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やっと水着公開です。

「わ~! 嘉穂かほちゃん可愛い! それ、加賀谷君かがたにと選んだの?」

「え、う……まあ、そうだけど。アンタは……いえ、どうせ真梨香が選んだんでしょ。知ってる」


 海水浴場に隣接した大型のリゾート施設の更衣室は広々として中々に快適だ。

 水着に着替えた後も女の子は日焼け止めをしっかりと塗ったり、化粧直しをしたりと時間がかかるため、大きめのパウダールームや休憩スペースが設けられているのだ。

 嘉穂ちゃんこと胡桃澤くるみざわはスカート付きのワンピース水着で、大きな花柄が目を引く。前から見るとホルターネックのようになっているが、背中は全面覆われたデザインになっていた。多分オーダーなのだろう。

 桃香は一緒に選んだピンクのオフショルダーのフリルビキニ。動くたびに桃香のポニーテールと一緒にフリルが弾む。

 とても可愛い。語彙力が死滅して可愛いしか言えないが、ここが更衣室じゃなかったらずっと動画で撮っておきたい。


錦木にしきぎ先輩と白木しらき先輩はお揃いなんですね」

「通販ショップで探してこれならウエストも隠れるし、いいかなって」


 錦木さんと白木さんはホルターネックタイプのワンピースに巻きスカートが付いている。柄はチャイナ風で、首もとにもチャイナボタンが付いた可愛らしいものだ。

 白木さんはモスグリーン、錦木さんは朱赤の装いだ。

 そんな二人を褒めたたえている倉田くらたいちごちゃんは胸元と腰の両サイドがリボンになった水色のドッとプリントのビキニだ。

 着やせするタイプだったのか、小柄な割に胸の膨らみはしっかりある。

 桃香と嘉穂が若干羨ましそうな視線を注いでいた。


「で? お姉ちゃんはその更衣スペースのカーテンから顔だけ出して、いつまでそうしてるの? 日焼け止め塗って、外に行かないとみんな待ちくたびれてるよ」

「う……桃香……やっぱりちょっとこれは……」

「大丈夫! 似合ってるから! それにそんなに嫌なら上からパーカー着てていいから」

「え? いいの?」


 てっきりこのまま外に出ろって言われるかと思ったのに。

 目を丸くして驚く私に桃香が仕方ないと言わんばかりに溜息を吐く。


「私は試着でも見たし、後で写真だけ撮らせてもらったらいいし、絶対似合ってるからそのまま遊びたいけど、見せるのもったいない気もするから」

「えっと……じゃあ……」


 意を決してカーテンから出る。

 桃香を含めた五人の視線が集中して、女の子同士なのに変な緊張感が走る。

 私の水着はいわゆるフリルレースビキニというやつで、ホルターネックのビキニの上に薄いレースが重ねられたもので、下のパンツもレースのミニスカートが付いている。

 色は何と白である。

 普通に考えて難易度が高い上に、フリフリのレースが女の子っぽさを強調するような、それこそ桃香や苺ちゃんのような可愛いタイプの女の子しか許されなさそうなデザインなのだ。

