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「どういうことよ! 約束が違うじゃない!!」


 ヒステリックな声にはものすごく聞き覚えがある。咄嗟に植え込みの影に隠れた。そっと覗きこめば、はたして、一之宮いちのみや石榴ざくろ親衛隊隊長(暫定)の甜瓜まくわ薔子しょうこ先輩だった。けれど、髪を振り乱し、般若の形相で怒鳴り散らす姿には、かつての堂々とした女王様の面影がすっかりなくなっている。


石榴ざくろを少し困らせれば思い通りに行くってアンタが言うからその通りにしたのに!! 石榴は困るどころか親衛隊は解散! 私は立場も何もかも奪われて…全部アンタとあの女の所為よ!!!」

「え~? そうは言ってもさぁ、白樺達使って悪さしたのは俺知らなかったし、薔子さんそんなことしちゃってたらさすがの俺も庇えないよ~」


 甜瓜先輩が喰ってかかっている相手はヘラヘラと笑いながらその怒りを受け流している。驚きのあまり植え込みから少し身を乗り出してしまった所為で、その相手とバッチリ目が合ってしまった。たれ気味の目が細くなり、薄めの唇が弧を描く。


橘平きっぺい! アンタ石榴の側近なら私を取り成しなさいよ!! 一之宮いちのみやの御曹司の隣にあんな貧乏人のアバズレ女をのさばらせて置く気!!??」

「そうは言ってないけどさぁ……流石にもうこれ以上薔子さん庇うのも限界っていうか……」


 吉嶺よしみね橘平きっぺいの目くばせに従って、再度植え込みにしっかり身を隠す。今、甜瓜先輩に見つかったらそのまま殺されそうな剣幕だ。そのまま音声だけの修羅場を聞きながら状況を整理する。

 甜瓜先輩は今一之宮の親衛隊解散に加え、その権力をかさに着て裏でやってたアレやコレやの罪を暴かれそうになっていて、大変危うい状況にある。親衛隊の筆頭と言っても、その立場は他のメンバーよりも一之宮先輩との付き合いが長いとか深いとかに寄るもので、肝心の一之宮先輩の寵を失えば、彼女の性格上、親衛隊内にも敵が多そうだし、あっという間に孤立するだろう。

 問題はそこに吉嶺が関わっているという事で……。私の知る限り、吉嶺は性格が並外れて捻くれてはいるが、一之宮先輩との信頼関係は確かで、以前私を牽制してきたときも、一之宮先輩の為を思っての様子だった……。それなのに裏で甜瓜先輩と繋がっていたりするだろうか……? 更に甜瓜先輩の様子からいって、彼女に味方をしたというより、彼女が順調に破滅するよう唆したという雰囲気だ。何より、吉嶺があの旅行で白樺達のやったこととその裏の甜瓜先輩との繋がりを知らなかった筈がない。

 だけど、いくら何でも…と思いかけて、吉嶺の性格や言動を思い出す。


「……やりかねない」


 思わず零れた呟きは幸い向こうには聞こえなかったようで、吉嶺のあっけらかんとした声が響いてきた。


「とにかくさぁ、此処は一旦引いて、しばらく大人しくしておいた方が良いんじゃないかな? 石榴は君も知っての通り気まぐれだから、葛城かつらぎさんのことだって、今は夢中になって見えるけど、そのうち飽きるよ。とにかく、一旦石榴から距離を置いて……」

「そんなこと言ってられないのよ!! 親衛隊の連中も、運動部部長会の奴らも、約束が違う、お前のせいで自分たちまで立場が悪くなったって……このままじゃ私……」


 甜瓜先輩の声が弱々しくなる。今まで彼女の下で虐げられたり、顎で使われてきた生徒たちが反旗を翻し始めたという事か……。彼女の場合、ある程度家柄という後ろ盾があるから、あからさまないじめには至らないだろうが、少なくとも今までの様な下僕兼取り巻きはいなくなるだろうし、あの性格では心を開ける友人もいないだろうから、孤立は免れないだろう…。


「……それは大変。………でもさぁ、薔子さん、それって自業自得だよね?」


 吉嶺の声が不意に底冷えのするものへと変わる。遠くで隠れて聞いていた私でさえ背筋が凍り付く気分を味わったのだから、目の前で語りかけられた甜瓜先輩はもっと恐ろしいだろう。そっと覗けば、真っ青になって震える横顔が見えた。


