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第2章ー9

 犬養毅は、目の前で立憲政友会の代議士達が、自分の立憲政友会総裁選への出馬を懇願する姿を見ながら、自分の冷めていた筈の血がたぎるのを感じていた。

 古稀を過ぎ、政界から引退しようと考えていた自分が、立憲政友会総裁として、更にうまく行けば、日本の首相として、腕を振るうことが出来る。

 男児の本懐ではないか、しかも。


「自分が立憲政友会の総裁になれば、友人の林に頼まれた、新平価による金解禁を実現させることができる可能性がある」

 犬養は、そのことに思いを馳せると、更に血が騒ぐのを感じた。


「分かった。老骨にして、不肖の身だが、わしは立憲政友会の新総裁として名乗りを上げよう。わしに協力してもらえるか」

 犬養が、そう目の前の代議士達に声を掛けると、代議士達は明るい表情になって、口々に述べた。

「立憲政友会を、犬養新総裁支持で一本化するように、自分は努力します」

「鈴木喜三郎や床次竹二郎に対して、党内融和の為に、総裁選出馬を断念するよう、私は説得します」

 犬養は、それらの言葉に深く肯いた。


 そして、1929年10月、臨時に開催された立憲政友会大会において、犬養は満場一致で新総裁に選出された。

 鈴木も床次も、世論の間では自分に人気が無いことを重々承知していたし、相手を新総裁に推すくらいならば、犬養を担いだ方が遥かにマシだったからである。


 新総裁に就任した犬養は、早速、三土忠造を使者にして、濱口雄幸首相と面談しようと試みた。

 理由は言うまでもなく、金解禁を新平価によって断行するためだった。


 犬養は、新総裁の初仕事として、金解禁断行に立憲政友会も協力したという実績を果たすことを掲げた。

 それに、犬養にしてみれば、田中義一前総裁の遺志を果たすという名分もあった。

 田中前総裁が首相を務めていた際、田中内閣は金解禁を行おうとしていたが、山東出兵から張作霖爆殺事件の混乱の為に、内閣総辞職を余儀なくされ、金解禁を果たせなかった。

 濱口内閣が金解禁を行えるのは、田中内閣が予め下準備をしていたからであり、今更、(余り公言できないこととはいえ)濱口内閣だけに美味しい所だけ取られるわけには行かない、という犬養の党内説得は、それなりに理解が得られるものだった。


 濱口首相は困惑していた。

 自分が新首相になった時は、金解禁は旧平価で断行、という方向でまとまっていた。

 何故なら、新平価で金解禁を行うためには、貨幣法の改正が必要不可欠であり、そのためには衆議院で過半数を現状では握っている立憲政友会の協力が、絶対に必要だったからである。

 それが、立憲政友会の方から、貨幣法改正を持ちかけてきたのだ。

 さすがに、これを単に無視することは許されなかった。


 更に、世論の風向きが、完全に濱口首相が気が付いた時には変わっていた。


 そもそも、旧平価での金解禁については、財界の中でも輸出関係の業種からは、円高による打撃を懸念する声が、かねてから挙がっていた。

 そこに、鈴木財閥の高畑誠一が積極的に動いた結果、三菱財閥の重鎮、各務鎌吉が声高に新平価での金解禁論を唱えるようになり、三井財閥の重鎮、団琢磨らも昭和金融恐慌で大打撃を受けていたことから、旧平価で金解禁をされては、おそらく三井が持たないと主張するようになっていた。

 さすがに、日本三大財閥全てが旧平価での金解禁反対論を唱えては、財界の大勢も旧平価での金解禁反対が主流となってしまう。

 そして、財界と言う広告主から暗黙裡に意向を示されては、新聞の大勢の論調も、新平価での金解禁を唱えるようになってしまう。

 そして、世論も新平価での金解禁論が主流になっていた。


 そこに、「暗黒の木曜日」が起きた。

 濱口首相は、追い詰められた。 

 史実と財界の態度が違い過ぎないか、という突込みがありそうですが。

 この世界では、鈴木商店が生き延び、三井銀行が米国資本の手に落ちるという、史実と違った昭和金融恐慌の結果によるものです。


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