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第1章ー1 ロンドン海軍軍縮会議

 土方勇志伯爵は、溜め息が出る想いをしながら、ロンドンにいた。

「年末年始は船の中、そして、今は会議の場か」

 土方伯爵は、提督の称号を持つ、れっきとした海軍の軍人だが、ロンドン海軍軍縮会議の場に送り出される我が身に疑問を覚えざるを得なかった。

 何で、軍艦を操ったことのない、海兵隊の私が、この場に居ることになったのだろう?

 土方伯爵は、事の起こりから、あらためて思い起こした。


 そもそもの発端は、林忠崇侯爵に、土方伯爵が呼び出されたことだった。

「土方、英語も仏語も伊語もまだ大丈夫か」

 いきなり、林侯爵に問いかけられた土方伯爵は、嫌な予感を覚えたが、大恩がある海兵隊の大御所で元帥の称号を持つ林侯爵に嘘は言えない。

「欧州に4年間いましたし、先年も南京事件の後処理で、英仏伊語に磨きを止む無く掛けましたから、伊語はともかく、英仏語の日常会話程度でしたら何とか」

「そりゃ、良かった。ロンドン海軍軍縮会議に随行してくれ」

「は?」

 間抜けと思われそうだが、土方伯爵は、そんな声を思わず上げてしまった。


「財部海相がな、妻を連れて、ロンドン海軍軍縮会議に行く、と言い出しおってな」

 林侯爵は、土方伯爵に愚痴った。

「山本権兵衛元首相は娘に甘いし、あの我が儘女房め、ロンドンに死んでも付いていくつもりだろう」

「でしょうな」

 土方伯爵は、林侯爵に同意した。


 横須賀鎮守府海兵隊司令官に土方伯爵があった当時、一時だが、財部海相は、横須賀鎮守府司令長官の職務にあった。

 その際、土方伯爵は財部海相の妻、イネと何度も大喧嘩をやっている。

 各鎮守府の自動車は、基本的に全て海兵隊が管理しており、公用の場合のみ使うのが当然である。

 それを、イネは私用で使いたいと言い、財部海相も妻の味方をしたのだが、土方伯爵は断固、拒否を何度もしている。


 余りにも派手にやったので、土方が飛ばされるという噂が、海兵隊中に流れたくらいだ。

 イネは、山本元首相の長女で、山本元首相に鍾愛されて育った。

 そして、性格もあるのだろうが、財部海相は、イネに全く頭が上がらなかった。

 それもあって、イネは我が儘で、何かと言うと海軍の軍人を顎でこき使い、海軍の軍人内に人気がさっぱり無かった。


 ちなみに、土方伯爵とイネの大喧嘩は、結局、山本元首相や林侯爵まで介入するという大問題になり、財部海相が横須賀鎮守府司令長官から転出することで話がついた。


「それでだ」

 林侯爵は悪い笑みを浮かべながら、土方伯爵に言った。

「お前が、ロンドン海軍軍縮会議に随行しろ」

「どうして、そういう話になるのです」

 理由は何となくわかったが、だからといって、ロンドンに自分は行きたくない。

 土方伯爵は、それとなく抵抗した。


「お前がロンドンに行くと言えば、財部海相の女房は小さくなるだろう。何かと我が儘を言えば、お前が叱り飛ばせ。心配するな、わしがお前のバックに就いてやる」

 林侯爵はにこやかに笑いながら言った。

「勘弁してください。私は、山本元首相の娘の守り役ではありません」

 土方伯爵は更に抵抗した。


「ほう、わしに向かって、そんなことを言うか」

 林侯爵は笑みを浮かべたまま、更に言葉をつないだ。

「ええと、これは東郷平八郎元帥からの書簡だったな。後、鈴木貫太郎侍従長からも書簡が、わしの下に届いていた筈だが」

 わざとらしく、林侯爵は手元の紙の束をめくり出した。

 この糞じじいめ。

 土方伯爵は、思わず大恩人に対して、らしからぬ想いを抱いた。


 この様子だと、海軍本体のみならず、陸軍からも、自分をロンドンに派遣してほしい、という依頼の書簡が届いていそうだ。


「分かりましたよ」

 とうとう、土方伯爵は、ロンドン海軍軍縮会議への参加に同意させられた。 

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