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午後の生徒会主催のオリエンテーリングではこの学校の年間行事、各委員会や部活動の活動についての説明がなされる。
「―以上が生徒会主催で行われる行事になります。文化祭、体育祭などの大型行事の際は通常の委員会の他にイベントごとに実行委員を選出し、準備や運営にあたっていただきます」
壇上にあがり、大型ビジョンに映される映像を見せながら説明をしていく。ふと桃香と目が合った。小さくそっと手を振ってくれる。なんて可愛いんだろう。駆け寄って抱きしめたい。
不埒な妄想を顔に出さぬよう気を引き締めながら桃香のクラスの最後尾を見ると、小林檎宇と目が合った。なぜか両手を目いっぱい広げて振ってくる。可愛くない。迷惑なので叩き出しちゃだめだろうか。思わず睨み付けてしまった。小林の両隣の生徒がぎょっとして彼を止めようとジェスチャーするが、小林は益々腕をぶんぶんと振り回した。
「…何か質問があるようですね。1年A組小林君」
映像を指し示すのに使っていた赤外線ポインタを小林の胸に当てる。一瞬きょとんとした小林はなぜかへらっと笑って立ち上がった。
「は~い! しつもんです。お姉さんのいる生徒会にはどうやったら入れますか?」
……は?
予想だにしていなかった質問に場の空気が静まり返る。ゲームにはなかった展開だ。どうしてこうなった。やはり不思議ちゃんの頭は理解し難い。そもそもお前ゲーム中では授業は基本サボりの問題児だっただろう。生徒会どころか学校行事すらサボろうとして桃香に連れ戻されるやつだっただろ。いきなり生徒会に入るとか何言い出すんだ?!
「……生徒会執行部は各委員会選出の際希望があればクラス担任の推薦を以て入ることができます。ただし役員になるためには副会長以上の人間の推薦や校内での選挙を必要とします。希望するのであればこの後のクラスでのLHRでその旨を申し出てください」
まさか本気で生徒会に入るつもりがあるとは思えないが、他の生徒たちの手前、マニュアル通りの説明を返しておく。今年の執行部員希望者はきっと各クラス会長目当ての女子による競争率の激化は免れない。万が一小林が希望したとしても、服装からして問題児の小林と篠谷会長目当てで猫かぶりも完璧なお嬢様たちではどちらが担任の推薦をもらえるかは明白だ。
私の説明で、女生徒たちの間では早くも牽制の火花が散り始めている。
「質問は以上ですか? それなら座ってください。次からは質問があるときは手を振り回して暴れるのではなく声をあげて手をまっすぐに上げるように。あと、私は君のお姉さんではありませんので、名前かもしくは先輩と呼ぶようにしてください。それでは、少しの間質問を受け付けることにします。他にここまでの説明でわからなかったことや聞きたいことがある方は手を上げてください」
ちょうど説明が一区切りし、一部の生徒は気が緩んでいるようだったので、質疑応答を挟むことにした。私は次々と、主に女生徒から上がる質問に答えていった。
オリエンテーリングが終わり、壇を降りると篠谷が愉快そうに拍手で迎えてくれた。
「いや、臨機応変な対応、素晴らしかったですね。場の空気も引き締まりましたし、気の弱い一年生なんかはきっと貴女に恐れをなしてしまったんじゃないでしょうか?」
「会長の傍に侍りたいお嬢様方は恐れるどころかこちらを射殺さんばかりでしたので、私の方こそ生きた心地がしませんでしたよ」
嫌味には嫌味を。皮肉には皮肉を。桜花学園生徒会法典にだって書いてある。注:そんなものはない。
舞台袖にブリザードが吹き荒れる中、壇上では各部活動の説明会が始まっていた。
剣道部の順番になり、男子剣道部主将、津南見が剣道部の過去の成績や武士道精神がどうのと演説している。まだ少し顔色が良くないが、何とか復活したようだ。
「そういえば、葛城さんは剣道をやっていたって聞きましたけど、如何して止めてしまったんです?」
「特に理由はありませんよ。強いて言うなら剣道以外のことをする時間が欲しかったんです」
妹の追っかけとかね。
「結構優秀だったと聞いていますよ。中学の全国大会でも上位だったとか」
ゲームの設定で才能がある選手と設定されていたおかげで、鍛えれば鍛えるだけ強くなれるところは確かに面白かった。前世はどっちかっていうと文系だったし。桃香と同じ部活で汗を流すのも、楽しかったので、続けたい気持ちもなくはなかった。
でも、続ければ高校で津南見と出会う。小学校での練習試合は仮病で休み、その後も徹底して津南見との遭遇を避けてきた。それでも、津南見のいる剣道部に入って、桃香のいない1年を過ごして、もし、心が引き摺られてしまったら…? 真梨香に設定された剣道の才能のように、真梨香の津南見への想いが「私」の中に芽生えてしまったら…?
