日本では冬になるとアザーンが聞こえる?
中原「アラビア語ってパ行、ガ行、チャ行もないんだな。すごい言語だ」
アブクール「そうだね。特にアラブ人はPが発音できないから、パンダもバンダになるし。ちなみに昔のアラビア文字は点がなかったから、taa'もthaa'も似た形の字は全部一緒だったよ」
中原「マジで? それじゃ濁点・半濁点が無かったころの日本語みたいだな」
いつものように中原がアブクール君とアラビア語談義に花を咲かせていた折だった。
アブクール「お、そろそろ礼拝の時間だ」
中原「そうか。いってらっしゃい」
アブクール「さてと、こんな時のために秘密道具を出そう」
ぱっぱぱぱっぱぱーっぱぱー!『メッカドア!』
アブクール「これがあれば、地球上のどこにいても一瞬でメッカに行けるよ」
中原「……何そのイスラム教徒にしか役に立たなさそうな道具」
アブクール「でも一生に何度もハッジできるよ」
中原「メッカコンパスのアプリで充分だろそれ。あとパンツから出すのやめてくれない?」
アブクール「で、手を洗ってカバンからクルアーン(コーラン)も出そう」
中原「クルアーンは普通に出すのかよ」
アブクール「何を言ってるんだ。クルアーンはトイレに持っていくのも許されないんだよ。ん? 今日は珍しくアザーンが聞こえるな」
中原「いやwww日本でアザーンは聞こえないだろwwww」
アブクール「いや……これは、絶対『الله أكبر(アッラーフ・アクバル)』って言ってるよ!」
そう言い残してアブクール君が突如、家の外に向かって走り出した。アザーンとは、モスクから流れる礼拝の呼びかけのことであるが日本にはそもそもモスクがあまりない。アブクール君は来日してからもうずいぶん時間が経つというのに、何を言ってるんだろうか。
しかし中原がアブクール君に連れられて辿り着いた先にあったのは、意外なものだった。
アブクール「これだよ、これ! いつもこの時間になると聞こえるんだ」
音質の悪い中年男性の声。そして香ばしい匂い。
『いしやーきいも、やきいも~』
そこにあったのはまぎれもなく、かまどを積んだ焼きいも屋の屋台だった。
~礼拝について~
一日に五回、キブラ(قبلة qiblaメッカのカアバ神殿の方角)に向かって祈る。尚、宇宙空間でのキブラは宇宙飛行士に任されるらしい。内容としてはالله أكبر アッラーフ・アクバルと唱えてから、クルアーン(コーラン)の開端章を読む。一番初めの「بِسْمِ اللّهِ الرَّحْمـَنِ الرَّحِيم bismillaahi r-raHmaani r-raHiim 慈悲あまねく慈悲深きアッラーの御名において」や「الْحَمْدُ للّهِ alHamdu lillahi 神への感謝」という部分は祈りの場面以外でもただの挨拶のようにも用いられるので覚えておこう!
アブクール「なんだ、期待して損したわ……」
中原「何を期待したんだ一体」
アブクール「بِسْمِ اللّهِ الرَّحْمـَنِ الرَّحِيم」
中原「焼きいや屋に向かって祈るのはやめろよ。つか、クルアーンは全部シャクルがふってあるからまだ読みやすいな。そういえばクルアーンは『قرأ qara'a 読む』っていう動詞から派生した単語なんだっけ」
アブクール「そうだね。القرآن al-qur'aan、『私はクルアーンを読む』はأنا أَقْرَأُ القرآنَ 'anaa 'aqrau al-qur'aan(a)になる。ほら、この間教えたけど、この場合アラビア語はal-qur'aanuの後ろをaに変えて対格であることを示すけど、会話だと落ちちゃうからそのまま使えるんだ」
中原「ドイツ語より楽だな。ドイツ語なら定冠詞が四つの格で変化する上に、形容詞+名詞の場合と定冠詞+形容詞+名詞の場合で形容詞の語尾が変わったりするからな。アラビア語はal一本やりだ」
ドイツ人のE君「そうさ! さらにドイツ語はder gute Mannとein guter Mannで定冠詞・不定冠詞の時でも変わったりするからな! 冠詞・形容詞の語尾が性・格・数で変化するぞ。名詞もちょっと変化する」
中原「うへえ。つかお前誰だよ」
アブクール「なぬ。アラビア語だと冠詞がつくとタンウィーンが落ちてkitaab(un)はal-kitaab(u)になるだけだけど、人間以外を表す男性名詞の複数形に形容詞がつく場合、形容詞は女性・単数形になるよ。kutub(un) kabiira(tun) 大きな本(複数)とか。車 sayyaara(tun)も複数形になって形容詞がつく場合、同じ理屈で女性・単数形になる。sayyaaraat(un) kabiira(tun)。
人間以外(物/動物)は複数形にするとすべて女性名詞の単数形として扱う。つまりその後ろに来る動詞と形容詞は女性単数形」
中原「意味が分からなくなってきたでござる」
E君「ドイツ語の方が難しいだろjk」
アブクール「いや、アラビア語の方が難しいよ」
E君「ドイツ語が(ry」
アブクール「アラビア語が(ry」
こうして中原は、なんだかよく分からないうちにアラビア語VSドイツ語戦争に巻き込まれるのであった。
もうそろそろタイトルのドラえもんが関係なくなってきた。