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幕間2-2

 1931年1月末、陸軍省軍事課長、永田鉄山大佐は、二宮治重参謀次長らが企てている、宇垣一成陸相を首相にしようとするクーデター計画を知らされて、懊悩していた。

 永田大佐にとって、最大の難問は、このクーデター計画がどこまで根が深いモノなのかが、自分にはわからない事だった。


「クーデターを起こすとなると、実動部隊が必要な筈だが。それなら、何故、第1歩兵団長の梅津美治郎少将にクーデター計画についての声が掛からないのだ?」

 永田大佐の頭の中で疑問が駆け巡った。


 梅津少将は、永田大佐も所属する、陸軍の改革を志すブリュッセル会の領袖ともいえる立場にあった。

 また、梅津少将は、現在、東京等を管区とする第1師団の隷下にある第1歩兵団長の地位にあった。

 もし、陸軍がクーデターを行うのなら、東京近辺の部隊を動かすのが常道である。

 そういったことから考えると、梅津少将の部隊は、クーデターの際に必須の存在、少なくともクーデター実施の際には、動かないことが必要な部隊、といえた。

 それなのに、梅津少将にはクーデター計画の話が届いていないようなのである。


「二宮参謀次長は、本気でクーデターをやるつもりが無いのではないか」

 陸軍大学を優秀な成績で出た永田大佐には、そんな考えが頭の片隅に浮かんだ。

「このまま、日本の政治経済改革を行わないのなら、陸軍がクーデターを起こすぞ、と脅すつもりか」


 現在、日本の経済はガタガタになっていた。

 日本全体が、世界大恐慌の煽りを受けているし、特に日本の農村は繭糸の価格の暴落に苦しみ、農業恐慌の様相も呈しつつある。

 徴兵されてきた兵から聞く家族の状況は、聞くに堪えないものが多い有様だった。


 それなら、政治の方は、というと。

 立憲民政党と立憲政友会の二大政党制が、一応は成立しているものの、永田の目からすると、党利党略に余りにも走っており、お互いに公務員イジメを競うこと等により、不況に苦しむ国民の歓心を自党が買おうとしているのでは、とさえ、疑いたくなる有様だった。


「さて、どうすべきかな。幾ら領袖とはいえ、梅津少将に余りにも頼るわけには行かないし」

 永田大佐は、思い悩んだ末に、亡くなられた秋山元帥の遺言に従い、林忠崇侯爵を頼ることにした。


 2月初め、秋山元帥からの遺嘱もあり、その頃、帝国議会に出席するために東京にいた林侯爵は、永田大佐と会ってくれた。

 永田大佐が、今、自分が把握している陸軍のクーデター計画の内容を語ると、林侯爵は暫く考え込んだ。


「永田が考えるように、脅しのつもりが大だろうが。どこまで根が深いのかが問題だな」

 暫く沈黙の時が流れた後、林侯爵は半ば独り言を言った。

「どうするのが最善と思われますか」

 永田大佐は、林侯爵に尋ねた。


「まずは、永田、何としてもクーデター計画を止めるように動け。本当にクーデターをやられたら、目も当てられないことになるからな」

 林侯爵の言葉に、永田大佐は黙って肯いた。

「わしは、濱口雄幸内閣を総辞職させる方向で動く。幸い、幣原首相代理の失言もあったしな」

 

 先日、幣原喜重郎首相代理は、国会答弁において、ロンドン海軍軍縮条約の政治責任を今上天皇陛下に追わせるかのような発言をし、野党や新聞から集中砲火を浴びる羽目になっていた。


「幣原首相代理の失言の政治的責任を理由に、濱口内閣を総辞職させる。それによって、クーデター計画の理由を潰す。新内閣が登場したら、濱口現内閣の政治的経済的失敗を叩くという理由での、陸軍のクーデター実施は通らん」

 林侯爵は力強く言った。

「しかし、濱口内閣が総辞職しますか」

 永田大佐は疑問を呈した。

「わしの政治的実力を甘く見るな」

 林侯爵は、永田大佐に言った。 

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