それだけは、だめだ。絶対に。
だから私は中学3年を最後に剣道をやめた。実は桜花への入学直後に、剣道部の女子の主将からは声もかけられたが、断った。
「本当に強いのは桃香です。私は応援したり、見守ったりする方が性に合ってるんです」
殆ど本当、ほんのちょっぴりの嘘をつく。篠谷とそんな話をしていると、出番を終えた津南見が舞台袖に引いてきた。
「あ…」
私と目が合うとあからさまに動揺の色を浮かべる。こんなにビクビクしていて、女性恐怖症が周りにばれていないのが解せない。今のところ彼の周囲の評価は女性嫌いの生真面目で堅物なスポーツマンとのことだ。真実を知る身としては残念過ぎて笑ってしまう。ほんとう、『真梨香』はこんな男のどこが良かったのだろう?顔か?
「津南見先輩、先ほどは失礼しました。体調が良くなかったようですが大丈夫でしたか?」
「あ、ああ…。いや、俺の方こそ失礼した」
「いえ、こちらこそ。これから妹がお世話になりますのでよろしくお願いしますね」
恋愛的な意味では全くお世話してほしくないが、通常の部活動の上では津南見は優秀な主将だ。その指導力や面倒見の良さだけは評価に値する。
私が頭を下げると、津南見も真面目な顔になった。
「ああ、葛城妹は優秀な選手だ。体格や膂力は小さいが素早さと打ち込みの鋭さは目を見張るものがある。女子部のエースになれるだろう」
「はい。自慢の妹なんです」
自慢の妹は脳内では『自慢の嫁』に変換されている。私の嫁だからな、手を出すなよ。という怨念を込めて津南見に微笑みかけてやった。何かを察したのか津南見の顔色が悪くなったようだったが気にしない。
「…葛城、その…」
「副会長、すみません、進行が少し押しているみたいで、最後の方の部活の時間配分が…あ、お話し中ですか?」
執行部の子があわてた様子で駆け込んできて、私と津南見と篠谷を見て、口を押える。
「いえ、大丈夫よ。後半の部活の方々の控室へ行って、少しずつ巻いてもらうようお話ししましょう」
部活動の説明会にはほとんどの場合3年生が出てくる。生徒会からお願いに行くのなら、2年生とはいえ会長か副会長が出向くべきだろう。会長にはこの場で進行を見ていてもらわなくてはいけないので、必然的に交渉役は私だ。
「それじゃあ、ちょっと出てきます。篠谷会長、こちらはよろしくお願いします。津南見先輩、失礼します」
そのまま急いで舞台袖から出た。津南見が何か言いかけてた気がするが、生徒会の用事なら篠谷でも大丈夫だろう。それより今は無事部活動説明会を終了させなくては。
私は執行部の子と共に、控室へと走った。
放課後、生徒会室で今日の反省会や、明日以降の行事に向けての書類仕事などを終えると、私は生徒会室を出た。桃香の方も今日から部活動が本格的に始まったので、まだ残っているはずだ。ちょっと見に行こう。あわよくば一緒に帰ろう。
思えば小学校と中学校はほぼ隣接されているような場所にあったので、その頃はずっと一緒に登下校していたのだ。私が桜花に入ってからの1年間の登下校は本当に寂しかった。これからはできるだけ一緒に登下校しよう。もう流石に手は繋いでもらえないだろうが、並んで歩いて他愛もないおしゃべりをしながら歩くだけでも幸せだ。
そんな妄想をしていた所為か、武道場へ向かう途中で職員室から出てきた学生とぶつかりそうになった。
「わっ!?」
「失礼。っと、葛城か。今日はもう終わりか?」
危うく転びそうになった私を軽々と支えたのは、3年生の風紀委員長、菅原棗だ。黒く艶のある髪を前髪を分けて額を出して、切れ長の黒い瞳にフレームレスの眼鏡をかけている。見た目は堅物そうな近寄りがたい印象をしているが、面倒見がよく、苦労性の一面もある。
