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ソナチネは無音  作者: 或田いち
私が時計になった日
3/6

ふわりと飛んでいくことができない

 


「可愛い顔してるね」



 思ったより二枚目だな。


 男と同じタイミングで思い、瞳が無自覚にやや揺れてしまった。イケオジ的な、髭は生えていないが、黒の短髪はセットされてんだかされてないんだか、無造作で抜け感がある。


 同じ年の女子高生が、歳上と付き合ってんのー、と言って連れてきたら、きっと驚くクオリティ。



「もう一度聞く」



 男は、私を(たしな)めるように上から下まで見ると、それきり変な目で見たりしなかった。代わりに私の目を真っ直ぐに見据えて、その男の目に私の真顔が映った。


 そこで思い知らされる。ああ私は人間なんだなと。



「あそこで何してた」


「紙袋になろうと思って」


「…かみ、え、ん?」


「紙袋になろうと思って」



 絵に描いたように動揺を露わにする男だった。


 さっと視線を逸らして眼の下辺りを掻く男、今なら心を読める気がする。いや定期的に人は人の心が読めるそんな生き物だ。だってみんな天界からこぼれ落ちた、とどのつまりは神の申し子なのだから。



「道路に、よくあるでしょう、スーパーの袋とか、ビニール袋が車に轢かれて。それでも風を受けて舞い上がって飛んでいく。それを目で追いかけてたらいずれみえなくなって、気付いたら水たまりとかに汚く泥んこになってるの」


「あるね」


「初めは飛んでいくために、スーパーの袋被ってたのね。そしたら間違えたの、息ができないことに気付いた。そこで私は人間であることを思い知らされたし、でも死ぬのはまた違うなと思った。そこで死んだら意味ないのね、飛んでいく余力がないわけ」


「うん」


「で、紙袋が意外と楽で」



 でも無理だった。



「私は私が思ってるより人間だったみたい」


 はぁ、と軽い息を吐く。紙袋を被っても、車が轢いてくれなかったのが何よりの証拠である。

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