「え……橘平……?」


 突然態度の豹変した吉嶺に甜瓜先輩は困惑も露わに笑おうとして失敗する。引き攣った笑みとは対称的に吉嶺は一部の隙も無い綺麗な微笑みを浮かべて見せている。その顔だけ見たらまるで目の前の相手に愛でも囁いているのかと勘違いしそうだ。けれど彼の口から紡ぎ出されるのは凍り付くような冷たい毒を含んだ言葉だった。


「石榴のサポートやメンタルのケアになるならって思ってたけど、最近はちょっと図に乗りすぎてたよね? おまけに石榴のストレスの原因になったりして………。ほんと、薔子さんの言う通り、一之宮の御曹司の隣に君みたいなアバズレがいたら困るんだよねぇ…?」


 ブルブルと震えながら後退る甜瓜先輩を吉嶺は笑顔で追い詰める。一之宮が猛禽なら、吉嶺は蛇とか爬虫類だな。毒を隠し持って這いずって来そうだ。


「薔子さんが元親衛隊や運動部長会に何されても、代議会は一切関知しないよ。だって元々親衛隊は代議会の正規組織じゃないからね。薔子さん自身の不始末くらいは自分でどうにかしてもらわなきゃなぁ……あ、この件で石榴に泣きつくとかは無しね。今アイツ死ぬほど忙しい上に、熱烈片想い満喫中だからさ。余計な手間を掛けさせないで…くれるよね?」

「……ひっ………っ!!」


 バタバタと走り去る足音がして、しん、と辺りが静まり返る。


「もう出て来ても大丈夫だよ?」


 声をかけられたが、動かずにじっとしていたら、吉嶺はわざわざ私のいる植え込みまで来て正面に回り込んできた。顔を合わせたくなくて思わずそっぽを向く。


「大丈夫? 腰でも抜けちゃった? 抱いて起こしてあげようか?」

「…結構です。わざわざお声かけ頂かなくても、ここでの話は聞かなかったことにします」


 そう言って立ち上がって横をすり抜けようとしたら、腕を掴まれて阻止された。……ですよねー。


「まあそう慌てて逃げなくても………ちょっとお話しようじゃないか……あれ? 君もしかして………」


 赤くなっているであろう目に気づいたのか、吉嶺が目を丸くする。腕を掴む手に力がこもったのか少し痛くて思わず顔が歪んだ。カッとなって腕を振りほどこうとしていたら、校舎の方から誰かがバタバタと駆け寄ってきて、私と吉嶺の間に割り込んできた。


「葛城さん! …ま、待ち合わせの場所に来ないから迎えに来たわよ!」

「吉嶺先輩、すみませんが私達、先約があるので失礼しますね!」


 突然の白木しらきさんと錦木にしきぎさんの乱入に、吉嶺は何か言いかけていた口を閉ざすと、いつも通りのにこやかで軽薄な微笑みを浮かべてみせた。


「そうだったんだ。葛城さん、引き留めてごめんね? また今度話そっか?」

「ご用の際は生徒会室までいらしてください。執行部員立ち合いの元面談の機会を設けさせていただきます!」


 吉嶺の愛想たっぷりの笑顔にも怯むことなく錦木さんがぴしゃりと跳ね返す。そのまま二人に引っ張られて中庭から連れ出された。最後に振り返った時、吉嶺が真顔でこちらを凝視しているのが見えたけど、目が合うとすぐに笑みを浮かべて手を振ってきた。その表情に何となく不気味なものを感じはしたものの、ぐいぐいとブレザーの袖がちぎれそうな勢いで引っ張られていたので、立ち止まって確認し直すことはできなかった。




「まっっっっつたく!!! あなたって人は!!! 自分が今どんな立場になってるか分かってるの!???」


 結局校門を出たところまで連行されて、開口一番、錦木さんに叱られた。今の私の立場というと、生徒会長と代議会議長を手玉に取って男を喰い漁る女狐…と一部の女生徒の間で噂されていて、嫉妬と中傷の的になっているというものだ。真相が知られていないので余計に噂に拍車がかかっている状態だ。


