ふわりと飛んでいくことができない
「可愛い顔してるね」
思ったより二枚目だな。
男と同じタイミングで思い、瞳が無自覚にやや揺れてしまった。イケオジ的な、髭は生えていないが、黒の短髪はセットされてんだかされてないんだか、無造作で抜け感がある。
同じ年の女子高生が、歳上と付き合ってんのー、と言って連れてきたら、きっと驚くクオリティ。
「もう一度聞く」
男は、私を窘めるように上から下まで見ると、それきり変な目で見たりしなかった。代わりに私の目を真っ直ぐに見据えて、その男の目に私の真顔が映った。
そこで思い知らされる。ああ私は人間なんだなと。
「あそこで何してた」
「紙袋になろうと思って」
「…かみ、え、ん?」
「紙袋になろうと思って」
絵に描いたように動揺を露わにする男だった。
さっと視線を逸らして眼の下辺りを掻く男、今なら心を読める気がする。いや定期的に人は人の心が読めるそんな生き物だ。だってみんな天界からこぼれ落ちた、とどのつまりは神の申し子なのだから。
「道路に、よくあるでしょう、スーパーの袋とか、ビニール袋が車に轢かれて。それでも風を受けて舞い上がって飛んでいく。それを目で追いかけてたらいずれみえなくなって、気付いたら水たまりとかに汚く泥んこになってるの」
「あるね」
「初めは飛んでいくために、スーパーの袋被ってたのね。そしたら間違えたの、息ができないことに気付いた。そこで私は人間であることを思い知らされたし、でも死ぬのはまた違うなと思った。そこで死んだら意味ないのね、飛んでいく余力がないわけ」
「うん」
「で、紙袋が意外と楽で」
でも無理だった。
「私は私が思ってるより人間だったみたい」
はぁ、と軽い息を吐く。紙袋を被っても、車が轢いてくれなかったのが何よりの証拠である。