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第1章ー12

 ロンドン海軍軍縮条約を批准する手続きの一環として、軍事参議会会議が開かれることになった。

 本来なら、林忠崇侯爵は元帥とはいえ、予備役編入済みであり、こういった会議に出席することは無い。

 だが、海軍本体内部が、ロンドン海軍軍縮条約批准を巡って、真っ二つに割れるという事態を前にして、予備役の元帥も特に呼ばれることになった。


 だが、実はこの出席には、西園寺公望、山本権兵衛の二人の元老が裏で動いていた。


「本来なら、元帥と言えど、予備役に編入されている以上、こういった軍事参議会会議に出席することはありえません。ですが、事情が事情です。東郷平八郎予備役元帥海軍大将に、この会議に出席させて、意見を述べさせないと、艦隊派が納得しないでしょう」

「確かにそうだな。それにどちらにしても、条約派の勝利は決まっている。予備役と言えど、元帥の特権として、軍事参議会会議に出席させるということで名分は立つしな」

 山本元首相の主張に、西園寺公爵も同意し、この2人の動きにより、予備役の身でありながら、林侯爵と東郷予備役元帥は、軍事参議会会議に出席することになったのである。


「勝算0か」

 軍事参議会会議の場で、周囲を睨みつつ、加藤寛治軍令部長は、溜め息を吐きながら、内心で言った。

 ロンドン海軍軍縮条約締結は、国防を危うくするものである、そう自分が先頭を切って主張したために、それを濱口雄幸首相らに逆手に取られてしまった。

 軍事参議会会議は、陸海軍共同で開かれることになってしまった。

 海軍だけならまだしも、軍事参議会会議に陸軍が参加しては、どうにもならん。

 何故なら。


「我が国は島国であり、国防の為には海軍力の充実が必要不可欠である。ロンドン海軍軍縮条約を締結しては、我が国の安全が保てない」

 東郷予備役元帥が獅子吼するが、陸軍参加者は冷ややかな態度を執る一方だった。

「その言葉は、我が陸軍が、無用の長物、役立たずと言っておるのに等しいですな」

 武藤信義陸軍大将が、不快そうな声を上げた。

「そんなつもりはない」

 東郷予備役元帥が弁解するが、海軍出身で、空軍創設に伴い、陸軍に移籍した伏見宮博恭王陸軍大将も、武藤陸軍大将に同調の声を上げた。

「我が空軍も軽んじておられるようだ。陸軍、海軍、空軍、海兵隊の四軍が共闘してこそ、我が国の国防が果たされるというのが現実ではありませんか」

 伏見宮殿下まで、陸軍に取り込まれるとは。

 加藤軍令部長は、臍を噛む思いに駆られた。


 林侯爵は、軍事参議会会議の場を冷ややかに眺めていた。

 現役の海軍大将の内、安保清種、岡田啓介、谷口尚真は条約派として取り込めた。

 海軍内部は、更に財部彪海相が、条約派という現実がある。

 東郷予備役元帥を旗頭に、加藤軍令部長がいくら頑張っても、大将以上の票は、2票しかない。

 一方、条約派は自分を併せて5票だ。


 更に陸軍の軍事参議官は、本来は海軍出身の伏見宮大将も含めて、全員が条約派に味方している。

 削減された艦隊整備費を、陸空軍の充実に回すという話に、彼らは条約派への味方を決断したのだ。

 こういった状況を見ては、海軍出身の中将クラスの軍事参議官は、条約派に付く方がよい、と空気を読むだろう。


 こういったことは、徹底的にやるに限る。

 艦隊派を包囲孤立させて、重囲の中で勇戦敢闘させた上で殲滅する、戦術的にきわめて正しいやり方だ。

 後で艦隊派に同情する者が出るのは仕方ない。

 林侯爵は、冷徹に会議の場を眺めた。


 最終的に、軍事参議官会会議は、東郷予備役元帥と加藤軍令部長2人が、ロンドン海軍軍縮条約締結に反対、残りの軍事参議官全員が同条約締結に賛成という圧倒的多数で、今上天皇陛下の諮詢に答えることになった。

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