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第2章ー15

 1931年10月に成立した犬養毅内閣は、少数与党内閣であり、国内政治に苦労を強いられる羽目になったが、まずは世界恐慌への対策に奔走した。


 金解禁直前の1929年12月末の時点で、日銀の正貨準備高は約11億円近くあったのだが、金解禁を停止して金輸出再禁止を行った直後、1931年9月末時点では、その額が約8億円を割ってしまう有様にまで落ち込んでしまっていた。

 それだけ大量の金が、2年も経たない間に、日本から流出したのである。


 犬養毅首相から、三顧の礼をもって、自らの内閣の蔵相に迎え入れられた高橋是清元首相は、酒好きで知られた人物でもあったが、その数字を犬養首相から教えられた時に、

「こんなに金が流出した状況で、わしに蔵相を任されてもな。幾らわしでも、茶碗酒を呑むだけしかできないかもしれんよ」

 と犬養首相に、冗談を飛ばしたという逸話がある。

 もっとも、本当に冗談で、高橋蔵相は、早速、日本経済再生の為に辣腕を振るった。


「まずは賃上げだ」

 満州事変勃発に伴い、戦地に赴く将兵のみならず、国鉄をはじめとする銃後を支える人には、それなりの賃金を支払う必要があるという大義名分を掲げ、公務員の給料カットを、高橋蔵相は、犬養首相らに説いて止めさせた。

 これによって、民間関係にも賃上げの輪を広げ、賃上げによる国内需要の刺激を高橋蔵相は図った。


「後、仕事も大事だな」

 都市よりも農村が第一だ、という主張を与党政府に対して、高橋蔵相は行い、いわゆる地方、特に東北等の凶作の被害が特にひどい地域を優先して道路、用排水路、港湾等の整備を進めた。

 その際には、失業者の雇用を確保して、賃金の支払いを行うことを第一に考えた。

 東京等に出稼ぎに来ていたが、失業してしまい、帰村した失業者を保護するためである。

 例えば、そのために、道路の舗装を行う際には、コンクリート舗装が基本とされた。

 それによって、少しでも国内資源を使うコンクリ産業の保護、育成を行い、雇用を確保しようとも考えたのである。

 

 こういった対策が功を奏し、東北の農村では「娘の身売り相談に応じます」という看板が、そう出ずには済んだと言う。


 だが、それよりも昭和恐慌からの脱出に最大の効果を挙げたのは、皮肉なことに満州事変だった。

 中国による韓国併合を防げ、という名分を掲げて、日本は米国と共同して派兵したが、犬養首相は、その際に蒋介石率いる中国兵を派遣し、更に蒋介石を代表とする中国国民党正統政府により、五族共和による中国統一を支持する旨の声明を発表し、それに米韓も同調したのである。

 欧州から、極東情勢は複雑怪奇、という多くの声が挙がる中、満州一帯を日米韓と蒋介石の連合軍は制圧し、万里の長城以北の分離に成功した。


 この満州事変により、蒋介石率いる中国国民党正統政府は、満州一帯を事実上の領土として確保し、多くの諸外国は、事実上の国家として、これを認め、満州国と呼称した。

 この日米韓、蒋介石軍の行動に対して、国際連盟は何らかの調停を図ろうとしたが、日米が拒否権を連発したことから、身動きが全く取れず、中国が怒りの余り、国際連盟から脱退する羽目になった。


 この一連の行動の結果、軍需により、日本経済は世界恐慌以前の水準にまず回復すると共に、日米韓満四国の各種協定により、満州、朝鮮、米国市場を日本は確保することにもなった。

 また、前記のオタワ協定による英連邦市場の確保も加わり、日本経済は世界恐慌後の急速な回復に成功する(その代償として、中国との泥沼の戦場に足を踏み入れることにもなった。)。

 こうして「持てる国」の一つにもなった日本は、後に独等の「持たざる国」から宿敵視されることになった。

第2章の終わりです。

次話から幕間で、第2章で少し触れた陸軍の策謀を描きます。


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