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津南見編決着……は果たしてつくのか(フラグ)
蝉の声がにヒグラシやツクツクボウシの声が混じって聞こえてくる。
夏休みも半ばを過ぎたのだと感じつつ、汗ばんだ額を拭った。
暑い時期になると髪を伸ばし始めた頃、夏になるたびに切りたくて切りたくて仕方なくなっていたのを思い出す。
ゲームの中の真梨香がショートレイヤーにしていたのも、ボーイッシュにする為のほかに暑いのが苦手ということもあったのかもしれない。
津南見と出会う前から男の子みたいな髪型をしていたし、言葉遣いも服の趣味もどちらかというとあれが素だったんだろうなと、今更ながら思う。
今は長い髪も慣れたし、喋り方も、服の趣味も変わってしまったけれど。
「そう言えば、津南見と初めて会ったのも、この時期だったんだっけ」
見上げた空は雲一つない晴天で、自分の曇り切った心持ちと対照的でいっそ腹立たしい。
寄りかかった漆喰の壁はひんやりとして、気持ちがよかった。
「今頃アイツはあのお化け屋敷に着いた頃かな……」
待ち合わせの時間は何時だとは言われなかったが、私がお化け屋敷で恐怖のあまり気絶したのはちょうどこのくらいの時間だ。
初めて会った場所で、初めて会った時間というのならば、そろそろお化け屋敷の前に着いている頃だろう。
「伝言、ちゃんと受け取ってくれてるといいけど」
「伝言というのは、このハンカチのことか?」
此処にいる筈のない声が聞こえた。
低く、よく通る凛とした声。恐る恐る振り返ると、津南見柑治が私のハンカチを片手に立っていた。
シンプルな無地のTシャツに洗いざらしのデニムパンツ。
そう言えば津南見の私服を見るのは今世では初めてだと気付く。制服かジャージ、剣道着姿の津南見しか、今世の私は知らない。
ゲームの中では私服姿の津南見と真梨香が一緒のスチルに映ることはなかった。
津南見の私服姿は桃香とのデートイベントのスチルと、アフターストーリーの成長後、学園を卒業した津南見と桃香のエピソードで出てきたときに見ただけだった。
ゲームのシナリオの外ではどうだったのか。親友というくらいだから友達同士のグループで遊びに行くこともあっただろう。
今となっては知りようもないけれど。
そんな感慨も吹き飛ぶほどの驚きで、私の目は津南見の持つハンカチに釘付けになっていた。
それにはマジックでメッセージが書きつけられていた。
『柑治へ、ボクたちが初めて会うべきだったのは本当は此処じゃないんだ。本当の初対面の場所で待ってる』
私が書いて、例のお化け屋敷の入り口、いかにもな雰囲気の柳の木の枝に結び付けてきたものだ。
ハンカチのメッセージを読んでも津南見には何のことかはわからないだろう。だけどあえて真梨香の台詞っぽく書いた。
更には隅っこの方に小さく此処に辿りつくためのヒントを一つ書き込んでおいた。
ヒントの指示に従っていくつかの場所に誘導し、次のヒントを見つけてここまで来させる計画だったのだ。
主に私の心の準備の時間稼ぎとして。
「どう……して……」
此処は、ゲームの中で葛城真梨香と津南見柑治が幼い頃剣道の試合で対戦した道場の裏庭だ。
実際には対戦はしていないし、試合の後この裏庭で負けて悔しがる津南見と話して仲良くなった、という事実も存在しない。
この場所を知らないであろう津南見に、どうしても此処へ来てほしかった。
私のわがままで、出会うはずだった親友を失った津南見に、真梨香の気持ちと、真梨香の気持ち、両方洗いざらい話してしまおうと思ったのだ。
信じてもらえるとは思っていないし、場合によっては正気を疑われてしまうだろうけれど、気味悪がられるならそれはそれで、これ以上津南見が私に近寄って来なくなる。
そんな風に考えていたのに、津南見はまるでメッセージを受け取って真っ直ぐに此処に来たと言わんばかりの様子で、メッセージのおかしさに戸惑っている様子は微塵も感じられなかった。
困惑する私に津南見が折り畳まれた別のハンカチを差し出してきた。
小鳥の刺繍のハンカチだ。白い部分に何か書いてある。
「これ……は……」
『まこへ、俺たちが初めて勝負するはずだった場所で待っている』
