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第2章ー4

 高畑誠一は、永井幸太郎に更に相談した。

「しかし、新平価で金解禁をやるとなると、貨幣法の改正が必要だ。議会で法改正をする必要がある。そうなると政治家に話を持ちかける必要があるのだが、私は政治家にこれといった知り合いがいない。永井、誰か適当な人はいないものだろうか」

 高畑は1912年にロンドンに赴いてから、1926年に帰国するまでロンドンにずっと住んでいた。

 そのために、日本の政界の事情に昏かったのである。


 永井は笑いを浮かべながら言った。

「それこそ、金子直吉さんに聞いたらどうだ。後藤新平さんこそ、先日、亡くなられたが、政財界に、後藤さんを通じて顔が広い存在だった。思わぬ人物を紹介してくれるかもしれんぞ」

「確かに、金子さんを頼るのが一番か」

 高畑は肯いた。


 高畑と金子は、鈴木商店の経営を巡って、かつて対立しており、昭和金融恐慌直前には、鈴木商店を二つに割るほど、その対立は激しいものがあった。

 だが、それは、あくまでも鈴木商店の経営方針を巡る対立であり、お互いにその人物自体は認め合っていた。

 だからこそ、金子は、鈴木商店の「お家さん」、鈴木よねに対し、その孫娘の婿として、高畑を勧めたのであり、高畑自身も、金子さんは、最後こそしくじったが、鈴木商店に対する滅私奉公の念は尊敬に値するものだ、と今でも公言していた。

 そして、鈴木商店改革の為に、金子は鈴木商店を退職しているが、私的な交友関係を、なおも高畑と金子は維持していた。

 そういったことから、今回の新平価による金解禁の方策について、高畑は金子に相談することにした。


 高畑と永井が話し合った翌日、善は急げ、と高畑は金子を急に訪問した。

 金子は、高畑の急な来訪を、当初は訝しんだが、新平価による金解禁の必要性を高畑に説明され、その方策を尋ねられるに至り、金子自身もしばらく考え込んだ末に、口を開くに至った。


「確かに、金解禁を断行することは止むを得ない。しかし、それは旧平価ではなく、新平価で行うべきと言うことか。確かに2年前の昭和金融恐慌の際に、鈴木商店全体が危うく倒産する寸前だったし、三井銀行が米国資本に買収されたばかりだ。こんな状況で、旧平価で金解禁を断行したら、日本は破滅するな」

 金子は、かつての鈴木の大番頭の経験等を踏まえ、高畑に話をした。

 高畑は、金子の言葉に更に我が意を得た思いがし、意気込んで尋ねた。

「どなたか、いい政治家を紹介してもらえませんか」

「そうだな」

 金子は思いを巡らせた末、ある人物を思いついた。


「わしの切腹の立会人兼介錯人に頼むか」

 金子は、具体名を挙げなかったが、その言葉に、高畑は目を丸くしながら言った。

「ちょっと待ってください。その方は軍人では」

「そうだな戦場往来の最後の武士、時代を間違えて生まれてきたサムライだ」

 金子は笑いながら言った。


 高畑は声に失望を秘めながら言った。

「経済に強い政治家を紹介していただけないのですか」

「高畑、お前はやはり若いな」

 金子の言葉に、高畑は思わず憤然としたくなった。

 確かに自分はまだ40歳を過ぎたばかりだが、揶揄されることは無いはずだ。


「軍人だからいいのさ。却って中立的立場からの発言だと思ってもらえる。金解禁について、旧平価か、新平価かで経済学者が論争している中、下手に経済に強い政治家が発言したら、反対派も激化する。かつての鈴木の対立を考えてみろ」

「言われてみれば」

 高畑は水を掛けられたように、我に返った。


「それに、その人は顔が広い。元老の山本権兵衛元首相の懐刀だし、「憲政の神様」の犬養毅とも友人だ。その人では力不足か」

 金子は、高畑を見据えながら言った。

「いえ、充分すぎます」

 高畑は肯いた。

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