「その上さっきの吉嶺先輩とも数日前噂になってたでしょう!?? それなのに一緒にいるところを他の連中に見られたら何言われるか分かったものじゃないわ!!」


 錦木さんの言葉には何も言い返せない。あの場に居合わせてしまったのは偶然としても、吉嶺が近付いてくる前に立ち去っておくべきだった。あの状況は吉嶺としても私を通じて一之宮先輩には知られたりしたら拙い類のものだというのは察せられたし、近々改めて口止めに来そうな雰囲気だったけれど。


「……ごめんなさい。二人とも、助けてくれてありがとう」

「そんな! 咄嗟で上手い言い訳ができなくて…」


 深く頭を下げると、白木さんがあわあわと手を振りながら困ったように眉尻を下げる。錦木さんもちょっと唇を尖らせているけれど、照れくさそうに頬を染めている。


「本当に助かったわ。二人とも、執行部員は役員より先に上がって貰ってたのに……まさか残って待っててくれたの?」

「ちょっと予習に使う資料を図書館に借りに行って遅くなっただけよ。……まあでも、副会長様が駅前の新作ケーキ、奢ってくれるって言うなら付き合ってあげなくもないけど?」


 そう言ってニヤッと笑って見せた錦木さんに、私も笑って頷くしかなかった。3人分のケーキの出費は多少痛いけど、この際仕方がないか。




「それにしてもなんだってあんなところで吉嶺先輩といたの? 先日も一緒に登校して来たって騒ぎになったけど、まさか……」

「それはない。…偶然通りかかったらいたのよ」


 駅前のカフェに落ち着いて、ケーキセットを頼んだところで改めて錦木さんからお小言を頂戴する。……最近本当にこういうことが増えてきているな……。とりあえず甜瓜先輩の事は適度に伏せつつ、通りすがりで吉嶺に遭遇してしまったのだと説明した。


「吉嶺先輩とは本当に何もないわよ。この前の親睦旅行のときに掴まえた盗撮メルマガの犯人の事でちょっと話を聞いたりはしていたけどそれだけよ」

「それなら…いいけど、今日、会長とは何があったの?」

「ぶっ…!! ごほっ!」

「葛城さん!?? 大丈夫? ちょっと奏子、いくら何でも直球過ぎよ!」


 唐突にいちばん突っ込まれたくない所に突っ込まれて飲みかけのミルクティーで思いっきりむせた。白木さんが慌てて背中をさすってくれる。何とか息を整えて、錦木さんたちに何と答えるか、考える。流石にあの状況で何もなかったは無理がありすぎる。かといって正直に全てを話すことはできない。


「篠谷君は……悪くないの…今回の騒動も、元はと言えば私が感情的になりすぎて篠谷君に怪我をさせてしまった事が元々の原因だし、今日だって…ほとんど私の八つ当たりみたいなものだったわけで……」


 生徒会室での事を思い出してしまって、頭に血がのぼる。落ち着かない気持ちでティーカップをぐるぐる掻き回していたら。錦木さんが面白いものでも見たというように口元をほころばせた。


「葛城さんってそういう顔もできるのね。篠谷君の言う通り、必要な事だったのかもね」

「え?」

「今日、あなたが届け物で席を外してる間に、由美子が会長に詰め寄ったのよ『葛城さんに何をしたんですか!? 会長は紳士だと思っていたのに、女の子を泣かせるなんて最低です!!』って…」

「ちょっ…奏子!!?」


 錦木さんの言葉に白木さんが慌ててそのくちを塞ごうとする。私はと言えば、大人しくて少し男性恐怖症の気がある白木さんが篠谷に正面から抗議したことに驚いていた。過去の事件の事もあって、白木さんは男子生徒に自分から話しかけることはあまりしない。もちろん仕事の上で必要な事は話すし、後輩の面倒見もいいので影で彼女を慕う男子も少なくはないのだが、常に錦木さんとニコイチで行動してる事もあって、なかなかチャンスがないらしい。


「私はただ……葛城さんを泣かせたのが会長なら………許せないって…」

「白木さん……」

「でも会長は……」



 白木さんの話によると、彼女が篠谷に詰め寄ったところ、篠谷は少し驚いた顔をした後、笑ったのだという。


『そうですね。自分でも最低だと思います。女性を泣かせるのは紳士にあるまじき愚行だと教わって生きてきましたから。……でも、泣きたいときに泣けないまま生きてきた人には、たとえ無理やりにでも泣かせてあげられる場所が必要なのかもしれません。…その結果、嫌われたとしても………』


