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幕間1ー1 帰るところの無い兵士たち

 第5部で描けなかった、史実で独軍に奉職したマンシュタイン将軍らが、ポーランド軍に奉職している理由の描写になります。

 日本ではポーランド・ソビエト戦争自体が余り知られていませんし、この世界では、日本で戊辰戦争が史実と異なる結果になったバタフライ効果で、第一次世界大戦の流れ自体が変わり(何しろ日本陸海空軍がこの世界では欧州に駆け付け、血を流しています。)、それによって、ポーランド・ソビエト戦争の流れ自体も大幅に変わっているので、背景説明が多くなると思います。

 1930年11月、土方歳一少佐は、ポーランドの首都ワルシャワにいた。

 その年の4月の人事異動で、土方少佐は、日本とポーランドの間の軍事交流の一環として派遣されている駐在武官補佐官に任じられ、その職務に精励していたのだ。


 日本にとって、ソ連は第一の仮想敵国であり、中独はソ連の友好国だった。

 そして、ポーランドにとっても、ソ連と独に挟まれた現況から、ソ連を第一の仮想敵国としていた。

 敵の敵は味方、古典的な事情から、日本とポーランドは、1930年当時、極めて友好的な関係にあり、軍事交流を深めていたのである。


 そうした日々を過ごしていたある日、土方少佐は、ポーランド陸軍省を訪問していた。

 南京事件に伴う日(英米)中(限定)戦争、山東出兵で得られた戦訓と、その戦いで用いられたソ連製兵器等は、ポーランド陸軍省から深く関心を寄せられており、実際の戦場での経験も踏まえたうえでの検討会がポーランド陸軍省の肝煎りで、色々な観点から開かれていた。

 土方少佐は、その検討会に参加して、日本からの情報を伝えていたのだが、その日の検討会の後、検討会に出席していたある陸軍少佐から呼び止められていた。


「失礼ながら、土方という姓は、日本に多いのでしょうか」

「いえ、そう多くはありません」

 その少佐の問いかけに、土方少佐は、注意深く答えた。

 何故なら、その少佐の言葉に、明らかにドイツ訛りがあったからだ。

 

 土方少佐は、ポーランドに派遣されることが決まってから、ポーランド語の特訓を受けたが、やっとの思いで日常会話ができるレベルで、検討会でも仏語や英語で話さねばならないことがある状況だった。

 相手の少佐も、生粋のポーランド人という訳ではないらしく、ポーランド語にぎこちなさがあった。

 かつて、自分達と西部戦線で戦った独軍人の一人か。

 思わず警戒心を土方少佐は浮かべてしまった。


 相手のポーランド陸軍少佐は、土方少佐の警戒心を解くかのように、軽く笑いながら言った。

「どうやら、私の言葉から見抜かれたようですな。確かに、私は、元独帝国陸軍の軍人で、世界大戦の際には、西部戦線であなた方と戦いました。でも、今はポーランドに誠忠を誓った身です。そう警戒なさらないでください。私は、帰るところの無い兵士たち、恩知らずの祖国に骨を埋められない兵士たちの一人です」

 土方少佐は、はっとした。


 帰るところの無い兵士たち、恩知らずの祖国に骨を埋められない兵士たち。


 世界大戦直後、祖国ドイツが赤い嵐に襲われ、共産主義国家にならないために、とポーランド軍に義勇兵として志願したドイツ帝国軍の生き残りの兵士たちのことを、世界中の多くの人々が同情を籠めて、そう呼ぶようになっていた。

 彼らは二十万人以上がいたが、誰一人、祖国ドイツの地を踏めない身となっていた。

 また、彼らの家族の多くも、ポーランドに移住しており、ポーランドを祖国とするようになっていた。


 土方少佐は、思わず敬礼しながら答えた。

「これは失礼いたしました。しかし、何故に急に聞かれたのですか」

「いえ、あなたを、南京事件の際の日英米連合軍の総司令官の土方提督の血縁者か、と推察しました」

「確かに私は、土方提督の息子になります」

「あなた自身も、世界大戦の西部戦線の経験者ですか」

「そうです」

「ということは、あなた方、父子と私とはいろいろ因縁がありますな。私は、レヴィンスキー、独軍時代はマンシュタインと名乗っていました。西部戦線で戦った後、ポーランド軍に志願し、今はポーランド陸軍少佐です」

 目の前のポーランド陸軍少佐は、そう自己紹介をした。


 土方少佐は、目の前の人物が、世界大戦後に歩まざるを得なかった人生の重さを思った。 

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