津南見の字だった。生徒会への提出書類で見慣れた、かしこまったペンの文字とは違う、ゲームの中で、津南見が真梨香と剣道の目標をたすきに書きつけた筆文字の書き癖そのままの力強い文字。
この文字は『ボク』しか知らない。
「どういう……こと……」
信じられない思いで津南見を見る。
『まこ』というのはゲームの中で津南見が真梨香を呼ぶときのあだ名だ。
当然今世でその呼び名で呼ばれたことなどないし、津南見が知っている筈もない。
津南見はアーモンド形の瞳を細めて、眩しいものでも見るように私を見つめ返してきた。
「お化け屋敷に着いて、このハンカチを入り口に結んでおけば、お前はきっと気付くだろうと思ったら、俺より先に、俺と同じことをしていた奴がいた」
「そんな……筈がない……だって……」
津南見はゲームの津南見柑治と同じ性格で、私のように人が変わったようにもなっていなければ、ゲームのシナリオを知っている様子もなかった。
この世界に、私以外にも転生してゲームの記憶を持っている人間がいる可能性はあったけれど、桃香や攻略対象者たちは日頃の行動からしてその可能性はないと除外していたのだ。
「本当はこのメッセージだけじゃお前はここには来られないかもしれないと思って、あちこちヒントを仕掛けてから来ようかと思っていたんだが……」
私も全く同じことをしようとしていた。流石親友、いやいや親友じゃないけど。
絶句する私を見て、津南見の視線が手の中のハンカチに落ちる。
「このハンカチを見て確信した。お前は絶対に此処で俺を待っているって」
「どうして……だって津南見先輩は……」
「『柑治』、とは呼んでくれないのか?」
それは『私』の呼び方じゃない。
「先輩だって……私の事を『まこ』だなんて呼んだ事ないじゃないですか」
当たり前だ。私たちは幼馴染でも親友でもない。
ただの高校の先輩と後輩だ。
剣の道で共に切磋琢磨したことも無ければ、くだらない事で喧嘩したことも、放課後に時間を忘れて語り合ったこともない。
他の誰でもない私がそうなるよう仕向けたのだから。
今更あだ名や呼び捨てでなんて呼べるはずがない。
「……そうだな。今さらだな。俺にはお前をあだ名で呼ぶ資格も、お前から親しげに呼び捨てされる資格もないのかもしれない」
「津南見先輩は……何もしてません……」
ゲームのシナリオを捻じ曲げたのも、本来の関係性から逃げたのも私の方だ。
津南見は私の知る限り、ずっと津南見のままだった。
知らない間に女性恐怖症を克服していたり、ゲーム内では成し得なかった全国大会三連覇を果たしたりしていたけれど、津南見柑治という男が別人に思えたことなんて一度もなかった。
それでも、もし、もしも津南見が私と同じように前世でこのゲームを知っていた転生者だとしたら……。
津南見の中に別の誰かがいるのだとしたら……私は……。
「葛城、これから俺が話すこと、お前なら信じてくれると思うんだが……」
どこかで聞いたようで、真逆の響きの語りはじめに汗ばんだ手を握りしめ、津南見の言葉を待つ。
「俺は小さい頃から全く同じ夢を繰り返し見ていたんだ」
「…………ゆ、め……です……か? あの……寝るときに見る…………?」
予想とは違った言葉に一瞬理解が遅れる。
「……ああ、その様子だと俺とお前が『知っている』事情はどうやら俺とは異なっているようだな。まあ、とりあえず俺の話を聞いてくれるか? 少し長くなるんだが」
「……はい……」
長期戦になるからと津南見が地面に自分のハンカチを敷いて座るよう促してくる。
見慣れてしまった小鳥の刺繍の上に座るのはなんだか気が引けたが、津南見の無言の圧に負けて大人しく腰を下ろした。
津南見の方は私と向かい合わせに、地べたにそのまま胡坐をかいて座る。
粗野な仕草だが、姿勢がいいのと顔がいい所為で様になっている。
ただ、何となく雰囲気が私の知っている津南見柑治よりも大人びて見えて、これも自分の中の真梨香の欲目なのかと二重の意味でドキリとする。
「さて、もう一度頭から話すが、俺はずっと同じ夢を見てた。ものごころついてすぐの頃からだ。その夢の中では成長した姿の俺がお前と一緒に剣道をしていた」
それはゲームの正規のシナリオ通りの津南見と真梨香の姿だ。
私は前世でゲームとしてそれをプレイしていたけれど、津南見はゲームのシナリオを夢として見ていた……?