 更に驚くべきことに、あの篠谷侑李が、白木さんたちに向かって頭を下げたのだという。


『葛城さんの事、気にかけてあげてください。彼女はしっかりしているように見えてうっかりしていますし、冷静沈着に見えて熱くなると周囲が見えなくなる。………強いように見えて実際物理的には強い所もありますけれど、本当は繊細で弱い人なんです。それにどうしようもないトラブル巻き込まれ体質ですから、誰かが常に傍で見てないといけません。僕は彼女の信頼を返上してしまっていますから、あなた方にお願いします』



 白木さんの話を聞いていると、篠谷がどんな顔でそんな事を言ったのか目に浮かんできて、益々顔に熱が集中する。テーブルに頭を打ち付けたい衝動と戦いながらひたすらティースプーンでミルクティーを掻き回した。


「葛城さん……それ以上攪拌してるとミルクとお茶が分離するわよ」


 錦木さんの冷静なツッコミにようやく手を止めたけれど、分離一歩手前のミルクティーはぐちゃぐちゃで、自分の心そのものの様で、とても飲む気にはなれなかった。


「まあ、会長の言うことにも一理あるわね。あなたって本当に危なっかしいもの。吉嶺先輩なんて女性トラブルが服着て歩いているような男に捕まりそうになってるし。危機感なさすぎじゃないの?」

「うっ………」

「奏子、ちょっと言い過ぎよ。葛城さんは確かに迂闊だけど、ちゃんと吉嶺先輩には警戒していたわ!」

「吉嶺先輩レベルに誰がどう見ても危ない人間ですら警戒しつつもあの距離まで近寄らせちゃうのが危なっかしいのよ。普通遠目に見かけた時点で引き返すわよ。ついでに言えば一之宮先輩も私は反対よ。いくら最近は身ぎれいにしてるからって、あれだけ浮名を流していた人間にはちょっと任せられないわ」


 前から思っていたけど、うちの執行部女子の代議会双璧への評価が著しく低いのは何故なのだろうか……? いやまあ、確かに過去の行状は褒められたもんじゃないけど……。


「でも、私は会長も今は賛成できないかな……。確かに葛城さんの事一番わかってて、大事にしてるっていうのはわかるんだけど、やっぱり泣かせるのはどうかと思うし……それなら小林君の方が一生懸命で葛城さんの事大事にしてくれそうな気がするわ」

「そうかなぁ…。梧桐君なんかは完全会長派だけど、私はもっといい人がいるんじゃないかと思うわよ。部長会の……いつも葛城さんの様子をそれとなく尋ねてくる……剣道部の部長さんとか…」


 話がどんどん思わぬ方向に転がってきた。


「あの……二人とも一体何の話を………」

「葛城さんを取り合いしてる男子で誰を応援してるかって話だけど?」

「応援って程じゃないけど……葛城さんの気持ちが一番大事だし………」


 白木さんは遠慮がちに言ってはいるけれど、なんだか好奇心を抑えられない顔をしているし、錦木さんに至っては完全に面白がっている。


「だから……誰ともそんなんじゃないって……」

「それじゃあ、葛城さんの好みのタイプってどんなの? 今までこういう風に葛城さんと寄り道とかしたことないから、この際だから女の子同士の話をしましょ? ちなみに私はムキムキのマッチョなのが好みなんだけど、うちの学校全然いいのがいないのよね~」


 錦木さんの言葉にそう言えばたしかに学校帰りに寄り道してお茶して帰るなんてこと、桜花に入ってからはしたことが無かったと気が付いた。この学校に来てから仲良くなった由紀はまがりなりにもお嬢様で、学校が終われば車のお迎えが来るので、寄り道をすることはあまりないし、私も生徒会の仕事があるので彼女と帰る時間がそもそも違う。


「由美子は優しくて強くて、正義感の強いヒーローみたいな人、だっけ? 誰かさんを男にしたみたいな感じよね?」

「か、奏子!?? ちがっ…あの、葛城さん、ただの好みだから! そういうんじゃないからね??!」


 必死で言い訳する白木さんと、楽しそうにじゃれ合う錦木さんを見ていると、少しだけ気持ちがほぐれていく。ベリーのソースが掛かったレアチーズケーキをフォークで切り取り、口に運ぶ。甘酸っぱい味と、チーズの香りが口いっぱいに広がった。