 おまけにレース生地が薄く透けるから身体のラインは丸見えだし、ビキニだから当然お腹や腰回りは無防備だ。大変心もとない。

 そんなことを思いつつ、同性からのジャッジを待つ。


「可愛い! 真梨香先輩フリルも似合うんですね!」

「ちょっと意外な感じだけどいいんじゃない? それにしても何食べたらそんなに……何でもないわ」

「葛城さんの事だからスポーティーな感じかと思ってたけど、すごく綺麗よ」

「妹さんの見立てなんだ? いいじゃない」


 取りあえず変だとかイメージに合わないと言われなくてホッとした。

 お世辞かもしれないけど。


「別にそこまで奇抜なデザインではないし、何をそんなに恥ずかしがってたの?」

「だって……部活やめてから筋トレ量減ってるせいで、少し体が緩んでる気がするし、こんな状態でお腹を出すなんてって……」


 いざというとき桃香を守るため、部活を辞めた後も基礎トレーニングは続けているけれど、全盛期と比べると腹筋の割れ目も減ってる。

 ぜいたくな悩みと言われそうだが、人間全盛期の自分を知ってしまうと中々諦めきれないものなのだ。


「桃香、日焼け止め塗ったらパーカー取って」

「はい、これ」


 渡されたパーカーは見たことがないデザインだった。


「? これ私のじゃないわよ??」

「私パーカー忘れちゃったからお姉ちゃんの借りる。その代りお姉ちゃんはこれ着てて」


 桃香の言葉に益々疑問符が浮かぶ。

 忘れたというならこのパーカーは何処から?

 桃香に私のパーカーを着てもらうのはやぶさかではないけども。


「さっき借りたんだけど、やっぱり大きすぎるからお姉ちゃんが着て」


 言われるままに袖を通してみると確かに大きい。

 私が着ても袖が大分余る。

 仕方なく適当にまくりながら着終えると、桃香も私の紺色のパーカーを羽織ったところだった。

 袖の先から指先がちょこんと見えているのが堪らなく愛らしい。

 彼シャツならぬ姉パーカーという新しい萌えを発見してしまった。


「桃香あとで写真撮らせてね。あと動画も。永久保存版にするから」


 可愛い桃香で元気が出た。

 パーカーのおかげで恥ずかしさも半減したし、一之宮先輩との勝負もこの勢いなら勝てるかもしれない。

 勝ったら桃香とゆっくり海岸を散歩する時間を貰おう。



 そう思ってみんなで更衣室を出ようとしたら、なぜか出口が渋滞していた。

 水着の女の子たちが出口に貼りつくように固まって何かきゃいきゃい騒いでいる。


「うそ~~~。かっこよすぎて出ていけない~~~」

「誰か待ち合わせかな~~~。ずっといるよね~~~」

「オーラが違うもん。モデルか何かで撮影があるんじゃない?」

「やだ~もっと可愛い水着にすればよかった~~~」


 聞いただけで嫌な予感しかしない。

 え、この空気の中出ていくの? マジで??