「最初は意味なんか分からなかった。そもそも内容が理解できなかったし、出てきた男が自分の成長した姿だなんて考えもしなかった。だが繰り返し繰り返し見せられるたびに、その男が俺なんだと理解できるようになった」
「それは……何歳ごろの話ですか?」
「5歳かそこらだな。毎日、毎晩、夢は人ひとりが幼少期から成長して……生涯を終えるまでをダイジェストで見せられている感じだった。随分と長い時間を夢の中で過ごしたのに、起きれば一晩しかたっていない。おかしな気分だった」
「夢あるあるですね」
「繰り返し見る所為で夢の中で言葉を覚え、字を覚え、感情を覚えた。おかげで子供らしくない子供に育ってしまったようでな。やたらと気味悪がられたよ」
まあ5歳児が急に言葉を流暢に喋るようになったり、読み書きをすらすらできるようになったら周囲は驚くだろう。
自分自身幼児期に脳内で大人だった前世の記憶を取り戻してしまっただけに、その苦労は何となくわかる。
わざと子供らしく振舞うのも結構メンタルに響くんだよな、あれ。身体は子供で心は大人の某名探偵は尊敬に値すると思う。
「夢の中で俺はお前と出会い、剣道を通じて仲良くなり、無二の親友と呼び合う仲になった。高等部に進むとお前が入学してきて、共に全国優勝を目指して切磋琢磨し、剣の腕を磨き合った」
ゲームの中で、津南見は3年の時に惜敗を喫していたが、1年、2年の時は全国優勝をしている。対する真梨香はと言えば、1年の時は惜しくも準決勝で敗れ、2年生の時は準優勝。どちらも、津南見と共に全国優勝をするという夢は果たされなかった。
「やがてお前の妹が入学してきた」
心臓がドクリと嫌な音を立てた。
その先の結末を、私は知っている。ハッピーエンドなら別に問題はない。真梨香は津南見を諦め、悲しみを隠して桃香たちを祝福する。姉として、親友として。
真梨香にとっては切ない結末でも、桃香と津南見にとっては幸せな未来へ繋がるエンディングだ。
でも、津南見は同じ夢を繰り返し見る、と言っていた。それは私が知るマルチエンディングの中のひとつだけを見続けていたということで。
「俺はその考え方や優しさ、懐の深さに惹かれ、お前の妹と恋に落ち、そのことをお前に相談しさえした。……お前の気持ちも知らずに」
「津南見先輩、それは……」
津南見が真梨香の気持ちを知らなかったのは、真梨香自身がそう振舞ったからだ。
ふたりの間には友情しかないのだと。男友達、親友、戦友、それこそが自分たちの関係なんだと。自分さえ騙す勢いで演じていたからだ。
「俺はお前を傷つけ、お前に対しても、お前の妹に対しても、取り返しのつかないことをした」
「先輩の所為じゃ……ないです。あれは……あの事件は真梨香が独りで暴走した所為で……」
「お前をあそこまで追い詰めたのは俺自身の不徳の致すところだ。俺がちゃんとお前たちに向き合っていれば、あんな結末には至らなかった」
真梨香の殺人未遂、津南見との逃亡と、心中を匂わせるあのバッドエンドシナリオの結末を、繰り返し何度も見せられて、子供とはいえ、津南見のメンタルがよく歪まずに育ったものだと思う。
「夢の中の男が自分自身だと否が応でも理解せざるを得なくなった頃、俺のいた道場が他所の道場との練習試合に出かけることを師範に聞かされた」
「そ……れは……」
「ああ、この道場だ。俺は『夢の通りなら、ここで俺は女相手にコテンパンにやられる』と戦々恐々としながら練習試合に挑んだわけだが……」
その先は言わなくても分かる。
夢で津南見をコテンパンにした筈の少女は、試合の日、道場に現れなかったのだ。
「俺は拍子抜けした。結局はただの夢だったのかとも思った。だが、その後も眠れば同じ夢に苛まれた」
私と出会わなかったことで、今世でのシナリオは変わった筈なのに、それでも津南見はバッドエンドの夢に縛られ続けたというのだろうか。
