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第2章ー7

 高畑誠一と面談してから数日後、9月に入って早々に林忠崇侯爵は、「憲政の神様」犬養毅の私宅を訪ねていた。


 ちなみに、この2人の友人関係は、政界通のベテラン新聞記者たちの間で、政界七不思議を選ぶなら必ず入る、という噂があるくらいの奇妙な友人関係でもあった。

 何故なら、犬養は、元老嫌いで、新聞記者の間では有名なのに、林は、山県有朋と交友関係があったし、山本権兵衛の懐刀として知られ、西園寺公望ともすぐに面談できる間柄である等、元老との交友関係の深さについて新聞記者の間では有名だったからである。


 これについて、犬養に対して、不躾にも聞いた若手新聞記者がいたが、犬養に、

「君、自分の友人関係に対して、全て他人が納得できるように説明できるのかね」

 と煙に巻くような答えをされて終わったという逸話がある。

(ちなみに、林の方に若手新聞記者が聞いた際は、笑って誤魔化されたらしい。)


 だが、2人共、何故、友人関係が続いてきたのか、お互いに言わずとも、分かっていたことがあった。

 西南戦争の経験、土方歳三提督が2人を偶々めぐり合わせて以来、お互いに相手を、それに関する専門家として敬意をもって遇している。

 林は、犬養を政界の専門家として、犬養は、林を軍事の専門家として。

 そして、お互いに貸し借りなく、忌憚なく相手に意見を求められればいい、腹蔵なく意見を言い合える。

 本当に人生の奇縁としか言いようがない、お互いに大事にしなければならないと。


 林は、犬養に会って早々に、前置きを省いて、金解禁を新平価で行う必要性を説いた。

 犬養は、林の話が終わった後、しばらく考え込んだ後、おもむろに口を開いた。

「林さん、確かに金解禁を新平価で行う必要性は分かった。だが、わしは、今でも政友会の代議士の一員とはいえ、老齢から政界から引退しようと考える有様で、昔のような力はない。できる限りの力は尽くすつもりだが、わしの力では限界がある」


 林は、犬養に対して尋ねた。

「何か、よい方策はありませんか。何しろ、貨幣法改正と言う難題があります」

 そう、金解禁を新平価で行うには、貨幣法改正が必須だったのだ。

 

 犬養は答えた。

「財界の意見を、金解禁は新平価で行わねばならない、とまずは取りまとめさせて主張させることです。財界の意見全てを取りまとめることは無理でしょうが、財界の意見の大勢がそうなれば、濱口内閣はその意見を無視できなくなる」

「鈴木財閥の新総帥の高畑誠一に、その方向で動くように、既に私から言っています」

 林は打てば響くように答えた。


「それならば」

 犬養は、悪い顔を少し示した。

 その顔を見た林は、犬養に対し、少なからず失礼なことを想った。

 さすがは、戦国の三悪人の一人、宇喜多直家を産んだ岡山出身の政治家だけのことはある。


「高橋是清元首相と、直接、話をされませんか」

「高橋殿ですか」

 さしもの林も虚を衝かれた。


 高橋は、原敬が現役首相で暗殺された後、首相を務め、立憲政友会総裁も務めた程の人物である。

 だが、高橋については、日本経済、財政の大家としての令名の方が、世評は遥かに高い。

 日露戦争時の外債調達、関東大震災後の帝都大復興計画の財源調達、昭和金融恐慌の収拾等、高橋は全て成功してきており、現在の日本経済を語らせるのに、これ程の存在はいなかった。


「高橋元首相は、井上準之助蔵相とも面識があります。ただ、財政方針は食い違っていますが」

 犬養は、言葉を継いだ。

 基本的に、高橋は積極財政派なのに、井上は緊縮財政派だった。

「ですが、2人共、お互いを尊敬しあっています。高橋元首相から、井上蔵相に働き掛けがあれば、井上蔵相も無視はできますまい」

 犬養のその言葉に、林は肯いた。

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