孤独の町
日本にあって日本にないようなどこか靄がかった町がある
その場所で人びとはお互いにお互いを干渉しないし、例えば誰かが道端で倒れていても知っていて見て見ぬふりをする
誰かは錆びれて生気を失ったこの場所を小綺麗なスラム街だと言った
〝普通の人〟は寄りつかない
ここは孤独の町
前置きはさておいてここからは孤独の町で起こる私と男と犬の話
中国人と男の子も忘れないでおいてね
心の準備はいーい
せーの
〝兄を殺した人間をさがしています〟
〝兄を殺した人間をさがしています〟
〝兄を殺した人間をさがしています〟
お兄ちゃん誰に殺されたの。
死んだ人間の体はいつか燃えて灰になる。
だから死んだ人間の香りは煙の匂いなんだって。
兄は無事に煙になったんだろうか。
はいのかおりがする。
紙袋の裏側を見つめているのには退屈してきた頃だった。右目に光が射して、思わず片目を閉じる。眩しさに目が眩んだからだ。しかしわたしはウインクが苦手だ。だから両目をつぶっていたら、もう一つの目にも光が射した。
指だった。
誰かの指が私の両目の視界を開いて、その中に煙を吹き込んだ。このやろう、と思った。
私が紙袋になって初めて見た世界は、涙で濁った曇り空だった。
「おまえ、俺の時計になんない?」
紙袋を被った女子高生を見つけたその男、恐らく30代半ば。煙草を口に咥えたまま、男は並びの良い歯を見せて笑った。