津南見の表情が大人びて見えたのは、夢とはいえ、繰り返し自分の人生の悲劇を追体験させられた所為なのかもしれない。
「その後も何度かお前の道場と試合をしたが、お前がその場に現れることは無かった。何度目かで俺はある可能性に気付いた。お前も同じなんじゃないか、と」
「同じ……?」
「俺と同じ夢をお前も見ていて、悲劇を回避するために俺との出会いを避けているんじゃないかってな」
それはある意味で正解で、ある意味で間違っている。
悲劇を避けたいと津南見を避けていたのは事実だが、私が見たのは夢ではなく前世の記憶だった。
ゲーム本来の真梨香とは別の人間の記憶を思い出したがゆえに、私はこのゲームのシナリオを捻じ曲げたのだ。私自身のため、そして桃香の為に。
「考えてみれば至極当然だとも思った。お前にとっては俺はお前の想いなぞ顧みず、勝手な友情を押しつけてお前を傷つけるしかできなかった男だ。お前が俺と同じ夢を見ていたら、俺みたいな男は嫌厭してしかるべきだろう」
津南見が眉尻を下げて困ったように笑う。
それは私も、おそらくは真梨香も知らなかった、今の津南見柑治の表情。
「だが俺は、逆にどうしてもお前に会いたくなった」
「え……」
「お前があの悲劇を知っているとあの痛みを知ってしまっているならば、俺は、お前に詫び、今度こそ大事なものを見誤ったりしないと証明しなければならないと思った」
燃え上がるように強い瞳がまっすぐにこちらを射抜いてくる。
私は何と応えていいのかわからず、さりとて目も逸らすことができず、その凛とした顔を見返すしかなかった。
「だが、お前は対外試合には表れないし、下手にこっちの師範に会ったこともない弟子のことを詮索すれば気味悪がられるだろうと思うと手を出しあぐねていたんだが……」
「偶然あの遊園地のお化け屋敷で私と出会った……」
「ああ、あの遊園地でお前を見かけて、すぐに俺が探そうとしていた葛城真梨香だと気付いた。友人と連れ立ってお化け屋敷に入っていくのを見て、思わず後をつけた」
「え……?! あの、じゃあお化け屋敷で一人取り残された私に声をかけてきて、気絶した私を運んでくれたっていうのは……」
「流石に気絶するとは思わなかったが、あそこで声をかけたのは、見知らぬ迷子に声をかけたわけじゃなく、お前を探して、見つけて声をかけたってことだな」
あっけらかんと言われて開いた口が塞がらない。
私はあの時は本当にお化けに声をかけられたのだと思って怖かったのだし、後からあれは避けていた筈の津南見と知らないところで出会っていたのだと知らされて、めちゃくちゃに思い悩んだのだ。
ゲーム補正によって私はどうあがいても津南見との縁を断ち切れないのかと。
「あの時お前が目覚めるまで医務室に居座って、果たされなかった初対面をやり直そうかとも考えたんだが、お前をとても怖がらせてしまったし、恩を着せるような形で初対面を迎えるのは嫌だと思って名乗りもせずに立ち去ることにした」
「それで、桜花学園高等部に私が入学してくるのを待とうと? でもそれ、私が桜花に入学するのをやめていたらどうするつもりだったんですか?」
実際桃香を桜花学園に入らせないために自分も入学しないという選択肢もあったのだ。
「中等部に上がって部活に入れば流石に地方大会には出てくるだろうと踏んでいた。実際お前は中学までは剣道で全国上位まで進む実力者だった。まあ、その試合会場でも俺はお前に遭遇することは叶わなかったわけだが」
それは私が徹底して津南見柑治との接触を回避し続けていたからなんだけど。
中学の時、剣道の試合では津南見達の桜花学園剣道部は毎年個人団体共に全国常連のエリート校だったし、その容姿も相まって目立つから私が避けるのは比較的容易だった。
キラキラした集団に近付かないよう桃香にも厳命して避けまくってたのを思い出す。