 錦木さんたちを振り返ると、少し青褪めた顔で首を横にぶんぶんと振られた。

 うん、無理だよね。わかる。

 仕方なく、スマホで梧桐君にラインを送る。


『更衣室出口で固まって待つの止めさせて』

『一応止めたんだけど、出てくるの遅いから心配だって篠谷君が言い出して、そしたら一之宮先輩が抜け駆けは許さんって言って』


 謝罪文と一緒にごめんなさいポーズのスタンプが送られてくる。


『このままじゃ出ていけないから、全員その場を離れてビーチに先に行ってて。じゃないとこのまま回れ右して帰るから』


 梧桐君を通して説得すること5分、ようやく出口から女の子たちが出ていきはじめる。

 その波に便乗するようにして私たちも無事に外へと出られたのだった。


「さて、先にビーチに行っててとは言ったものの、どのあたりにいるかしら?」


 広い砂浜にはたくさんの人がシートやパラソルを広げ、寛いだり、波打ち際で水遊びに興じている。

 目立つ集団だからすぐに見つかるかと思ったが、どうやら人込みから離れたところにシートを広げに行ったのか、近くにそれらしい男子のグループは見当たらない。

 きょろきょろと見渡しながら、もう一度スマホで梧桐君に連絡をしようとしたところ、肩を叩かれた。


「お待たせ~! お姉さんたち可愛いね?! こっちおいでよ!!」

「待ってないし行かない」


 見ず知らずの男の言葉に即答してスマホ操作を再開する。

 見たところ数人の男子グループのようで、不自然なほど日に焼けた浅黒い肌とくすんだ金髪や茶髪、やたらとごついシルバー風のアクセサリーを着けている。

 先頭に立つ茶髪がリーダーなのか、無視されてもしつこく声をかけてきた。


「お姉さんそれツンデレってやつでしょ? 大丈夫大丈夫、俺らめっちゃ楽しいよ?」


 生憎デレるつもりは無いし現時点ですさまじく不愉快なので楽しくもない。

 特に桃香に嫌らしい視線を送ってる金髪プリン、うちの子に近付くんじゃない。

 桃香たちを庇うように前に出ると、なめずるような視線が全身にまとわりついてゾッとする。


「連れが待ってるので」

「そんなこと言わないでさ。俺らすぐそこの医科大に通ってるんだよ。未来のお医者様と出会えるなんて君らラッキーだよ?」


 医者の卵にしては頭の悪い発言にげんなりする。


「見たところ高校生でしょ? 同級生の男子とかつまんないでしょ? せっかくの夏なんだからちょっと大人な体験してみない?」


 大人な体験、のところで視線が私の胸元を見たのがわかって不愉快指数が爆上がりする。

 パーカーを着ていてまだよかった。水着の状態でこんな視線を送られたら怒りのあまり海にぶん投げてしまうかもしれない。


「そのパーカーもいいけど中身も見てみたいな~なんて」


 男の手が無遠慮にパーカーのジップに伸びてきた、咄嗟に避けようと後退ったら、後ろにいたはずの桃香の気配が消え、硬く高い何かにぶつかった。


「僕の連れに何かご用ですか?」


 背後から延ばされた手が目の前の男の手首を掴んで抑えている。

 抑揚のない低い声は冷たく、真夏だというのに背筋を冷たい汗が伝った。


「今、お前がつまらないと言ったのは、もしかして俺たちのことじゃないだろうな?」

「まっさかそんな訳ないよねぇ?」


 どこから現れたのか、男たちの背後からも一之宮先輩と吉嶺が現れて、がっしりとその肩を抑え込む。

 見たところ日に焼けて逞しく見せかけている男たちよりも一之宮先輩と吉嶺の身体は肌こそ白いものの、引き締まった筋肉の付き具合といい、圧倒的な身長差といい、見た目からして力の差は歴然だった。

 リーダー格の茶髪の男は私の背後を青褪めた顔で見ていたが、震えながら後退るとそのまま逃げ去ってしまった。


「し、失礼しました~~!! アイムソーリーーー!!!」


 いまどき小学生でももっとましな発音するだろうという粗末な英語の謝罪文を叫びながら。

 まあ気持ちはわからんでもない。

 ブリーチした偽金髪と違って私の後ろにいるのは見た目だけなら純度百パーセントの生まれつきの金髪碧眼、完璧に外国人だからな。

 一之宮先輩たちに抑え込まれていた男たちもリーダー格の男を追って去って行ったので、改めて助けてもらった礼を言う。


「一之宮先輩、吉嶺先輩もありがとうございました。……篠谷君も、ありがとう、助かった……わ……?」


 前方の先輩方に頭を下げて、後方の篠谷にもお礼を言うべく振り返った私の目に飛び込んできたのは、カンフーアクションスターもかくやという、ガチガチの筋肉美を惜しげもなく太陽に晒した、顔だけは見慣れた金髪碧眼のイケメンだった。


「え……?」


 目の前のものが信じられず、思わず首をかしげる。

 引き締まった胸板に綺麗に割れたシックスパック、ボディビルダーのような無駄に嵩増しした筋肉ではなく、戦うために鍛え上げられたという表現がぴったりくるような完成された肉体がそこにあったのだ。

こんないかにも戦えますな肉体の外人出てきたらそりゃ逃げるわ。見るからに強そうだもん。


「嘘……でしょ……?」


 ゲームの中で見た篠谷侑李という男はけしてヒョロヒョロではないが、逞しくもなく、ちょっと身体が引き締まってます程度のアイドルボディだったはず。

 もちろん二次元と三次元ではある程度の違いはあるとしても、こんながっちりマッスルだったらそれにふさわしい表現がされていただろう。

 現に一之宮先輩や吉嶺の水着姿は原作で描かれていたイメージとそんなに差がない。

 あんまり驚きすぎて、まじまじと篠谷の身体を見てしまう。

 後で考えると不躾かつ、普通にセクハラだった。うっかり触って確かめたりしなくて良かった。

 案の定、篠谷の柳眉がピクリと吊り上がるのが見えた。


「何となく、真梨香さんが僕に抱いていたイメージが大変失礼なものなんだということは伝わってきました。その件については後程じっくりとお話させていただきますね。ビーチ勝負に勝った後にでも」

