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第1章ー15

 1930年10月、海軍省官制は正式に改正され、海相は退役した海軍大将、海軍中将でも構わないことになった。

 これを受けて、翌月、財部彪海相が辞任、斎藤實が海相に就任した。


 今上天皇陛下からの任命式の後、斎藤海相は、鈴木貫太郎侍従長と会話をしていた。

「ロンドン海軍軍縮条約について、大御心から御言葉は何かあったか」

 斎藤海相からの問いかけに、鈴木侍従長は少し言葉を濁しながら言った。

「ロンドン海軍軍縮条約を速やかに批准するように、等といろいろ御言葉を出したかったようですが、私と西園寺公が止めました」

「そうか」

 斎藤は、今上天皇陛下の大御心を推察した。


「政争に今上天皇陛下を巻き込むわけには行かん。立憲民政党と立憲政友会、どちらにも今上天皇陛下は味方されない。天皇陛下は中立の立場だと、公式に輿論に思わせておかないと、天皇を担ごうとする輩が出るかもしれんからな」

 斎藤海相は、鈴木侍従長に言い、鈴木侍従長も、その言葉にしっかりと肯いた。


「本音を言うと、君に海相をやってほしかったよ。わしも古稀を越えた歳だからな」

 斎藤海相は、少し愚痴めいたことを、鈴木侍従長に言った。

「はは、私が海相になったら、それこそ天皇陛下が海軍に介入したように思われますよ」

 鈴木侍従長は、斎藤海相をいなした。

 斎藤が以前、海相を務めた際に、鈴木は海軍次官を務めている。

 また、鈴木は予備役海軍大将の身でもある。

 ある意味、斎藤よりも鈴木の方が、今、海相を務めるのが無難なのだが、海軍省官制を改正してまで、斎藤を海相にしたのは、鈴木が侍従長を務めており、今、ここで、鈴木が海相に転ずることは、天皇陛下が海軍に介入したように見られかねないという懸念からだった。


「林忠崇侯爵や東郷平八郎予備役元帥海軍大将が、元気に海軍を引っ掻き回しているのですから、斎藤海相はまだまだ若造と見られても仕方ない。その気概で、斎藤海相、海軍内部の内輪揉めの後始末を、よろしくお願いします。それから、これは内々にお願いしますが、大御心の御意向でもあります」

 鈴木侍従長は、頭を下げながら、斎藤海相に言った。

「分かった。林侯爵と東郷閣下を持ち出されては、どうにもならん」

 最後、斎藤海相は笑みを浮かべて、鈴木侍従長の下を辞去した。


 1930年12月、加藤寛治軍令部長の退任と予備役編入処分、谷口尚真軍令部長の就任、併せて財部彪前海相の予備役編入処分が、正式に海軍省から発表された。

 これは喧嘩両成敗の人事だと、世間は評した。


「軍令部と海軍省が大揉めしたことで世間に恥を晒した、と海兵隊が介入して、双方の首領のクビを斬った、と多くの新聞が報じていますな」

「そもそもは、お前の発案だろうが」

「山本元首相も、最終的には同意されたではありませんか」

 山本元首相宅を訪問した林侯爵と、山本元首相は会話をしていた。


「娘に泣かれたよ。どう見ても、今回の一件で責任を取らされたように見える。せめて、自発的な予備役編入願いの受け入れを認めてほしかったとな」

「それをやったら、処分になりません。双方を宥めるのには、きちんとクビを斬らないと」

「確かにな」

 林侯爵の言葉に、娘に甘い山本元首相も肯かざるを得なかった。


「しばらく穏やかな時が流れて、二つに割れた傷を海軍がゆっくりと癒す時間があればいいですが」

 林侯爵は、半ば独り言を言った。

「あればいいが、中々難しそうだ。過激な国粋主義者が、ロンドン海軍軍縮条約締結とこの不景気の責任は、濱口雄幸首相にあると暗殺を試みる有様だからな。そして、世界情勢も、すぐに収まると思っていた世界不況が、世界大恐慌になりつつあるようだからな」

 山本元首相も、半ば独り言を言った。 

 第1章の終わりです。

 次話以降の5話は、幕間になります。

 何故、史実では独陸軍きっての名将と謳われたマンシュタイン将軍が、この世界では、ポーランド軍に奉職しているのか、の説明の幕間になります。

 本当は、第5部で描く予定だったのですが。

 行き当たりばったりの作者で、本当にすみません。


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