「あまりにも避けられるから、何度かお前の中学の伝手を頼って手紙を出そうとしたことがある」
「えっと……それは初耳です」
「だろうな。……手紙を書いているところを木通先輩に見つかってからかわれて、その後も何やかんやで結局出せずじまいだったからな」
木通先輩か……。
あの人がやたらと私に勝負を挑んでくるのはひょっとして弟弟子から逃げ続けている生意気女子を懲らしめようとか思ってたんじゃ……。いや、ないか。あの人のあれは単なる趣味という気がする。
「そんな調子だから高等部に上がる頃にはきっとお前は桜花学園にも入学はしてこないんじゃないかと半ば諦めていた。うちの監督からのスポーツ特待生枠への誘いも断ったと聞いたしな。でもお前は桜花に入学してきた」
そう言って津南見は笑った。
無邪気に、本当に心から嬉しかったという表情で。
「お前がこの学園で、俺と出会わなかったお前としてやり直そうとしているなら、俺は改めて俺との出会いからお前とやり直したいと思った。お前と真摯に向き合い、お前を今度こそ幸せにしたい。そう思った」
そんな慈しみに満ちた笑顔を向けないでほしい。
私は真梨香のエゴで津南見の運命を捻じ曲げたのだとずっと思っていたのに。
真梨香はボクが傷つきたくないから、親友を捨てたのに。
「実際に会ったお前は俺を見ると顔をこわばらせるし、あからさまに目つきが悪くなるし、これは相当に嫌われたもんだとは思ったがな」
私、そんなにあからさま……だったな。たしかに。
己の所業を思い出すと、何とも気まずい。
「だが嫌われていると思う一方で、どこかホッとしている自分もいてな」
「……?」
「少なくともお前が俺に対して無関心ではない、と思えたからな」
「それは……」
檎宇にも指摘された津南見への執心はどうやら本人にもバレてしまっていたらしい。
いたたまれなくて地面をそこらに有った石ころでガリガリとほじくり返す。
穴があったら入りたい。このまま掘ったら入れないだろうか。
「そこ、表面は土があるが、土台部分はコンクリだから深くは掘れないぞ」
「……何で」
「穴があったら入りたいって顔して地面を削ってたからな」
やることなすこと津南見に見通されている。
これじゃあまるで、まるで。
「こんなやり取りをしていると親友だった俺たちの時みたいだな」
「!!」
考えていたことと同じことを言われて思わずじっとりと津南見を睨む。
津南見の方はと言えば子猫でもあしらうかの如く柔和な笑みを浮かべている。
「津南見柑治のくせに、津南見柑治のくせに余裕ぶった態度しやがって……」
「そりゃあ、夢とはいえ人生繰り返しの経験値積んでるからな。今じゃすっかり周りから若ジジイって呼ばれてるぐらいだ。お前も段々素が出て来たな」
楽しそうに笑う津南見は確かに歳不相応に大人びた雰囲気を醸し出していて、老練の兵を思わせる渋さを纏っていた。
「さて、お前が高等部に入ってからはまあお前も知っての通り、俺はお前と親友に戻れることもなく、お前の妹に恋をすることもなく現在に至っている、というわけだ。……次はお前の番だ。葛城真梨香、お前はどのようにして『知って』、そしてどう思っていたのか。話して欲しい」
津南見に促され、それでも話し始めるには少し時間を要した。
中天にあった筈の日は少しずつ傾き始めている。
「これから私が話すことは、多分先輩のそれよりもずっと荒唐無稽でおかしく聞こえるかもしれないんですが……」
「ちゃんと聞くよ。俺はお前を信じる」
聞き慣れた声に優しく背中を押され、私は、葛城真梨香は長い話を始めた。
「私、実は前世の記憶があるんです」
正面に見据えたアーモンド形の瞳は驚きに見開かれる様子もなく、ただ静かにこちらを見返していた。
というわけで次回こそは津南見編決着……させたいなぁ。|д゜)