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第2章ー13

 1930年11月14日、濱口雄幸首相は、東京駅で狙撃され、負傷した。

 いわゆる、濱口首相暗殺未遂事件である。

 このことが、濱口内閣崩壊の遠因となった。


 急きょ、宮中の席次から、幣原喜重郎外相が、首相代理を務めることになったが、幣原外相は、立憲民政党員で無かったために、与党立憲民政党に対するいわゆる睨みがきかなかった。

 こうした状況下で、1930年12月、第59回帝国議会は開かれることになった。


 昭和(農業)恐慌下で開かれた第59回帝国議会は、野党立憲政友会の攻勢に対し、与党立憲民政党は防戦一方に回らざるを得なかった。

 上記のように、濱口首相が負傷により、加療入院せざるを得ない状況にあったため、立憲民政党側にしてみれば、野党の攻勢に対し、反撃の陣頭指揮を執れる指導者がいない状況にあったためである。

 そして、井上準之助蔵相の緊縮予算堅持が相まって、恐慌対策への財政出動に対し、徹底した否定主義を与党立憲民政党が執らざるを得なかったことも、防戦止む無しに至った原因だった。

 更にもう一つ、原因があった。


「失業者は10万人を超え、更にその数を増す一方です。農村も疲弊している。何としても、積極的な財政出動等の対策が必要不可欠である」

 第59回帝国議会において、犬養毅総裁の陣頭指揮の下、立憲政友会の攻勢は激しかった。

 立憲政友会は、立憲民政党のお株を奪うように、失業保険法案の提出、労働組合法案の修正、小作法案の提出を提唱し、実際に法案の要綱を議場において示して見せた。

 この辺りは、自由党から立憲政友会へと移行し、長年、日本の与党的立場を維持してきた老舗政党の面目躍如たるものがあった。

 立憲民政党員から、地主と資本家の政党と陰で揶揄される保守政党でありながら、犬養新総裁の下で、小作人と労働者の政党へと改革を図ろうとしたのである。

 こうなっては、幣原臨時首相代理ら、濱口内閣の閣僚が個々に幾ら頑張っても、濱口内閣と与党は、悪戦苦闘せざるを得なかった


 与党、内閣が帝国議会において悪戦苦闘するのを見兼ねた濱口首相は、無理をして退院し、議場に赴くことさえ検討したが、その前に幣原臨時首相代理の帝国議会での失言が起きてしまった。


「ロンドン海軍軍縮条約は、天皇陛下が御批准になられたものであり、国防上、些かも問題は無い」

 帝国議会の質疑応答において、立憲政友会のある議員から、ロンドン海軍軍縮条約について蒸し返すような発言があったことに対し、幣原臨時首相代理は、このように答弁したのだが、これは、天皇に条約締結の責任を負わせるものではないか、と多くの新聞が取り上げ、世論からも厳しい非難が起きたのである。


 結局、1931年2月、予算案等を通した後、帝国議会が終わり次第、濱口内閣は内閣総辞職をするということで、立憲民政党と立憲政友会の政治的妥協が成った。


 だが、これには更に裏があった。

「林元帥閣下、お話が」

 林忠崇侯爵は、1930年11月に亡くなった秋山好古元帥から自分が亡くなった後、陸軍の改革派、ブリュッセル会の面々の政界の後見人になって欲しい、と頼まれていた。

 その関係から、林侯爵とブリュッセル会の面々とは交流があったのだが、その1人、永田鉄山軍務課長から宇垣一成陸相を首相として担ごうとする不穏な動きが、陸軍内にあるという情報が、林侯爵に流れたのである。


 林侯爵は、永田に対してその動きを至急、押し止めるように指示すると共に、西園寺公望、山本権兵衛の両元老や犬養立憲政友会総裁に、この情報を流した。

 この情報に接した面々は、不穏な動きを示す陸軍の機先を制して、濱口内閣を総辞職させ、若槻礼次郎元首相に内閣を組閣させたのだった。 

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