「おい、何既に勝った気になっている。勝つのは俺だ」


 篠谷に手を引かれそうになったところを後ろから一之宮先輩に引っ張られる。

 大岡裁きになりかけたところで、二人の手を叩き落としたのは、可愛いマイシスター桃香だった。


「そこまで! お姉ちゃんを引っ張り合いするのは止めてください! それと、勝負するんならまずお姉ちゃんの時間をかけるかどうかの挑戦権を獲得してからです!」

「桃香さん、それはどういう……?」

「おいちんくしゃ、お前も勝負に参加するとか言うんじゃないだろうな?」


 二人を前に桃香は堂々と仁王立ちして胸を反らす。

 ドヤ顔も可愛いとかうちの子最高じゃない?


「勝負の挑戦権は、私とお姉ちゃんにビーチバレーで勝ってからです!」


 こうして桃香の宣言という名の鶴の一声により、突発ビーチバレー大会が開催されることになったのだった。



 男子がパラソルやシートを広げてくれていたのは砂浜の喧騒から少し離れた場所で、結構広々と場所が空いていた。

 砂浜に線を引き、施設で借りてきたビーチバレーのポールを立てる。


「それじゃあまずは三年双璧チームvs生徒会男子から、篠谷先輩アンド小林チームの対戦です!」


 コートサイドで苺ちゃんがノリノリで実況を始めている。

 桃香の提案に対し、一之宮も篠谷も何やら難色を示していたけれど、梧桐君も交えて相談(なぜか私は相談に混ぜてもらえなかった)の結果、2人ずつのチームで男子がトーナメントをし、勝ったチームが私と桃香の姉妹チームと対戦するということになったらしい。

 ちなみに私たちが予選なし、シード扱いなのは女子ゆえのハンデであるらしい。


「ふん、まずは篠谷に吠え面をかかせてやる」

「さて、それはどうでしょうか」


 コート上では一之宮と篠谷が火花散るような睨み合いをみせている。

 一方で吉嶺は手足をくるくるとストレッチしながらも表情にはあまりやる気が感じられない。

 やる気が感じられないと言えば……。

 パラソルの影で長身揃いの男子の中でも頭半分は飛び抜けている檎宇を見る。

 檎宇もゲームのイメージをあまり変わらない、引き締まった筋肉質の身体つきをしている。

 少し長めの髪を暑いからか襟足で少しだけ結わえている。


「……」

「……?」


 じっと見ていた視線を感じたのか、檎宇がこちらを振り返った。

 目が合ったことに少し驚いたような顔をしたけれど、そのままふいっと前に向き直ってしまった。

 さっきからこんな調子で、今日は全く檎宇と口を利いていない。

 やっぱり先週のあれが気まずさの原因だろうとは思う。


「どうしたものかしら……」


 今日一日は津南見の一件は忘れて楽しもうとは思ったものの、檎宇の態度を見るたびに嫌でも思い出してしまう。

 やっぱりちゃんと話す時間を取らなければ。


「ねえ桃香、この勝負、私たちが勝ったらどうなるの?」

「それは、お姉ちゃんの時間はお姉ちゃんが使っていいって事になるだけだよ」

「そう……」


 それならば、私は……。


「桃香、相手は男子だけど、勝ち目はあるかしら?」

「まっかせといて! 絶対に勝っちゃうから!!」


 桃香の笑顔は眩しくて、この上なく頼もしく映った。


白レースのフリルビキニって南国の結婚式で花嫁さんに着てほしいよね。

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[一言] この続きがとても気になります!(๑˃̵ᴗ˂̵)更新待ってます!
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