もちろん、見た目の美しさからも分かる通り、ゲーム上では桃香の攻略対象だった人物だ。今のところ、桃香と彼の出会いイベントは起きていない。
「ええ、これから妹のところに行くんです。一緒に帰ろうかと思って」
篠谷がまた送るとかとち狂ったことを言わないうちに今日は逃げてきた。
「ということは篠谷ももう帰っちゃったか? 目を通してもらいたい書類があったんだが」
「まだ急げば生徒会室にいると思いますよ」
今日の各クラスのLHRで提出された執行部志願の子たちの志望書類、(履歴書みたいなものだ)をチェックする作業を押し付けてきたのだ。なんて言ったって志望動機の9割が会長目当てだ。当人に目を通してもらって選別する方が余計な恨みを買わずに済むだろう。
「そっか。サンキューな」
菅原がそう言って手を振りながら立ち去るのを見送っていると、肩にずしりと重量がかかってきた。視界に派手な色のパーカーの袖がだらりと垂れさがっている。
「……小林檎宇くん、重たいのだけど」
「お姉さ~ん、何してんの~?」
聞けよ。
後ろから肩に手をかけてのしかかってくる不思議ちゃんにやんわり注意してみるが、スルーされた。この巨大なお子様は基本人の話を聞いてない。行動も気まぐれで何をするかわからない。
設定資料によれば彼は本名、姫林檎宇、学園の上層部ともつながりのある極道、姫林組の跡取り息子だ。けれど、本人は後を継ぐのが嫌で、奇行を繰り返し、腹違いの弟に跡を継がせようとしている。
ゲームでは小林のルートは家を捨て桃香と逃避行にはしる駆け落ちエンドと、家族と和解し、更に桃香がその芯の強さを認められ、姐さんなどと呼ばれてしまったりしている大団円エンドがあるが、もちろんどちらも御免こうむりたい。
この男はともかく、桃香には家族を捨てることを望むような理由はない。駆け落ちエンドで桃香が家族と絶縁を決意するのは、家族に迷惑をかけまいとする気遣いからだ。だが私からしてみれば、迷惑がかかろうが、どうなろうが、桃香に縁を切られる方がつらい。かといって、桃香が極道に家に嫁ぐかもしれないルートも賛成はできない。
この男の奇行や不思議キャラは演技だ。それを知っている身としては、こいつの言動はすべて胡散臭いとしか思えないのだが、あえて気づかぬふりをする。
私の目的はこいつのルートに桃香が入ってしまうのを防ぐことであって、こいつの心を暴くことじゃない。
「生徒会の仕事が終わって、妹の部活を見に行くところよ。君は何をしてるの?」
「ん~? 部活見学。でもあんまりおもしろそうなのなかったから~。やっぱお姉さんのところが一番いいな~」
「執行部に入りたいならまずは服装を改めないと駄目じゃないかしら」
「それはやだ~」
「じゃあ、諦めるしかないわね。ところで、何度も言うけどお姉さんって呼ばないで。私はあなたのお姉さんじゃないし」
お義姉さんになるつもりもないし。心の中で呟きながら、何度めかの注意をするが、不思議ちゃんはきょとんとするばかりだ。
「え? でも年上の女の人はお姉さんでしょ??」
図体のでかい男が可愛らしく小首をかしげないでほしい。前世でのゲームプレイ時、このギャップがいいと騒ぐ女子を多数見かけたが、実際目の前でやられると、無性に叩きたくなる。演技だと知っているからなおさらだ。
「とにかく、私の事は名前にさん付けか先輩と呼んで頂戴」
「名前? そういや何だっけ?」
