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木(シャジャラ)・林(シャジャラターニ)・森(アシュジャール)

アラビア語が各国の言語を押しのけて最高難易度を誇る理由 そのいちっ

複雑すぎるアラビア語の名詞の複数形

前回までのあらすじ

「俺は黒くない」と言い出したアブクール君をE君と二人でなだめている内に、打ち解けたE君と中原(のびた)の二人。彼もまた言語オタクで、日本語と英語が非常に堪能であった。ドイツ語もまた世界最強難易度を誇る言語の一つとうたわれるのだと聞いて、ドイツ語とアラビア語を比較しようという話になった。

 そうしているうちに中原(のびた)はある重大なことに気づいた。

 あれ……アラビア語って日本人にとって何一つ簡単な部分がないんじゃないか?



アブクール「ヨーロッパの言語に代表される印欧語族の言語、そしてアラビア語といった言語には性・格・数による屈折変化がある。サンスクリットには三つの性、八つの格、三つの数によって屈折するね」

E「それをどの程度とどめているかが、ある意味で印欧語族の言語の難しさと言っても過言ではないわけさっ!(キラッ」

アブクール「まず、第一ラウンドだけど、アラビア語は数に関しては圧勝だね。名詞が五種類の数で屈折するよ」

E・中原「五種類っ!?」

アブクール「モノによるけどね。三種類のもの多いし、固有名詞は一種類」

E「ドイツ語の名詞は単数、複数しかないよ。どうやったらそんなに多くなるんだい?」

アブクール「まず、全ての可算名詞には単数形・双数形・複数形がある。つまり一つの時、二つの時、三つ以上の時で違う形をとるわけだ」

E「なるほど。ヨーロッパの言語でも双数形のある言語はあるね」

中原「ゑ、それじゃ今まで習ってきた単語全部単数と複数だけじゃないってこと?」

アブクール「そういうこと。まあでも、双数形は不規則がないから楽だよ。後ろにアーニ、ターマルブータがついてる場合ターニをつければ完成だから」

中原「よかったぁ……」

アブクール「そして『木』とか『魚』みたいな名詞は集合名詞という形がある。フランス語でいう部分冠詞にも似てるね」

E「んー、ドイツ語には英語と同じで部分冠詞はないね。だけど似たような表現はできるかなっ!」

アブクール「さらに、それに加えてPaucalというのもある。日本語に訳すと少数形?かな」

E・中原「なんだそれ」

アブクール「その名の通り、少ない数の複数形だよ。3~10個ぐらいのものかな。実は現代アラビア語では少数形が複数形の代わりに使われたり(逆もある)、覚えなくてもいいよ。

 さて、じゃあ実際の単語を使ってどうなるか見てみようか」


شَجَرَةٌ

shajara(tun) 一本の木


アブクール「これが『木』の単数形だ。木は女性名詞で主格、定冠詞がついてない状態」

E「ドイツ語ならein Baumになるぜ」


شَجَرَتَانِ

shajarataan(i) 二本の木


アブクール「これが『木』の双数形。ターマルブータがtになって、後ろにaaniをつければ完成だ。例外なくこれだから楽だよ」

E「ま、膠着語尾みたいなものかなっ(キラッ」


شَجَرَاتٌ

shajaraat(un) 三本以上の木(少数形)


أَشْجَارٌ

'ashjaar(un) 三本以上の木(複数形)


アブクール「これが『木』の少数形だけど、複数形の代わりにも使われてる。本来の複数形はأَشْجَارٌ 'ashjaar(un)になるよ。

 アラビア語の名詞の複数形は非常に複雑で、特に男性名詞は不規則なものが多い。ちょっと書き出してみよう」


◎CuCuCタイプ

كِتَابٌ

kitaab(un) 一冊の本 男・単・主・不定冠

كُتُبٌ

kutub(un) 複数の本 男・複・主・不定冠詞


سَحَابَةٌ

saHaaba(tun) 一つの雲 女・単・主・不定冠

سُحُب‎

suHub(un) 複数の雲 女・複・主・不定冠


◎CuCuuCタイプ

بَيْتٌ

bayt(un) 一軒の家 男・単・主・不定冠

بُيُوتٌ‎

buyuut(un) 複数の本 男・複・主・不定冠


بَنْكٌ

bank(un) 一軒の銀行 男・単・主・不定冠

بُنُوكٌ

bunuuk(un) 何軒かの銀行 男・複・主・不定冠


◎CiCaaCタイプ

كَلْبٌ

kalb(un) 一匹の犬 男・単・主・不定冠

كِلَابٌ

kilaab(un) 何匹かの犬 男・複・主・不定冠


جَبَلٌ

jabal(un) 一つの山 男・単・主・不定冠

جِبَال‎

jibaal(un) いくつかの山 男・複・主・不定冠


◎CuCCaaCタイプ


طَالِبٌ

Taalib(un) 一人の男子学生 男・単・主・不定冠

طُلَّابٌ

Tullaab(un) 何人かの男子学生 男・複・主・不定冠


……(続く)


