やっぱり、やめときます。
「わたくしはあなた様のことが好きなんです!あなた様もわたくしを好きだと仰ってくださいました!」
「誤解だ!俺は君のことが好きなんだ!!」
「わたくしを好きだと仰って、直ぐに口づけてくださったではありませんか!?」
「でたらめを言うな!!」
皆様、こんばんは。私、シャリーと申します。そこそこお金と名のある伯爵家のご令嬢やってます。
そして見ての通り修羅場ってます☆
あら、失礼しました。私としたことが、目の前の男女二人の口論が騒がしくて少し現実逃避をしてしまいました。
どうでもいいと思いますが、少しばかり修羅場に至った経緯を説明させて頂きますね。
公爵家次期当主の彼と出会ったのは、とある夜会でのことでした。それから、見目麗しく教養もあり優しく真面目で仕事もできる彼に誘われるがままにお出かけなどもするようになりました。
ある時、とあるご令嬢に呼び出されました。冒頭で無駄に騒いでいる方です。彼女は頭が多少イカれ.....ごほんごほん、いえ、自身の思い込み通りに私に忠告をしてきました。あの方と釣り合うとおもっているのか、その貧相な姿であの方の隣に立たないで、あの方はわたくしのことが好きでいずれは結婚を考えている等々、テンプレ通りの言葉で貶し、満足したのか帰って行きました。
まぁ、彼の好意にも気付いていましたし、私も好きかもしれないなぁと気持ちが傾きかけていたので、少しはショックを受けました。が、彼に直接言われた訳ではないので、その後も付き合いを続け、仲を深めていきました。
それから少しして、彼と気持ちを伝えあい、正式にお付き合いをすることとなりました。その噂は瞬く間に広まり、当初はやっかみや妬みによる嫌みを散々遠回しに言われました。ノロケ話で全て撃退しましたけれど何か?
嫌味陰口などが落ち着いてきた今日、彼の屋敷に来てみました。しかし、何だか様子がおかしいのです。顔馴染みになった執事メイド使用人の顔色が悪く妙に焦っています。不思議に思いつつ、彼の部屋に入りますと、冒頭のご令嬢をソファーに押し倒した彼が呆然とした顔でこちらを見ていました。
「あら、貴女、何をしにいらしたの?彼と愛し合っている途中なの、出ていきなさい」
すごく上から目線で命令されました。確かに彼の手は彼女の胸を触っています。
何も言わずに扉を締めました。
「シャリー!!待ってくれ!!!」
とりあえず帰ろうすると、彼が追いかけて来ました。
「誤解なんだ!聞いてくれ!!」
彼は必死に叫びます。
誤解されていると思ったなら下手に出て、聞いてくださいと言うべきでは?と思いましたが、彼の話を聞くべく足を止めました。
「話があると屋敷に来て、俺の部屋に勝手に入ってきたんだ。そしたら急にふらついて、手を貸したらそのまま手を引っ張られてソファーの上にいたんだ!」
要するに事故だと。でもあなたの説明はよくわかりません。
話を聞いている間にご令嬢も追いかけて来ました。
「わたくしと愛し合っていますの!邪魔しないで!!」
ご令嬢は憎々しげに私を睨み付けてきます。
「違う!愛し合ってなんかない!!俺は君のことが好きだ!」
「今さら恥ずかしがらなくてもいいんですのよ?早く二人きりで愛し合いましょう?」
そんなこんなで冒頭に至ります。
そして皆様にご説明している最中も永遠と同じことを繰り返しています。
ふぅとシャリーは溜息をついた。
何か同じこと繰り返されると疲れるんだよねー。しかも食い違ってるから堂々巡りだし。だいたい彼が嘘ついてたら分からないじゃん。これ以上聞きたくないな。というか逆に痴話喧嘩みたいだし。え、じゃあ私邪魔?何だ早く言ってよ、帰って本でも読もう。あと次の夜会で新しい男探そう。次は少し年上の色気のある人がいいな。彼は見目麗しいけどちょっと細いし色気があんまりね。ガチムチじゃなくてもいいけど、がたいはしっかりしてる方が好きなんだよね。
「ちょっと貴女聞いてますの!?」
「聞いてる?誤解だって分かってくれたよね?」
「貴女なんかお呼びじゃないんだから、さっさと出ていきなさい」
「俺が愛してるのは君だけだ!シャリー!!」
あーだめだ、うるさい。
二人のわめき声に、顔をあげてにっこりと笑う。二人が黙って私を見る。
「帰ります。あとは二人で仲良くしてください」
ご令嬢がすごく嬉しそうな顔をして、彼は悲壮感漂う顔になりました。
「シャリー!君は俺を愛していなかったのか!?」
悲壮感漂うまま、彼は問いを投げ掛けてきます。あぁ、王道みたいなその空気ほんとだるいです。うぜぇとしか言いようがないかもしれません。
「愛してましたよ?」
「だったらどうして信じてくれないんだ!!」
「何だか先程までの言い合いを聞いてると貴方への気持ちが萎えました。同じことを繰り返し聞かされるのはうんざりです」
「な.......っ!」
「やっぱり貴方との結婚はやめておきますね。良かった、まだ正式に文書にしていなくて。いつまでも仲睦まじくお過ごしくださいね」
それだけ言うと私はさっさと屋敷に帰りました。
その後、夜会で好みの男を探し、るんるんでお出掛けしまくるシャリーと、そのシャリーを建物等の陰からずっと見つめている元彼公爵と、その元彼公爵を追い回すご令嬢の姿が度々目撃されることとなる。
ただ修羅場での言い合いを聞いた彼女に萎えたって言わせたかっただけです。すいません。
読んでくださってありがとうございました。