今日のオリエンテーリングでも自己紹介はしただろう。本当は覚えているはずだが、指摘はしない。天然ごっこに付き合ってやる。
「葛城真梨香。あなたのクラスの葛城桃香の姉よ。だから私をお姉さん、もしくはお姉ちゃんって呼んでいいのはあの子だけなの」
「あ~、小猫ちゃんのお姉さんか。そういやあの時の小猫どうなった??」
「飼い主が見つかって引き取ってもらったわよ」
ていうか、桃香を小猫ちゃんと呼ぶのもやめろ。睨み付けたら『じゃあ、真梨香お姉さんと妹ちゃんで。』とか言ってきた。『お姉さん』呼びはやめる気ないのか。思わずため息が出る。そんな朝の教育番組の体操だか歌だかの担当者みたいな呼び方はご遠慮したい。
「先輩じゃダメなの?」
「みんなと同じ呼び方だと~、呼んだとき俺だって気づいてもらえないかもでしょ~」
「まずその喋り方で気づくから大丈夫よ」
そもそも小林に呼ばれたからって一発で気づく必要ない気もするし。
「本当? すぐに俺に気づいてくれる~?」
「むしろお姉さんなんて呼ばれる方が気づいても気づかないふりをしたくなるわね」
「ちぇ~。じゃあ真梨センパイで」
やっと妥協してくれた。この会話の間も、小林は私の肩に伸し掛かったままだった。重いって言ってるのに。
「そんで~? 真梨センパイどこ行くの~?」
「さっきも言ったと思うのだけれど、桃香を迎えに行くのよ」
本当は部活してるところを少し見ようと思ったけど、こいつの所為で余分な時間を使ってしまった。もうそろそろ活動も終わって着替えに向かっている頃だろう。
「妹ちゃんのところか~。俺も行っていい?」
「だめ」
ついてこないでほしいし、妹に近付かないでほしいし、ついでに重いのでじゃれつくのをやめてほしい。正直にそれを伝えると、小林はぶ~っと口を尖らせた。いい年した大の男が子供みたいな拗ね方をするんじゃない。
一緒に行きたいと駄々をこねるおんぶお化け状態の小林にをどうしたものかと半ば引きずるように連れて歩きながら考えていると、前方から助けになりそうな人物が歩いてきた。両手に資料らしき束を抱えている。
「栗山先生! お宅の生徒が重いので引き取ってください!」
桃香とおんぶお化けの担任、栗山幸樹。教師とは思えないほどの童顔で、常に八の字の困ったような眉毛をした栗山は、その可愛さから女子生徒からアイドルか愛玩動物のような扱いを受けている。しかし、中身は意外としっかりしており、教師としての能力も高い。去年は私と篠谷のクラスを受け持っており、私たちの喧嘩の仲裁もしてくれていた。
この人は攻略キャラではない。そういう意味でも私が安心して近づける人物だ。
「小林君?! だめだよ。そんなにしたら葛城さんが潰れちゃうよ!」
「ええ~、真梨センパイ潰れそう? マジ?」
「潰れるかはともかく、重いとはさっきから言っているわね」
「ぶ~」
「ぶー、じゃなくて、葛城さんの肩から降りて。ごめんなさいして!」
「ごめんなさあい」
幼稚園かここは。
ともかくやっとどいてくれた。栗山先生はなぜか問題のある生徒でもおとなしく従ってしまうと評判で、去年あたりからは猛獣使いと裏で呼ばれているらしい。……なんか引っかかるけど、まあいい。
「助かりました。栗山先生。ご挨拶が遅れましたけど、今年は妹をよろしくお願いします」
「いや、無事でよかったね。小林君も悪い子じゃないから、あんまり怒らないであげてね」
「怒ってはいません。困ってはいましたが。ついでにこのまま小林君をおとなしく帰らせてください。私は妹のところへ行くので」
「はい、それじゃあまた。小林君、ちょうどいいところにいたので、これを運ぶのを手伝ってください」
