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第1章ー14

 かくしてロンドン海軍軍縮条約は無事に締結され、各国内でも承認された。

 実は、日本国内は言うまでもなく、英米両国内の世論にも、このロンドン海軍軍縮条約締結には、不満があったのが現実だった。

 だが、最終的には各国内の良識派が勝利を収め、ロンドン海軍軍縮条約は無事に締結された。

 各国の良識派の、お互いに英米日三国が争うべきではない、という考えが勝ったのだ。


 これに対しては、いざという場合に備える必要がある、という反論がある。

 実際、日本国内でも、東郷平八郎予備役元帥を旗頭に、加藤寛治海軍軍令部長らが、米国が日本に牙をむく可能性が絶無とは言えない等と唱え、それに扇動された極右派の国粋主義者が、濱口雄幸首相を襲撃し、最終的には命を奪っている。


 だが、こういう主張に対しては、山本権兵衛元首相らの反論が簡明にして要を得ている。

「そもそも、日本の国力で対米戦に備えた軍事力を調えられると考えるのが馬鹿げている。対米戦になれば、日本は必ず敗北して無条件降伏するしかない。対米戦回避に努めるしかない」


 1930年当時の日本の国力は、様々な計算方法があるので、単純には言えないが、どの計算方法によっても、日本に米国の首都ワシントンを占領し、無条件降伏させる国力は無いという結論になっている。

 そして、日本が対米戦に突入したら、米国は日本を無条件降伏に追いやるまで戦争を遂行するだろう。

 山本元首相らは、そう冷めた目で米国を見ていた。


「それなのに、対米戦に備えた海軍戦備を整えろだと。対ソ戦や対中戦に、日本が備える必要はないというのか。そちらの方が喫緊の課題だ。まず、対中戦争が第一、対ソ戦争が第二の考えで、我が国は軍備を整えるしかない。それ以外の国との戦争準備は、日本は後回しにするしかない。まさか、対米戦に突入したら、米国が、日露戦争時の露のように、日本が有利な状況で半端な講和を結んでくれると考えているのか。そちらの方が御目出度い考えだ」

 林忠崇侯爵に至っては、そう透徹した考えをしていた。


 ロンドン海軍軍縮条約の結果、日本海軍本体の基本的な戦力は下記のようなものになった。


 戦艦 扶桑級戦艦2隻、金剛級戦艦3隻(それ以外に、「比叡」を練習戦艦で保有)

 空母 伊勢級空母2隻、鳳翔(それに加えて、「龍驤」を追加建造)

 重巡洋艦 古鷹(青葉)級重巡洋艦4隻、妙高級重巡洋艦4隻

 軽巡洋艦 天龍級2隻、球磨級5隻、川内級3隻、夕張級2隻

 駆逐艦 総計7万5000トン

 潜水艦 総計5万2700トン


 これでは、対米戦に陥った時に、日本は戦えないという批判をする者がいる。

 しかし、実は日英防衛同盟という存在があるのだ。

 日本から対米戦に突入するのならともかく、米国から対日宣戦布告をした場合には、日英防衛同盟に基づいて、英国は日本に味方することになる。

 こうなると、日英対米国の海軍比率は、米国が劣勢になってしまう。


 いやいや、世界大戦の結果、英国は債務国になっている、日米戦になったら、米国への債務の為に、英国は日本を見捨てるに違いないという更なる反論もある。

 だが、それを言いだしたら、日本も米国に対しては、債務国なのだ。

 米国に逆らえるわけがない。


「そもそも、南京事件、山東出兵と、日米は、対中利権確保に共闘した仲ではないか。そして、日本は対中利権維持に奮闘せねばならないのに。更に、米国も日本と共闘して、対中利権を維持している。ここで、対日戦争に米国が踏み切ったら、対中利権を米国が放棄することと同義になる。自国民を南京事件で中国政府に虐殺された米国が、そこまで中国に気前がいいとは思えんがなあ」

 山本元首相は、そう公言していたし、それに林侯爵らも同意していた。 

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