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ムジャーヒディーンでも恋がしたい!

 中原はリアル中二だった頃アラビア語を勉強しようと画策したことがあり、邪気眼系・北欧神話系と双璧を為す中二病に新たな「ムジャーヒディーン系」というジャンルを作り出そうとしていた。

 しかし最近、中原のそんな思いはインド人の友人・謎さんに止められた。謎さんは南インドの出身でタミル語と英語が流暢で、日本語も話せる菜食主義者である。なお、なぜこういう名前になったのかは謎。


中原「謎さん、僕はムジャーヒディーンになりたいんだ」

謎「ナカハラさんはむっじにはなれません。たとえイスラム教徒でもむっじになるのは難しいのです」


 謎さんは少年のような高い声で、しかし真剣にそう言った。ムジャーヒディーンを「むっじ」と略した人には初めて出会った。しかしインド人の教えにはしたがっておいた方がいいだろうと思い、断念することにした。

 これ以上言うと、会話の節々で「إن شاء اللهインシャアッラー((アッラー)がそう望めば)」と答え、一日に五回メッカに向かって祈りコーランを必ず朗読する敬虔なイスラム教徒であるアブクール君を侮辱しているような感じがするので、おふざけはこの辺でやめておこう。


 ところで、ムジャーヒディーン(مجاهدين)がジハード(جهاد‎)と同じ語源であることに気づいたのは最近のことであった。


アブクール「アラビア語のほとんどの単語は、語根から派生して作られれるんだ。セム語派の特徴だね」

中原「語根?」

アブクール「三子音語根とも呼ばれている特定の子音の並びのことさ。例えば『本(単数・主格・不定冠)』はアラビア語でkitaab(un)、『作家』はkaatib、『彼は書いた』はkataba、『事務所』はmaktab、『図書館』はmaktaba……という感じでどんどん単語が作られてるんだけど、何が共通してるか分かるかな?」

中原「kitaabとkataba、kaatibとmaktab……、全部k-t-bという子音が入ってるね」

アブクール「そう、その通り。アラビア語はこういう感じで、中の母音が入れ替わることによって動詞になったり名詞になったりするんだ」

中原「これだと似たような単語は似た発音になるから覚えやすいね!」

アブクール「でしょ! 『書く』が『書』になると本の意味になるみたいな。ちょうど漢字みたいな感じ★」

中原「うわ、すごい今のギャグかな」

アブクール「えへへ」



 そ ん な こ と は な い。



 さっきのムジャーヒディーンとジハードはj-h-dという子音語根からできている。「聖戦(ジハード)」が「聖戦(ジハード)をする者」という意味になるというわけ。

 つまり、アラビア語の単語は英語でいうsing-sung-sang-songという母音交替が常にどの単語でも発生することになるのだ。恐ろしい言語である。


アブクール「たとえば『学ぶ』の辞書形『彼は学んだ』はdarasa、ここから派生して『授業』はdars(un)、『学校』はmadrasaになる」

中原「待てよ。サラームで平和、イスラームでイスラム教、ムスリムでイスラム教徒なのもそういうことか?」

アブクール「そうそう。salaamのs-l-mという子音の並びが共通してる。他にもTaa'iraは『飛行機』、Taa'irは『鳥』、これはTaara『飛ぶ』という動詞から派生していて、maTaarにすれば空港になる。」

中原「すごいなそれ。じゃsamaka(tun)『魚』は?」

アブクール「あ、それは別にsamakaしかないんだ。基本的に名詞でしか使わない」

中原「全部が全部派生語を作れるわけじゃないんだな」


 魚が派生して動詞になったら笑えるのに。samaka 彼は魚った


中原「そういえば、さっきから名詞の後ろにunとかtunとかついてるような気がするんだけど、これ何?」

アブクール「それは男性名詞の不定冠詞だ」

中原「え!? 後ろにつくの?」

アブクール「そう。tunは女性ね。ハーの上に点が二つついたターマルブータ(ة)がついてる名詞は女性名詞だ。

 で、unが主格、inが属格、anが対格を表しているんだ。だから『kitaabun』なら『一冊の本が』、『kitaabin』なら『一冊の本の』、『kitaaban』なら『一冊の本を』なんだけど、実際の会話だと後ろのun/in/anが落ちてkitaabだけになるんだ。定冠詞のalがつくと後ろのnが落ちて、al-kitaabuになるんだけど、会話だとこれも-uが落ちてしまう。だからkitaabに関してはいつも大体kitaabと同じ形のまま使えるよ」

中原「そっか。そうすると英語やスペイン語と同じで、名詞があんまり格変化しないってことか」

アブクール「定冠詞のalは名詞の数・格・性に合わせて変化せずにいつもalだから簡単だしね。

 そういえばさっき出てきた『ムジャーヒディーン mujaahidiin』は実は属格・対格で、主格だと『ムジャーヒドゥーン mujaahiduun』になるんだ。これはmujaahidの複数形なんだよ」

中原「そうなんだ! でもなんで主格じゃなくて属格・対格の方で呼ぶようになったの?」

アブクール「それはたぶん、アラビア語の口語では規則変化する男性名詞複数形の場合、属格・対格を主格の代わりに使うからかな」


 そんな言語もあるんですね。


 今日のまとめ:「ムジャーヒディーンでも」ではなく「ムジャーヒドでも」の方がアラビア語の文法的に正しい。


ターマルブータは文の最後に来た時以外は(正しいフォスハーの場合)基本的に読むようで、اللغة العربيةの真ん中にあるtuは落ちないみたいでつ。でも口語だとやっぱり落ちる。

 アラビア語の名詞の格変化はun/in/anとtun/tin/tanだけ覚えればいいので非常に楽。そもそも口語では読まれないので格変化はほぼないに等しい。byアブクール君


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