「私は……考えたこともないや………」


 一瞬頭に浮かんだのは、『優しく笑う人』。最期の瞬間まで笑顔を私に向けていた人。でもそれは口には出せないから。そう言ったら、白木さんも錦木さんも少し寂しそうに溜息をついた。…ノリが悪い女だと思われただろうか……嘘でも明るい人とか、強い人とか言っておくべきだっただろうか…。女の子同士の会話のテンポが思い出せなくなっている自分に気づいて焦ってしまう。


「あ…えっと……ごめんなさい。私も……正義のヒーロー、いいと思う。昔特撮ヒーロー好きで遊園地のヒーローショーに行ったりしてたし」

「葛城さんがヒーローショー…」

「ヒーローそっちのけで怪人に挑みかかってそうね」


 何を想像したのかぽっと頬を染める白木さんと、まるで見ていたかの如く人の過去をズバリ当ててくる錦木さん。本当にいいコンビだ。


「そういうのがタイプとなると、会長や一之宮先輩は確かに外れてるわよね。どっちもヒーローって言うより悪の魔王と王子って感じだし」


 錦木さんの言葉に真っ黒な悪の幹部スーツや角、黒い羽がいっぱい付いたマントを翻して高笑いする一之宮先輩と篠谷を想像してしまって、危うくケーキを気管に飲み込むところだった。何とかケーキを普通に飲み下し、肩を震わせてテーブルに突っ伏した私に、錦木さんたちはさらに追い打ちをかけてくる。


「でも二人とも梧桐君には敵わないよね」

「そうね、梧桐君はさしずめヒーローたちの味方で善良な顔をしてるけど、物語終盤で裏切って悪の組織のラスボスだったことを明かして来るタイプかしらね」

「ぶっ…く………ふふ……二人とも…っ」


 堪えきれず笑い転げる私に二人もつられて笑いだす。しばらく三人で笑い転げていたら、少し前の重たい空気はどこかへ行ってしまった。


「はぁ…暫く生徒会室で梧桐君見たら笑っちゃいそう……」

「だ…だめよ。そんなことしちゃ……失礼だわ…ふふっ……」

「そうよ…今日の話は乙女の秘密なんだから……ぷぷ……もしバラしたら次の女子会はその子の奢りよ」


 錦木さんの言葉に、今後もこうして女の子同士で寄り道をすることが決定した。


「でも……執行部員は役員より早く上がるから……待たせちゃうんじゃ…」

「そのことも折り込み済みよ。あなたが後輩の香川さんに送ってもらうのを遠慮するのなら、同級生で同じ特待生の私達と一緒に歩いて帰る方が良いでしょう? 篠谷君はもう送って行く訳に行かないんだし」


 確かにあんな事件の後ではもう篠谷に送ってもらうことは無理だろう。元々送ってもらうのを嫌がっていた筈なのに、そのことを忘れていた自分に自分で驚いた。


「そう…よね。……うん、助かるわ。でも本当、送ってもらう必要自体元々なかったのよ?」

「わかってるわよ。私たちが、あなたと一緒に帰りたいの。ね? 由美子」

「ええ、葛城さんと一緒に帰ったり、たまに寄り道したり、そういう普通の事がしてみたかったの」


 普通の、女の子の会話……確かにずっと忘れていた気がする……。コイバナじゃなくてもいい、その日にあったことでも、軽い愚痴でも、片肘を張らなくていい話ができるというのはとても心惹かれる響きだった。


「……ありがとう」


 そう言うと、二人はなんだか照れくさそうに笑って頷いてくれた。



 暫く他愛もない話をして、駅から電車で帰るという二人を見送って家に帰ると、お母さんがどこか困惑したような顔で玄関の外にいた。白木さんたちとケーキを食べることになった時点で少し遅くなるって連絡を入れていたはずだけど、と思いながら駆け寄ると、お母さんの口から衝撃的な言葉が飛び出してきた。


「あ、真梨香! 桃香から連絡があって、今日は友達のところに泊まるって言われたんだけど、小林って前にあなたがデートした子じゃなかったっけ? いったいどうなってるのあんた達?」

「………………………デートじゃ……ないわよ…?」


 衝撃のあまり口から出たのはそんな言葉だけだった。


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