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幕間1ー5

 さすがに土方歳一少佐は、レヴィンスキー少佐の詳しい経歴は知らなかったが、「帰るところの無い兵士たち」の一言で、レヴィンスキー少佐の大よその事情を察し、思わず敬礼しながら言っていた。

「それは、大変な苦労をされましたな」

「いえ、かつての私の祖国ドイツが赤く染まらないように、と若気の至りで思わず義勇軍に志願した報いですよ」

 レヴィンスキー少佐は、苦笑いをしながら言った。

「あなたの祖父、土方歳三提督も苦労されたのでは。仕えていた政府が、いつのまにか謀反人となり、反乱者の一員として、一時は政府から追われる身になったと私は聞いています」

「あながち間違ってはいませんな」

 レヴィンスキー少佐の言葉に、土方少佐は、西南戦争で散った祖父の身に想いを馳せた。


 父、土方勇志が、偉大な祖父にあやかれ、と私に歳一の名を付けた。

 幕末の京都の街で、新選組副長として名を馳せた祖父は、鳥羽・伏見の戦いから仙台で降伏のやむなきに至るまで朝敵の汚名を被ったが、最後まで降伏を肯んじなかったと聞いている。

 榎本武揚提督を介した近藤勇局長からの心温まる説得の手紙が無かったら、降伏を拒否した祖父は仙台で切腹していたのではないか。

 そして、降伏後、牢屋の中で日々を過ごした後、祖父は北の大地の開拓に屯田兵として向かった。

 苦しくとも平和な日々、だが、明治維新後の混乱は、祖父に安住を許さず、台湾出兵、西南戦争への従軍を祖父に余儀なくさせ、城山の地での戦死へと至った。

 祖母や父は戦死できて祖父は本望だったろう、と言ったが、自分は未だに得心できない。

 祖父は北の大地で祖母に看取られて死にたかったのでは、という想いが私にはしてならないのだ。


 だが、目の前のレヴィンスキー少佐らは、さらに過酷な運命をたどっている。

 それに気づいた土方少佐は、レヴィンスキー少佐に同情の目を向けざるを得なかった。

 土方少佐の目に気づいたレヴィンスキー少佐は、土方少佐の内心を察したのか、言葉を選びながら言った。

 

「今の私にとって、祖国はドイツでは無く、ポーランドですよ。ポーランドは、ユゼフ・ピウスツキ閣下を指導者にして、コスモポリタンな多民族国家を志向しています。我がドイツ系民族にとっても住みやすい国になっています」

「確かにそうですな」

 土方少佐は、レヴィンスキー少佐の言葉に相槌を打ちながら、内心で更に思った。

 フランスでは自分自身も反ユダヤ主義の運動を見たし、欧州各国では反ユダヤ主義の運動が存在するのが当たり前だと言うが、ここポーランドでは、自分は反ユダヤ主義の運動を見た覚えがない。

 ユゼフ・ピウスツキ首相が、独裁者と言われても仕方がない存在なのは確かだが、コスモポリタンな多民族国家を志向しているのは確かな話だ。


 だが、と土方少佐は、ふと不安を覚えた。

 多民族国家と言うのは、国内の混乱が多発するのではないか。

 レヴィンスキー少佐は、土方少佐の不安を察したのか、更に先回りするように言葉を継いだ。

「多民族国家と言うのは、国内の混乱が多発するのではないか、と心配されておるようですな。確かにその不安はあります。ですが、全ての民族が国家をつくるというのは無理な話です。どうしても民族は混住せざるをえません。民族の違いを乗り越えて、お互いの民族を認め合い、混住していける社会を、我が祖国ポーランドは作りたいと願っているのですよ」

「いい話ですな。できればいいですな」

 土方少佐は思わず同意した。


「そうしないと、独ソに挟まれた我が国は両国に対抗できないという現実もあるのですがね。日本の協力を願っています」

 レヴィンスキー少佐は哀しげに言った。

「私も微力を尽くします」

 土方少佐は言った。

 幕間の終わりです。

 次話から、第2章になります。

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