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18  作者: 杏子鮫
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魔女

18歳の今日までどうやって生きてきたか忘れないように書いておこうと思いました。


空っぽ。自分は頭の先からつまのさきまで空っぽだと思った。

恋愛も青春もしてこなかったわたしの高校生活は、中途半端なものだったと思った。


高校一年生、電車に写る自分の醜い姿を憎み、周りの女たちが全て私よりも優れている様に感じ、死にたいと毎日呟いたことがあった。友達の友達の、サブカル好きのメンヘラが身体醜形恐怖症らしく、自分もそうかもと思い彼女の聞いている音楽を真似した。銀杏ボーイズ、大森靖子、でんぱ組inc.。邦楽には興味が無かったから、余計に聴き出しやすかった。


でも、何度か聴くうちに私はこうじゃないって思った。そのメンヘラちゃんは愛情なんて受けて育ってきたようには見えなかったから。父からの暴力と親戚からのいじめでシングルマザーになった母だったが、私と妹にとって理想的で愛すべき母だった。食卓には毎日手作りの料理が並んでいて、母は酔って面白いことを言ったりして陽気だった。高校二年生、母が職場でのいじめで適応障害を患い、事故にあって職を失ったときも私は楽観的だった。母は少し壊れ出して何でもないことで怒ったり泣いたりして、ねえ、死にたいよとか私に言った。


いくらサブカル女の音楽を聞いても、私にとって現実味を帯びたものにはなり得なかった。


空想しながら時間を過ごしてきた。


幼稚園児の私が深夜目を覚ますと、テレビ画面に不思議な映像が流れた。幾何学模様が踊る。瞳が割かれるようなビビッドカラー。寝室で母と父のシングルベッドの間で私は寝ていた。二人のシングルベッドの間に落ち、宇宙に吸い込まれて行く。

畳の部屋で寝た時は、畳の目を指の腹で撫で、自分の頭の中のチャンネルを回した。お気に入りは足を折って病院で寝ているネプチューンの原田泰造が性的なイタズラをされる夢だった。


小学一年生、近所に住む友達と、"お医者さんごっこ"と称して体温計を性器に突っ込む遊びをした。私はいつも患者だった。違う友達とは胸が天井に着くまで大きくなるごっこや、キスごっこをした。

いけないことをしてる意識はなかったけど、車のトランクで"お医者さんごっこ"をしたときはバレないようにしていた。


小学三年生、母と父が離婚してから、私は母の育った街に引っ越した。畑に囲まれたところに住んでいたので、国道の近くの、少し栄えた住宅街に住むだけでも違和感と緊張感があった。

私はとても恥ずかしがりだったが、学校にはフレンドリーな子が多く、仲間外れにされない程度には新しいところに馴染めていった。



その頃は少女漫画なかよしが大好きで、シュガシュガルーンに触発されて、魔女ごっこを同じくシュガシュガルーンが好きなAちゃんと毎日学童保育でやっていた。

学童保育の庭には大きな桜の木があって、私たちはそこを魔法の木に認定した。そこから魔法界に行けるのだ。月の裏側に魔法界がある。

その時私はその子も含めて3人でよく一緒にいたが、私たちはもう1人の女の子Bに、彼女に悪い魔女だという疑いをかけて、やっつけるという秘密協定を結んだ。

私はAちゃんが大好きだったから、Bちゃんを仲間外れにすごくしたかった。


本当に彼女を悪い魔女だと思っていた。

けれど、今思い出すとその秘密協定を持ち出したのはAちゃんだった気がする。

私たちはお揃いの黒いコートを毎日着た。Bちゃんは黒いコートを持っていなかった。


やがて小学六年生になりAちゃんが学童保育を辞めたので、私は違う友達と遊ぶようになった。

その子たちは同じクラスで、クラスの中心人物だった。Bちゃんも同じクラスだった。


Bちゃんは低学年の時に比べ、気持ち悪くなっていた。暗くなった。ずっと絵を描いては私に自慢した。私も絵をずっと描いていたが、友達の前では描かないようにしていた。

私たちはその子の机に上履きで乗って足跡を付け、自由帳を盗んで落書きした。悪口も聞こえるように言った。彼女の、授業中に一人避難訓練を始めたりする所が気持ち悪くて嫌いだった。


それでも私はその子たちよりいくらか、Bちゃんに同情的だった。彼女も何故かよく私を頼った。


ある時私は砂場で彼女が項垂れて泣いていたのを見つけ声をかけた。

彼女はおちょぼ口で虫が泣くような声で''家庭教師に会いたくない"と言った。それから、おばあちゃんが私に勉強を強制する、だとか、大好きな父が母と喧嘩して広島に帰ってしまった、だとかをこの世の終わりのように語った。

足を引きずるような演技をして鉄棒に体を擡げながら語るその子を、私は哀れに思った気がする。

本当に魔女のようだった。



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