党内の反幣原首相代理の動きや、幣原首相代理自身の失言を理由に、元老共同の意見として、濱口内閣の総辞職と、若槻新内閣の成立を求めた。


 この動きは、陸軍の不穏な動きの機先を制することになった。

 濱口内閣が総辞職して、若槻内閣が成立するのなら、その動きを見守ろうという意見が陸軍内で強まったからである。

 永田鉄山大佐は、その意見を強めることに徹し、陸軍のクーデター計画を潰す主役になった。


 最終的に、若槻新内閣が1931年2月の内に成立することになったが、元老や政党、海軍が陸軍の不穏な動きに目を光らせる発端に、この一件はなった。

 また、陸軍の不穏な動きは続いた。

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