「ええ~~! やだよ~重いもん~」
「さっきまで葛城さんの重しになってた罰ですよ」
「ちぇー。それじゃあ真梨センパイまったね~」
やっかいな不思議ちゃんを栗山先生が連れて行ってくれたので、やっと肩の荷が文字通り降りた。
ふっと息を吐くと肩の力が抜けるのが分かる。行動の読めない攻略キャラと接していて、自分で思っていたよりも緊張していたらしい。
気を落ち着けてから、小林のルート回避について再度考える。
小林ルートはサボり魔の小林を教室へ連れ戻すため、通常の行動選択で桃香が屋上を中心に彼のサボりスポットを行き先に選ぶこと、そこでの会話で好感度の上がる選択を選んでいくことでサブイベントが発生し、ルート分岐に影響を与える。
今のところ通常授業は始まってはいないが、彼がサボっていても桃香が呼びに行ったりすることが無いようにできればいいんだけど…。いっそのこと生徒会執行部に入れて、授業をさぼらせない、というのはどうだろうか。見たところ、栗山先生の言うことを聞いて書類運んでるし、案外ちゃんと働くかもしれない。ある程度放課後の動きも制限できるし、監視しやすいともいえるし。
でも、そうなると私の方と接点が増えるんだよな…。今日の会話だけでもかなり疲れた。四六時中あの調子で絡まれると正直面倒だな…。うっかり演技を暴いてしまいそうだ。
そんなことを考えているうちに昇降口に着いていた。桃香の部活もそろそろ終わるころだ。私は急いで剣道場へ向かった。
剣道場手前の部室でちょうど着替えて出てきた桃香に出くわした。
「お姉ちゃん!」
パタパタと駆け寄ってくる姿は子犬が尻尾を振ってかけてくるみたいで、愛くるしい。思わず抱き止めて撫でまわしたくなる。癒されるなあ、さっきまで図体のでかいのに潰されかかってたから余計にいとおしいなあ。
そんな脳内はおくびにも出さず、桃香が目の前で止まるのを待つ。
「桃香、ちょうど終わったところでしょ? 帰りましょう」
肩を並べて歩き出す。ふと、男子剣道部の部室から出てきた津南見と目が合った。軽く会釈だけして背を向ける。
渡すべき花がなく、受け取る器もないいま、津南見と桃香の絆は折れたはずだ。真梨香にとっても、今の津南見はただの妹の部活の先輩、それだけだ。罪悪感がないと言えば嘘だけど、津南見では真梨香は幸せにはなれない。桃香の事も任せられない。だから私は今後も彼にだけは関わらない。
そう思う一方で、他の攻略キャラと桃香のことも、今後邪魔し続ける自分を思うと、罪悪感が強くなる。私が桃香の恋を邪魔するつもりでいることを、桃香が知ったらやっぱり怒るだろうか。姉として桃香の気持ちを尊重して見守るべきなんだろうか…。
黙り込んでしまった私に、桃香は何を思ったのか、腕にしがみついてきた。
「お姉ちゃん! 元気がないけど、生徒会、忙しいの? あんまり無理しないでね!」
どうしよう、天使がいる。可愛い顔で可愛いこと言いながら可愛い仕草で私を萌え殺しにかかってくる。神様ありがとう、お巡りさん、私です。思わずぎゅーっと桃香を抱きしめ返す。セレブ校な我が桜花学園の運動部部室には備え付けのシャワールームがあり、桃香も浴びてきたのだろう、ほのかなシャンプーの香りがする。
「桃香のおかげで元気出たわ! ありがとーーー!!」
「きゃー! お姉ちゃん痛い痛い!」
私たちははしゃいでふざけあいながら帰路に着いた。
そして私は決意を新たにする。
やっぱり桃香は私の嫁!これぞ姉妹仲良しイチャイチャライフ! こんな可愛い私の嫁を他の男に譲るなんて言語道断。明日からもフラグ折りを頑張ろう!