中原「げえ、中の母音がどんどん入れかわる上に、単数形のこの並びの母音だったら複数形の時はこういう母音の並びになるとかそういう法則がないのかよ」

E「確かにこれを見るとアラビア語は難しいね。ドイツ語なら複数形になるとBäume。母音が入れ替わって複数になるという点ではちょっとだけアラビア語と似てるかもしれないぜ。paucalは英語でいうfew treesに近い言い方かも」

アブクール「ちなみに形容詞も不規則複数形があって、كَبِير kabiir『大きい』という形容詞は複数形につくときはكِبَار‎ kibaarになったりするよ」

中原「(ヤヴェえ頭おかしい)」


شَجَرٌ

shajar(un) 木の一部


アブクール「そしてこれが『木』の集合名詞形だけど、これは最後のターマルブータを落として男性名詞にすると出来上がりだから簡単だね」

中原「か、簡単? だね」

アブクール「これは『私は木が好きです انا أحب الشجر』とか『魚が好きです انا احب السمك』みたいな文を作るときに使う。集合名詞形がない場合、定冠詞+ただの複数形になるね。

 で、今まで紹介した五種類の形全部三つの格による格変化があって、定冠詞アリの時となしの時でも変化するから、『木』だけで単純計算すると5×3×2=30個の形があることになる。まあでもアラビア語は格変化したとしても語尾がちょっと変わるだけのものが多いし、まず『本』とか『車』みたいな名詞は単数・双数・複数の三種類しかないし、覚えやすいと思うよ」

E「その辺はドイツ語も同じだぜ。ドイツ語もさっきのBaumは単数2格は後ろに-sがつくとか、複数与格に-nがつくとか、大幅に名詞の形が変化するものは少ないのさっ! 主に冠詞の変化に頼ってるからね」

アブクール「その点、日本語はある意味で我々から見ると考えられない言語だな」

E「動詞が一切人称活用しない、名詞に性もないし格変化もしない。単数・複数もない」

中原「ちょ、ちょっと待て! 日本語にも名詞の複数と似たようなものはあるぞ」


木 → 木々

人 → 人々

山 → 山々

花 → 花々

家 → 家々


中原「こういうのは中国語やインドネシア語にもあって、例えばインドネシア語のorang 人はorang-orangで人々の意味になったりする」

アブクール「でも『車々』とか『川々』はないね」

E「アジアの言語は名詞の単数・複数が必須じゃないからさ! まあ、漢字もそもそも名詞の複数を書くようにはできないしね。(シャジャラ)(シャジャラターニ)(アシュジャール)とかにしてみたら面白いけど」

アブクール「いいね! 実は、ヒエログリフもそういう感じで名詞の複数を表記したりしてたよ」」

中原「漢字でアラビア語みたいな超・屈折語は書けないだろ。語中の母音がこんなに頻繁に入れかわるんじゃアラビア文字みたいなアブジャッド式になるのは当然だな。

 ……と思ったけど、中国語でも同じ字で声調が変わることによって品詞が変わるような字は割とたくさんあるな。数 shu3(数える)とshu4(数)とか」

アブクール・E「中国語なんて動詞も名詞も全く変化しないし簡単だろ」

中原「いつもそういう結論になってしまうんですよね……」


 確かに、アラビア語の名詞の性・格・数による屈折には圧倒されてしまう。

名詞が複数形になった時の母音のパターンをアブクール君に書き出してもらいました。(f 3 lというのは、アラビア語を教える際母音の並びを書くときに使う子音の羅列で、もとは『する』という動詞です)


فُعُل fu3ul(un)

فَعِلَةٌ fa3ila(tun)

أَفْعُلٌ 'af3ul(un)

أَفْعَالٌ 'af3aal(un)

فِعْلَةٌ fi3la(tun)

فِعَال fi3aal(un)

فُعُول fu3uul(un)

فِعْلَان fi3laan(un)

أَفْعِلَاء 'af3ilaa'(un)

فُعَلَاء fu3alaa'(un)

فُعَّال fu33aal(un)

فَعَلَة fa3ala(tun)

مَفَاعِل mafaa3il(un)

فَعَائِل fa3aa'il(un)

فَوَاعِل fawaa3il(un)

أَفَاعِل 'afaa3il(un)

فَعَالِل fa3aalil(un)

مَفَاعِيل mafaa3iil(un)

فَعَالِيل fa3aaliil(un)

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